呪詛返しも怖い

第967話 割引制度もないんだ?!

「怪死事件、ですか?」

碧が退魔協会からの電話に聞き返した。


『ええ。

家で倒れた後に救急車で病院へ運ばれた後にお亡くなりになった方なのですが、遺族の強い希望で外部専門家による検死解剖したところ体内の状態が・・・半ば溶けたような焼け爛れたような異様な状態だった事が判明しまして。

呪われたのだと姉の方が強く主張した結果、家族の方が退魔協会へ死者の霊の召喚を含めた調査依頼を出してきました』

職員が淡々と教えてくれた。


溶けて焼け爛れた感じって・・・強力な霊障や呪詛でもあり得なくはないかもだけど、それって退魔師が術を使って被害者を殺した可能性の方が高くない??


下手をしたら依頼された退魔師が殺人犯だったり殺人犯の関係者だったりする可能性もありそうだけど。

まあ、家族が呪いだと思っているんだったら普通に退魔協会に調査依頼をするか。


「遺体の確認と死者の霊を召喚して何が起きたのかの質疑応答は可能ですが・・・被害者が何が起きたのかを知らなかった場合は答えを得られませんし、呪いでなく誰か生きた人が殺したのだとしても霊の証言は裁判で使えないと言うことは依頼人は分かっているんですよね?」

碧が確認する。


そうだよねぇ。

犯人は誰それだって被害者の霊が言ったところで物理的証拠が見つからなきゃどうしようもないし、加害者側が拒否した場合は何らかのちゃんとした理由がなきゃ家宅捜索も令状が出なくて証拠集めすら出来ない可能性がある。

『霊が言った』だけでは家宅捜索の令状を取れないのをちゃんと家族に前もってはっきり説明しておいて貰わないと、高い金を払ったのに依頼人にとって不満ばかりが募る結果になりかねない。


と言うか、霊に尋ねて犯人が分かって、でも起訴できなかった。じゃあ、被害者の家族が加害者を殺す!なんて事が起きたらそれはそれで問題だろうし。


大丈夫なんかね?


『呪いだとしても誰が呪ったのか分からない可能性がある事も、生きた人間が仕組んだ事だとしても証拠が見つからずに不起訴になる可能性も高いことも、しっかり説明して合意書に捺印して貰っています』


流石退魔協会。

既に合意書に捺印して貰ってるんだ。

この場合って殺人者が実は退魔師だったなんて事が分かっても、退魔協会を訴えないと言う項目もこっそり含まれていたりするのかな?

まあ、流石に露骨には書かないだろうけど。でもきっと訴訟を起こされても対抗できるように文言を練ってあるんだろうなぁ。


「ちなみに、呪いや悪霊による祟りが原因だった場合、その大元の呪師や悪霊への対処も依頼の一部なのですか?」

既に死んじゃった人の死因が呪詛だと分かったとしても、遺体を使っての呪詛返しは出来ないよ?

そうなると大元を探すのも大変だし報復だって合法的には難しい可能性が高い。


『取り敢えず、現段階の依頼には含まれていません。

こう言った依頼の場合は判明した結果によっては二次的な調査や対処を依頼される事もありますが、そちらも受けて頂けそうですか?』

職員が聞いてきた。


「現実的に何とか出来そうな場合は普通の報酬が出るならやってもいいけど、探すのが至難の業だったり、対処が現実的に難しい場合はお断り寄りな要相談ってやつになるわね」

碧が応じる。


『分かりました。

取り敢えず、現時点でわかっている確認依頼に関してはお受けして頂けると言うことで良いのですね?』

職員が確認してきた。


「良いわよ」

私が頷いたのを見て、碧が応じた。

夏休みだし、そろそろ依頼が来るかな〜と思っていたしね。

ちょっと珍しいケースっぽいから興味深い事件かも?


◆◆◆◆


「そう言えばさ、警察の方からこう言う怪死事件に関しての捜査依頼って来ないの?」

自然死じゃなければ犯人探しは基本的に警察の責任だろうけど、こう言う場合ってどうなるんだろ?


「退魔師なんて怪しい詐欺師まがいって思っている警官が多いからねぇ。警察にとっては退魔師に事件の解決を依頼するなんてほぼあり得ないかな。

実際に霊障詐欺の被害に遭った人とかも対処しているから、詐欺じゃない真性の退魔師にも態度が悪い警官って多いのよ。

だから田端さんみたいな退魔協会に派遣されている連絡員経由で入った案件以外では、基本的に警察が退魔師を頼ることは殆ど無いわね〜。

やばそうな魔法陣とかがあったら呪詛か?!ってビビってSOSを出してくる事はあるけど」

碧が肩を竦めながら言った。


「でもさぁ、犯人が誰かわかった状態で捜査したら大分と作業が楽になるじゃん?

遺族を唆して被害者の霊を呼び出させようとする警官っていないの?」

殺人事件の解決率って評価に関わりそうなもんだけど。


「退魔師に頼った時点で評価はゼロかマイナス、しかも退魔協会の依頼費は依頼を出した遺族が払う羽目になるから、そこを上手く言いくるめられる警官は少ないみたいね」

碧が言った。


ああ〜。

確かに何十万円もするんだったら、警察としても自分たちの捜査が行き詰まったから犯人探しの為に被害者の霊を呼び出しましょうって遺族に提案しにくいよね。

死者に聞けば良いんだったら何のために警察がいるんだって突っ込まれそうだし。


殺人事件の被害者用割引でも退魔協会が提供すれば良いのに。


まあ、単純な金や愛憎の縺れじゃない殺人事件となったら政治家とかが関わっている場合も多そうだし、そう考えると割引の為の税制度とか支援金を出すどころか、死者に聞くって言うのを敢えてやり難い様に法整備している可能性が高いかも?


さて。

今回の事件は誰が加害者なんだろうね?







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