第969話 ストレス性胃炎の原因は?
森田祐一は比較的がっしりした男性だった。
まあ、霊の姿が正確に生前の姿通りになるとは限らないのだが、大体は本人の自己認識ってそこまで極端に現実から離れない事が多いから、多分この肉体労働者ですと言われた方が良家のお坊ちゃんですと言われるよりは納得いきそうな見た目に間違いは無いのだろう。
一緒にいる姉と婚約者側も極端に意外そうな表情を見せていないし。
考えてみたら、この2人のうちのどちらかが祐一氏を殺していたんだとしたら報復に暴れる可能性があってヤバかったんだが、大丈夫なのかな?
先に確認しておくのを忘れてた。
流石に面と向かって『あなたは被害者を殺してますか?』とは聞けないが、さらっと記憶を読めばこれだけ直近の事件であり、被害者を喚び出すなんて言う行為をするとなれば表面意識にもそれなりに殺人に関連する考えが出ている筈だから分かる筈。
流石にこの状況で被害者を殺したのを意識しないほどの精神異常者だったら魂が露骨に歪んでいて感じ取れると思うし。
前世では、殺人者がいる場でその人間に殺された被害者の霊を呼び出すと霊が暴走して害を及ぼす可能性があると言うのは常識として広く知られていたから、殺人者なのに被害者の霊を喚び出すなんて言う危険なことを依頼するバカは居なかった。
だから殺された人の霊を喚び出す依頼を受けても特に用心する必要性は無かったし、喚び出しに立ち会うバカな殺人者が居て被害者の霊に殺されても自業自得で済んだんだけど、今世ではそう言う知識も世間に常識として認識されてないからねぇ。
喚び出した霊が依頼者を害した場合、退魔師に責任を問われるのか微妙に不明だ。
殺人者側が自分の無実を主張する為に、喚び出した霊を制御していた退魔師が嗾けて害を加えさせたのでは無いかとイチャモンを付けられたら面倒だ。
流石に退魔協会はそこら辺の事情を知っていると思いたいが。
まあ、ヤバそうだったら霊を命令で縛ってからガッツリ証拠を聞き出して、さっさと還してしまおう。
上手くいきそうになかったら問答無用で還すしかないね。
そう思いつつも、依頼者側二人の表面意識にクルミを飛ばしてそっと触れたが、特にヤバいことは考えていなかったので大丈夫そうだ。
多分。
姉の方は何故か勝ち誇った自慢げな想いが溢れているけど。
弟が死んでザマアミロ的な事を考えているのってかなり人が悪くない??
まあ、それはさておき。
「森田祐一さん。
自分が何に殺されたのか、知っている事を全て教えて下さい」
喚び出した霊に丁寧語を使う必要は無いんだけど、偉そうに上から目線な命令形で話しかけると家族や婚約者が不快に感じる可能性が高いからね。
別に不快な思いをさせた所で依頼の報酬は変わらないしクレームを付けられる謂れもないんだけど、家族や大切な人を隷属させられた姿を見せつけて嫌な思いをさせる必要はないから丁寧に話しかける。
『いつもの大麻入りラムネを一握り噛み砕いて飲み込んだら、数分後に焼ける様に胃?が痛くなって意識を失ったんで、それなんじゃないか?』
ぼそっとした感じに祐一氏が答えた。
おいおい。
麻薬をやっていたの??
大麻は比較的効果が緩くて合法化している国も多くなってきていると聞くが、結局あれって合法化しておかないと欲しがる人が違法な業者から大金を払って買うせいで、裏社会に国が管理(と課税)が出来ない金が流れ込むのを嫌がって合法化しているだけでしょ?
ガチな麻薬ほど危険性は無いかもだが、結局のところはタバコや酒と同じで疲れた人が寄り掛かる杖に近い効果と中毒性がある訳じゃない。
違法だとされている日本で大麻に手を出す様な人は、そのうちもっと強いクスリにも手を出す様になるんじゃ無いかねぇ。
まあ、体つきはしっかりしているから重度の麻薬中毒では無かったんだろうけど・・・霊の姿は本人のイメージだから、死ぬ前が本当にこう言う姿だったかは不明だしね。
「大麻?!」
婚約者の芹香さんが愕然とした声を上げた。
『ちょっとしたストレス解消用だよ。
胃痛用の薬よりよく効くし毎日飲まなくて済むからマシだって姉貴に教わったんだ』
祐一氏が芹香さんに説明する。
お。
姉君の方はそのセリフは言って欲しくなかったようだねぇ。
どうやら長男が麻薬に嵌まっていたと貶めるのはOKだが、それに自分が手を貸していたと知られるのは不味いのか、ギリっと亜希菜さんが祐一氏を睨みつけた。
でも、流石に退魔師を雇おうと言い出すだけあって、召喚された霊が自発的には嘘をつけない事は知っているのか『嘘をつくな!』とは騒がなかった。
以前の親の仇を嵌めるために自殺した女性の様に、嘘じゃ無いけど誤解を招く言い方を意図的にするのは可能なんだけどね〜。
とは言え、大麻を胃痛用に使えと勧めたって言うのは言い回しで変えられる情報じゃあ無いし、どうもこのお姉さんは弟のことを快く思っていなかったっぽいから大麻に嵌まってそのうちもっと酷い麻薬中毒になれば良いと思っていた可能性は高そうだ。
と言うか。
遺体の解剖時に麻薬中毒だって分からなかったのかね?
軽度な大麻の使用程度だったら、しっかり調べないと分からないぐらい痕跡も出ないのかな?
体内が爛れて溶けていたって言う死因に直接は関係なさそうだしね。
「ちなみに、悪霊に祟られたり呪詛を掛けられた心当たりはありますか?」
取り敢えず、そっちが私らが雇われた理由だからね。
まずは確認しないと。
『ここ2、3年ほどストレスで胃痛に悩まされてきたが・・・あれって呪いか祟りなのか?』
祐一氏の霊が首を傾げながら聞き返してきた。
どうなんだろ?
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