第959話 老後も長い
「父さんが郁人の絵を売る手配をしていたなんて・・・」
麻衣さんが愕然とした様子で呟く。
普通、資金援助していた我が子の絵を回収していたなら、自分用にギャラリーを作ったって言うんじゃない限り売り先を探している可能性は高かったんじゃない?
麻衣さんが何を想像していたのか知らないけど。
『郁人だって大切な息子だ。
大切な娘であるお前と同じぐらい郁人の将来だって気にはしていた。だがお前は自力でガンガン道を選んで進んでいたのに対し、郁人は絵さえ描ければ良いと自分の健康管理すら自発的にやろうとせん。
いつまでもそんな郁人を甘やかすのが正しいとは限らないだろう。
親が子供を甘やかしすぎて自立させないのは優しい虐待と言うんだぞ?
お前がいつまでも郁人の面倒を見ようとして甘やかすのだって、ある意味あいつの自立を阻害しているとも言える。
もしも郁人が老年まで生きられるとして、あのままじゃあ結婚だって難しいだろう。
あいつに子供がおらず、お前も子供を産んでいなかったら2人とも誰も若い親族がいない事になりかねん。
いつまでも成人した兄のことばかり気にしていないで、いい加減麻衣も自分の私生活を真面目に考えなさい』
金子(父)が諭す。
自分の双子の兄の老後の世話を見させるために子供を産もうと考えるって言うのもちょっと微妙だと思うけどね。まあ麻衣さんの老後の為にも、病院とか引っ越しとかなんだかんだと親族の身元保証人を求める日本では次世代がいる方が良いのは事実だろう。
少子高齢化が進んだら、色々とサービスが開発されて今ほど不便ではないだろうけど。
現時点だと高齢者になると若い親族とかが一緒に説明とかを聞きに行かないと、病院で必要な手術すらしてくれないって話だからねぇ。
兄貴たちが無事に結婚して子供が出来たにしても、北海道に住み続けるだろう事を考えると・・・私の老後なんてかなり心配かも。
流石に碧や翔くんにそこまで頼るのは申し訳ないしなぁ。
第一、親族じゃないとその点もぐだぐだ病院で言われそうだし。
50年とか60年後にはそう言う身元保証サービスを請け負う信頼できる事業がそれなりに揃っているとは期待したいけど、60歳になってどっかと契約して、90歳で死ぬとして30年間もちゃんと事業を続けているかなんて微妙に不明だからなぁ。
それこそ、今ですらバブル期から30年間ちょっとってところなのだ。
そう考えると30年って長い。
少なくとも私と碧の魔術があれば認知症だけは心配しなくて良いのは救いだけどさ。
碧がいれば脳の劣化を治せるし、碧がそばに居なくて私だけだとしても・・・体が劣化して脳細胞から魂が半ば離脱して認知症になってきたら、諦めて死ぬ様にどっかブチっと神経を破壊するって解決策が可能だ。
何処でそれをやるかが微妙に難しいけどねぇ。
自分の持ち家なり借り家なりでやると事故物件になっちゃったら資産価値が下がるし、かと言って公園でやろうとしても見回りのお巡りさんとかに邪魔されたら面倒そうだ。
それとも、ちょっとした郊外の公園だったらお巡りさんの見回りなんて滅多に無いのかな?
実家の方なんて首都圏とはいえちょっと郊外で交番の数だってかなり少なかったから、あれで周辺地域の公園を全部お巡りさんがパトロールするのはかなり厳しいだろう。
もしくは自分の車があるならその中って言うのもあり?
車は誰かが中で死んでいても諦めてスクラップにしちゃえば良いよね?
不動産は事故物件にして流通から外しちゃうのって勿体無い気がするけど、車はどうせ車検の時期とかで案外と破棄されることが多いらしいし、構わなそう?
そんな事を考えている間も父娘の話し合いが続いていた。
「だけど郁人を放っておいたらそのうち腐乱死体で見つかりそうで・・・」
麻衣さんがボソボソと呟く。
流石にそこまで行く前に生存本能が機能すると思いたけど・・・それこそ夢中になって碌に飲み食いせずに絵を描いていて熱中症で死ぬなんて事もあり得るのかな?
『今なら遠距離の老人見守り用のサービスや家電製品が色々あるだろう。
この機会に一度しっかり恵と郁人と三人で話し合って、どの程度なら郁人の健康管理を本人に任せられるか、任せられない分は金を払って強引に食事をさせる権限を与えて無視したら絵の具を捨てる許可を与えた家政婦を雇うなり、冷蔵庫の扉を1日1回以上開かなかったら連絡が行く様なのを買うとか、工夫しなさい。
今まで売れた郁人の絵のお金は生活費の足しにしてある。あいつの生活と絵画にどれだけの金がかかり、いくら収入があったか、そして金子家の遺産についてしっかり数字を見て麻衣の労力に無駄に頼る現状を改めなさい』
深い溜め息を吐きながら金子(父)が言いきかせた。
なんか普通の霊の呼び出しってこっちが色々と質問をして霊の方はかなり受け身に答える事が多いんだけどねぇ。
今回は・・・死んだばかりだからか、もしくは気掛かりな心残りが多かったのか、金子さんの父親はかなりリーダーシップを発揮するタイプな霊だ。
まあ、これはこれで良いのかも?
どうやら麻衣さんはちょっと現実がしっかり見えてなかったみたいだし。
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