第956話 色々と状況が読めない
「ありがとね〜、碧ちゃん。
やっとあの毒親から郁人の絵を何処にやったか聞き出せる!」
碧の近所の知り合いとの事だからまた諏訪に行く必要があるのかな〜と思っていたら、数日後にその女性に都内のレストランでの食事へ招かれた。
碧曰く、そのお姉さんは大学進学するのに東京に出てきており、就職もこちらでしていたんだそうだ。
就職と言うか、何やら在学中に起業したとかで今もそれなりにバリバリやっているっぽい。
まあ、考えてみたら私らだって名目上は『在学中に起業』してそこそこ稼いでいるんだけど。
バリバリって言う認識は無いんだよね。
だから自力で本当の(?)起業をした人にはちょっと気後れするかも。
考えてみたら、諏訪で行ける大学となると選択肢が限られちゃうだろうし、就職だって態々諏訪に戻って面接を受けるよりも東京でする方が選択肢が多い上に交通費も時間も節約できるよね。
そう言う事情のせいで地方の人口減がますます進むんだろうけど。
そう考えると、地方の大学が頑張るのって若い人をその地域に惹きつける為に重要な役割がありそう。
最近は東北大学が頑張っているって評判だけど、マジで田舎の大学がしっかり出来るように各地の自治体の首長とかが頑張って大学長とかをスカウトしてくるなり、自治体との連携した事業なり研究なりを進めるようにした上で、就職にも有利になるように支援するとかしないと人口問題は解決できなそう。
人口の首都圏集中に関して文句言うだけでは駄目だねぇ。
子育て支援とかで頑張れば良いんじゃね?とも思っていたが、考えてみたらまずは安定した仕事でまともな労働時間と収入が無ければ結婚すらしないだろうから、子育てなんて更に先の話だ。
それはさておき。
まずはこの女性(金子 麻衣さんだそうだ)の相談に応じないとね。
「毒親って言っても、郁人さんが絵を描けるようにおじさんがお金は出していたんでしょ?
絵の先生の費用も出したって聞いたけど?」
碧がサラダを食べながら指摘する。
・・・今回みたいなビジネスランチもどきってどっちが昼食代を出すのかな?
普通に割り勘なんだったらそれはそれで良いんだけど、お金のやり取りがある普通の仕事なのに接待されるのもするのも違う気がするんだけど。
なんか微妙に居心地が悪い。
「まあねぇ。
だけど郁人の体が弱いから美大は近くのじゃなきゃ駄目だって言い張るから、結局郁人は東京の美大に試験に受かったのに諦めて引き篭もって家で絵を描くだけになっちゃったのよ?!
あいつのせいで碌な奨学金を貰えそうになくなっちゃったし、マジでもっと早く居なくなってくれた方がマシだったわ!!」
憤懣とした様子で金子さんが言う。
いや、別に借金型の奨学金だったら親の収入に関係なく取れるでしょ?
と言うか、もしも体が弱いなら奨学金は無謀じゃ無い?
あれって授業料は出ても生活費は微妙って話だから、バイトに明け暮れなきゃ駄目なケースも多いと聞くし。
と言うか、そもそもちゃんと奨学金を貰えるだけ、成績が良かったの?
奨学金って成績による足切りもあるんじゃないかな?
美術系の才能って奨学金を貰うのに向いているとは必ずしも限らないと思うんだけど。
それに美術系って売れるまでどれだけ時間が掛かるか分からないんだし、卒業後に借金を返すことが求められる奨学金は却って資金繰りというプレッシャーを重くするせいで芸術家には向かないんじゃ無いかなぁ。
碧の友達と言うが、この金子さんって微妙に私と感性が合わない感じ?
まあ、仕事の相手だと思って淡々と依頼を熟せば良いか。
碧が依頼の後に金子さんと遊びに行くんだったらその際は適当な理由をでっち上げて参加を見送れば良いだろう。
「ちなみに、絵を強奪したって言っていたけどお金のやり取りはどうなっていたの?」
碧が尋ねる。
「一応毎回数万円は払っていたみたいだけど、基本的に毎月の家賃や生活費の代償だって事で殆どタダで持って行っていたのよ!
郁人の絵なのに!!!」
いや、無名の若い新人の絵なんて大した金にならないんだろうから、生活費と家賃まで全部払っている上に絵を引き取るときに数万円払っていたんだったら立派にスポンサー役を果たしてない?
「だったら麻衣さんが絵を買い取るなり、売る先を紹介するなりで郁人さんの生活費を援助すれば良かったのに」
碧が指摘した。
おや?
碧も金子さんの言動にちょっと嫌気がさしているのかな?
なんかこう、絵を描くだけで引きこもっている成人した兄とやらの面倒を父親が見るのは当然って感じで感謝の念が全く感じられないのって微妙に不快だよね。
確かに親が子の世話をするのは当然の義務とは言えるけど、成人しても引きこもってそれなりに値段のする絵の具や道具を使って絵を描くのを支援するのも『当然』と見做すのは部外者から見ると『ちょっと甘えてない?』って感じだ。
「郁人ったら私の為にタダで絵を描くのは良いし、プレゼントで誕生日のたびに毎年一枚贈ってくれるんだけど、頑としてお金を受け取ってくれないのよ。
せめて誰かに売るのを手伝わせてくれればいいのに、それも私が買っているのを誰かに口裏合わせさせているだけじゃ無いかって信じてくれないし」
グイッとグラスに入ったワインを飲みながら金子さんが愚痴る。
そりゃあねぇ。
起業したからって初期の資金繰りって事業の規模拡大に伴って綱渡り的になる事もあるらしいし、双子の相方の生活を面倒みれるだけの収入があるのって心配するのは当然でしょう。
絵だって普通の無名な画家のが高額に売れるとも思えないし。
なんか色々と分からん。
でもまあ、人の家庭内の軋轢に関して首を突っ込まない方が良いか。
さっさと食事を終わらせて、父親の霊を呼び出して質問を済ませてしまおう。
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