第957話 確かに健康管理は自己責任だよね

「金子 譲、ここに現れよ!」

麻衣さんが持ってきた本人のメガネとやらを使って金子(父)の霊を召喚する。

別にセリフなんて特に必要ないんだけど、一応それっぽい事を声に出す方が依頼主が喜ぶし心の準備が出来るからね。


ちなみに、ちゃんと血の繋がった娘が居るならば本人の持ち物を使わなくても召喚は出来る。

が、うっかり本人が知らされていない養子だったり托卵子だったりした場合は泥沼な展開になりかねないので、出来るだけ故人の身近に使っていた持ち物を持ってきて貰う事にしている。


まあ、娘が養子だとしてもそれなりに情を持たれて居れば血の繋がりがなくても縁として霊を呼べるけど、家族の情って想定外に薄い時もあるからねぇ。


特に父親って意外と子供に無関心な人も居るから。

母親でも貴族なんかだと血が繋がった子ですら縁が薄すぎて喚び出すのに苦労する事もあるけど、父親はねぇ。

下手をすると所有物扱いで、飼い犬やお気に入りの馬よりも縁が薄い事なんかもあった。


まあ、それでも基本的に何らかの縁はあるので喚べるけど。

消費する魔力量が依頼人に見えなくて良かった〜なんて思った事は前世で時々あったんだよねぇ。


マジで、場合によっては愛の反対は無関心なんだな〜って実感したものだった。

憎しみまくっている相手が全然興味がない場合ってマジで見ていて可哀想にって思ったもの。


まあ、それはさておき。

今回は問題なく金子(父)が現れたし、ちゃんと縁が麻衣さんとも繋がっているから血も情も繋がっている様だ。


娘の方は父親を毒親だと思って居たようだけど。


『麻衣か。

相変わらず郁人の世話を焼き過ぎているのか?

あれだってお前と同い年なんだ。甘やかし過ぎるなよ?』

麻衣さんを見た金子(父)が娘に告げた。


おや。

思ったよりもマトモな父親っぽいセリフじゃん。

こちらから質問されたらそれを答えるよう制約を付けて喚んでいるので、質問のやり方次第で色々と印象が変わる事もある。だが何も命じて居ない段階で勝手に喋る内容は本人が死ぬ前に思っていた想いの正直な発現になる。照れや見栄が無くなる分、ツンデレな頑固親父の本心がポロリされて皆で涙〜なんて事もあるんだよね。

まあ、反対に毒マシマシな悪口を可愛がっていたと思った家族から吐かれるケースもちょくちょくあったが。

どうやらこの『毒親』は真摯に麻衣さんの事を思って双子の兄へ対する過保護な姿勢を心配していたらしい。


と言うか、この父親はどう言う状況で亡くなったんだろ?

情報整理が出来ない様な状況で亡くなったみたいだから交通事故か何かかと思っていたんだけど。


「はぁ?!

郁人は体が弱いのよ?!

父親の癖に何を言っているのよ!!」

麻衣さんが半ば逆上しながら怒鳴る。

う〜ん、郁人さんとやらの扱いについては父娘関係での争点だったらしいね。


『あれの体質は私と同じだ。

子供の頃からしっかり医者に診せているし医学の進歩もあるんだから、私よりも恵まれていると言っていいだろう。

あいつがしょっちゅう倒れるのは自分の体を責任を持って管理していないからだ。

子供の頃ならまだしも、良い年した大人になったのにその責任をお前が負う必要はない。

ちゃんと健康管理をしないから倒れるなら、それは自己責任だ』

金子(父)が冷静に言い返す。


おや。

もしかして、病弱だって言う息子の体質は父親譲りなの?

とは言ってもねぇ。

しっかり自己管理できる人間と出来ない人間はいるからねぇ。

自己管理できる人間から見たら、出来ない人間は単に甘えているだけと思えるから余計対応が厳しいのかも?


その点、麻衣さんは健康だからこそ体の弱い兄に甘いのだろう。


「え・・・?

父さんと同じ?」

麻衣さんが唖然とした顔で聞き返す。


『そうとも。

ちゃんと栄養のある食事を摂り、しっかり睡眠時間を確保して適度な運動をすれば年に1、2度程度しか倒れない筈なのだ。

それを周囲に甘えて倒れるまで絵を描いているから毎月の様に寝込む羽目になるだけだ。

その証拠に、私と恵が生活管理を問答無用でしっかりしていた子供の頃はそれ程は倒れなかっただろうが』

金子(父)が指摘する。

恵さんは母親かね?


いやまあ、ちゃんと栄養のある食事を摂ってしっかり眠り、適度な運動をするのは誰もが心がけるべき事だと思うよ?

とは言え、それを心掛けていても年に1、2度倒れるとなると確かにちょっと体が弱いんだろうけど。


そんな虚弱疑惑のある体質なのにアーティスト気取りで絵を描くのに没頭して毎月寝込むのは、確かにちょっと周囲に甘えているね。


前世だったら貴族に生まれていたらそんなのも居たが。

貴族以外で生まれていたら豪商の家に生まれて甘い親でも居るのでない限り、2、3回自業自得で倒れた後に見捨てられてのたれ死ぬか、金持ちジジイ・ババアとの婚姻戦略に使われる事が多かったようだが。


「だって!

郁人は芸術家なのよ?!

普通の人と同じ様になんて生きられないのよ!」

何やら麻衣さんがちょっとアレな事を主張した。


別に芸術家だって健康管理が出来ない訳じゃあないと思うよ?

流石に芸術家に自分を売り出す事業計画を作って会計処理とかをしっかり自分でやれとか言うのは無理だろうけど、食べて寝るのは人間の生存本能の一部でもあるのだ。

死にたくなければなんとか出来るだろうに。


『寝込んでいる時間の無駄を考えたら、毎日の食事と睡眠をしっかりとる方が効率的だろうが。

お前があいつが倒れるたびに大騒ぎして甘やかすから余計に自分で自分の管理を放棄しているんだ。

このまま結婚もせずにあいつの世話だけをして、中年を過ぎた頃になってあいつが長年のツケで死んだ時に独りぼっちだと気付いても、その時点ではお前の結婚も出産も難しくなっているぞ?

結婚して自分の子供も欲しいと思うなら、もう郁人を甘やかさずにあいつを独り立ちさせて自分の将来を考えなさい』

金子(父)が麻衣さんに言いきかせた。


う〜ん、なんかこう・・・随分とマトモな父親っぽい事を言ってるね?

何だって死ぬ前にもう少しちゃんと相互理解出来なかったんだろ?


それはさておき。

絵の事を聞かなくて良いのかな?

なんかこう、父娘の大切な話し合いを始めちゃったから肝心の依頼された質問を持ち出しにくいんだけど・・・。







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