第951話 依頼が来た!

『実はお二人が通っている大学の職員の方から除霊と浄化依頼が来まして。

1ヶ所を除き霊は比較的弱いものが多いのですが範囲は広いので、誰に頼むかが悩ましい所なのです。ご縁がある事だし、快適生活ラボの二方に受けて頂けませんか?』


ゴホっ!ゲホ!ゲホゲホ!!

退魔協会の職員からの電話を聞いて、思わず吹き出した口を押さえようとして咽せた。


「ウチの大学の職員ですか。

どの学部の人でしょう?」

ばんっと咽せて屈み込んだ私の背中を叩きながら碧が退魔協会の職員に応じる。


『学部所属ではなく、大学図書館の司書の方ですね。

人文社会学部の教授からの紹介もあったので、卒業してからも歴史学のフィールドワークを続けている方かも知れません』

職員が教えてくれた。


へぇぇ、東川さんたら人文社会学の教授の紹介なんてものもゲットして退魔協会に依頼したんだ?

一応図書館の一利用者でしか無い私の話だけではなく、業界情報とかにも詳しいだろう教授にも相談したのはあの東川さんにしては意外だけどちょっと安心だね。


と言うか、その教授は東川さんが悪霊に憑かれまくりながらフィールドワークをしていたって知っているのかな?

まあ実際にあの辺を歩き回ってみたら、東川さんが憑かれていた頻度を考えると予想外なぐらいに『悪霊』と言えるまで自我と怨みが残っている霊は少なかったんだけどね。


何度かあちこちで空振りしながら霊と言うよりは残留思念に近い存在に魔力を与えて情報収集してやっと見つけた城跡でも、何と城主だった当主はあっさり成仏していたのか、居なかった。

少なくとも、私が魔力を与えて質問した霊で一番近かったのが当主が最後に負け戦の責任をとって切腹した時の介錯をした家臣で、降伏を伝えて当主の首を差し出した後に戻ってきて切腹した男だったが、その近くに他の霊は居なかった。


勝手な想像だけど、当主の後を追うなら当主が切腹した場所かその近くで死ぬんじゃ無いかなぁと思うから、当主も心残りがあって彷徨っていたら近辺で見つけられそうなものだろう。

だけどちょっとムキになって城の本丸っぽい部分の跡地で片っ端から残留思念に魔力を与えて回ったけど、結局当主の霊には行き当たらず。


もっと豊かな領地な癖に宗教かぶれになった武家に喧嘩を売られ、色々工夫をしつつ領民とも協力して頑張ったのに結局数に負けて死ぬ羽目になったマイナーな貧乏武家なのに、あっさり成仏するなんて・・・当主だった人物はかなり割り切りが良い人だった様だ。

家臣の方は当主の苦労や水や土地に恵まれた他の領地のことごとくぐちぐちと恨み言を言っていたんだけどねぇ。


東川さんの先祖かもって話なのでそれなりに探し回ったのだが、籠城した城の本丸にも、その正面で決戦して結局ボロ負けした戦場にも、戦の後に暫く当主の首が晒された場所にも、それ程悪霊は居なかったんだよねぇ。


何だってここを歩き回った東川さんがああも悪霊に憑かれまくったのか、ちょっと疑問なぐらいだ。

彼が悪霊に憑かれやすい体質なのか、それとも当主の血を引いた子孫だからか何かで霊の注意を呼び集めてしまっていたのか。


戦国時代の武家となったら400年かそれ以上前の話なのだ。

直系の子孫だとしても、遺伝子的には血は薄れまくってほぼ赤の他人だろうに。


不思議すぎる。

まあ、それはともかく。

戦場と城跡はまだしも、尼寺の方は碧が清めた方が良いだろうなぁと思っていたので、こちらに話が来たのは都合がいい。


他の誰かに依頼が行った場合、そのうち涼しくなったらピクニックがてらに碧ともう一度あそこに行ってちゃんと全ての霊が輪廻へ戻ったかを確認しようと話していたところなんだよね。

無料サービスになるけど、あそこはちょっと可哀想だったから。

依頼として行けるならそれに越した事はない。


「分かりました。

知らない事はない人からの依頼のようですし、受けましょう。

幸い今は特に予定が入っていませんので明日か明後日にでも行っておきますから、資料を送って下さい」

碧が電話に伝えた。


暑いから、出来れば2ヶ月ぐらい待って欲しいところなんだけどねぇ。

東川さんがそこまで待たないだろうし、今の時期じゃあの人がまたフィールドワークに出て悪霊に憑かれて倒れたら、マジで熱中症で死んでしまいそうだ。


しょうがないから日傘とスポーツドリンクと手持ち扇風機でも持って行こう。

明日の天気予報ってどうなってるんだっけ?




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