第960話 誘導するにも意識がないとねぇ

結局、私が口を挟む必要も無く金子父娘は色々と話し合ってそれなりに相互理解して別れる事ができた。

ちなみに肝心の絵に関しては母親の恵さんが画商のリストとどの絵がどの画商に預けられ、どれがいくらで売れたかを全て分かっているとのこと。


今度、残っている家族3人で集まってそこら辺を話し合うと共に、どこまで郁人さんの健康管理を誰が責任を持ってどんな事をするのかを決めることにしていた。


今は東京で働いている麻衣さんが在宅で働く日も含めて週の半分ぐらいを諏訪へ戻って過ごしつつ郁人さんの面倒を色々と焼いているみたいなのだが、まずそれを週1なり2週間に1度程度なりに減らしても郁人さんが餓死しないようにするにはどうするかを決めようと父娘で話し合っていた。


と言うか。

麻衣さんの双子の兄って事は、私らより年上って事でしょ?

いくら芸術家だと言っても、ちょっと甘え過ぎだよねぇ。


まあ、まだ麻衣さんの私生活が完全に犠牲にされて手遅れになる前に問題が問題として本人に認識され、解決に向けてのアクションの必要性も納得できた様なのでなんとかなると思いたいところだね〜。


ちょっと疲れたので金子(父)を還した後にお茶とケーキを食べ、我々は帰路についた。



「なんかさぁ、家族に甘えて自分の健康の自己管理を投げているような甘ったれって意識誘導とか条件付けでしっかり責任ある大人として動く様に矯正できないの?」

家に帰って、麦茶を飲みながら碧が聞いてきた。


「意識誘導って覚醒している意識を誘導する術だから、寝ているのをピシッと決まった時間に起きる様にするのは難しいんだよねぇ。

夜更かししないように誘導するのは可能だけど。

食事をちゃんと食べるようにするって言うのも、絵を描くのに夢中になって空腹感を感じないタイプだと難しいし」

時間を確認する習慣の無い人間に、『朝の7時、正午、夜の7時になったら食事を食べたくなる様に条件付けする』って言うのは意外と難しいんだよねぇ。

時間を見ていない人に決まった時間で何かをさせるのも意外と厳しいし。

条件付けをキツく埋め込みすぎると、四六時中時間を気にする変に神経質な人間になっちゃうんだよね。


「こう、生存本能を強くしてしっかり自己管理しなきゃ死ぬ!って危機感を無意識下に感じさせる訳にはいかないの?」

碧が聞いてきた。


「可能だけど、それってやりすぎると精神異常を起こしかねないから、側でしっかりモニターしてやり過ぎになっていないか確認出来るんじゃない限りちょっと危険かなぁ。

それに生存本能を強めるって要は死への恐怖感を強めるって事だから、芸術家にやると創造的活動に支障が出るかもと思うと躊躇われるんだよね」


創造的活動っていうのが芸術家にとってどんな衝動に基づくのか知らんけど。

だけどいつ死ぬか分かったもんじゃない!って常にビクビクしていたら、呑気に綺麗な青空や森の絵を描こうとは思わないだろうから、絵の作成速度は下がりそう?

もしくは作風が変わっちゃうとか。

・・・郁人さんの絵がモダンアートちっくな苦悩とか死を思い浮かべる様な暗いタイプなら死への恐怖を煽った方が上手くいく可能性もあるけど。


ただまあ、出来れば折角だから見て気持ちが良い絵を描いていて欲しいねぇ。

それで売れるかは知らないけど。


「なるほど。

じゃあ麻衣さんの過保護な性格を修正した方が無難かな?」

碧が肩を竦めながら言った。


「ちゃんと当事家族3人が話し合って決めて、母親あたりが想定通りに合意した内容にそって息子が生きているって確認出来るならそれが一番だよね〜。

郵便受けがずっと一杯なままだからと確認を要請する電話を受けて行ってみたら腐乱死体があったなんて事になったらトラウマ物だろうから、取り敢えずは今回の流れで良いんじゃない?」

麻衣さんが無事に兄離れ出来るか次第だけどね。


双子ってただでさえそれなりに関係が複雑になりそうなのに、片方が健康でもう片方がひ弱だと、どうしても健康な方は罪悪感を感じそうだ。

これで実際に郁人さんが死んだりしたらマジで人間関係が拗れそうだし、取り敢えずは手を出さずに文明の利器と話し合いで上手くいくことを期待しつつ見守るのが一番じゃない?


また年末あたりにでも諏訪に行った際に確認してみても良いしね。


ある意味、金で解決出来るんだったらそれで介護人みたいのを雇って郁人さんを見張るのだってありだろうし。


・・・今時の人手不足なご時世じゃあそんな人を探すのが難しいかな?

まあ、なる様になるでしょう。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


これでこの章は終わりです。

明日はまた1日お休みにしま〜す。

なんか1章終わる毎に休むのってかなり頻度が高い感じですね・・・。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る