第954話 歴史の証人なんだけどね
目を閉じて集中し、微かに残る結界の痕跡をなぞる様に新たな結界を構築する。
しっかり敷地を全部カバーして全員を碧に送って貰わなきゃだからね。
中に居る悪霊の何体かが結界にちょっかいを出そうとしているのが感じられるが、それを無視してしっかりと尼寺の跡を囲い、目を見開いて碧の方へ頷く。
「出来たよ〜。
後は宜しく」
400年ぐらい前からの霊が居るのだから、出来る事ならば各霊に話を聞いて彼ら・彼女らの見てきた歴史の裏を教えて貰えたら興味深かっただろうに。
ちなみに、ここは東川さんの探していた武家の奥さんと子供達が身を隠していた時代は普通に尼寺だったけど、後になって復興されて訳ありな貴人を押し込む寺として使われる様になってからは敷地の一部に男性が入る場所も作られていたみたいで、子供だけでなく成人した男性の悪霊も居た。
男と女をどちらも閉じ込めておくなんて、寺でやっちゃいけない様な事に耽っちゃったんじゃ無いの?と言う気もするが、何分復興直後から霊障でそれなりに有名な場所だったらしく、イチャコラ出来るだけ鈍感で神経の図太い人は少なかったみたい。
あんまり霊に触れて深入りしていると碧が霊を昇天させる時に巻き込まれたりしたら怖いので、興味は感じたがそれ以上は深入りせずに清めの祝詞に恐れをなして結界を破ろうと暴れ始めた悪霊を押し戻すのに集中する。
折角自我がしっかり残っている霊が居るのに、怨みが深過ぎて現世に残しておけないなんて残念だねぇ。
歴史的知識をどれだけ提供してくれるか、計り知れなそうなのに。
戦国時代や江戸時代初期の霊なんて、余程運良く召喚の媒介に出来る物が見つからない限り、そうそう呼び出せないからねぇ。
霊にちゃんと繋がっている媒介が残っていないって言うのもあるが、普通の霊だったら転生しちゃっている可能性も多分高いんだろう。
生まれ変わっちゃった魂は召喚出来ないからねぇ。
霊の言葉や記憶を魔石に記録する術は前世ではあったけど、あれってやり方が不味いとうっかり霊を縛りつけちゃって悪霊化させる事もあるから、禁忌とまでは言われなくても細心の注意を払って行うべしって言われていた。
今世では何分魔石が無いから、折角歴史の証人が輪廻の輪に入らずに残って居るのに、話を記録出来ない。
まあ、怨みが強過ぎて話を聞くのにも疲れちゃうけどね。
考えてみたら悪霊に憑かれやすい上に歴史が好きな東川さんなんて、もうちょっと悪霊とのやり取りを自力でコントロール出来て話を聞けるんだったら研究にとってこの上なく役にたつ特殊体質だっただろうにねぇ。
ある意味、彼が適当にここら辺を歩き回って悪霊を釣り上げ、私が霊に魔力を与えて自我をしっかりさせて話を聞くなんて言うのも戦国時代とかの兵士や武士の日常へ面白い視点や知識を提供して興味深い研究になったかもだけど・・・フィクションとして本を出すって言うならまだしも、研究結果としては物理的な証拠を何一つ出せないからダメだろうなぁ。
まあ、霊に聞いた隠し財産とか昔の城や寺の場所とかを発掘できるかもだけど、研究結果の裏付けとしては弱いよねぇ。
ちょっと残念。
でも、考えてみたら古い悪霊とかから歴史を調べようって言う試みは前世でも無かったな。
一方的な主観しか無い情報じゃあダメなんだろうね。
しかも敗者の僻み混じりな怨みのこもった念じゃあ、被害妄想が暴走していても後世の人間には分かりにくいし。
パン。
碧が祝詞を終えると手を揃え、一気に結界の中が煌めきに埋め尽くされたと思ったら多数の霊が天へと還っていった。
「ふわぁ〜。
やっぱ、碧が清めると後は気持ち良いねぇ」
この祝詞の相手の神様も、碧が気に入っていてちょっとアフターサービス的に場を清めてくれてるんじゃ無いかな?
単に穢れが無くなっただけでなく、神気が微かに漂っていて凄く気持ちがいい。
神気も強すぎると普通の人間にはキツイ事が多いんだけど、この神様は昇天を助けてくれる優しい神様なおかげか、ちょっと肺の中が綺麗になって肩凝りも解れるような、リフレッシュ感があるんだよねぇ。
これをお守りに込めて売れたら物凄く人気が出るだろうに。
まあ、そんな俗っぽいことを考える人の祈りには答えてくれないんだろうけど。
取り敢えず。
「お茶を飲みながらお握りを食べようか?」
スッキリしたらちょっとお腹が空いてきた。
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これで今回の章は終わりです。
これからは章の終わった後に1日だけお休みを頂くことにしますので、次の更新は明後日14日になります。
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