第949話 世知辛い現実

「う〜ん、凄いねぇ」

碧も周囲を見回して呆れた様に呟いた。


「ある意味、さっさと人知れず衰弱死して欲しいから敢えてちゃんと清めないできた場所なのかも?

最後に廃棄された際にきっちり後始末すべきだったと思うけど、その時点では予算が無かったんだろうねぇ」

訳ありな都合の悪い貴人と言うのは殺されずに死んでくれるのが一番って感じなのだろう。


とは言え、これじゃあ死んだ後に悪霊化して、自分をここに押し込めた人を祟りに行きそうだが。


いや、よく見たら古い結界の跡が敷地を囲う様に視えるから、悪霊が祟りに行かない様には手を打ってあったんだね。


なんかここって、入居した高齢者があまり長生きしない方が施設側にも家族にもありがたい高齢者用施設みたい。

勿論、単に自分の仕事が忙しくて家族を日中看ていられないから本人の健康と安全の為に施設に入って貰った場合なんかはできるだけ快適に長生きして欲しいと家族は思っているんだろうけど、それこそ寝たきりとか重度の痴呆症とかだったらさっさと本人が苦しみから解放されて欲しいと願う家族も多いだろう。


・・・考えてみたら、そういう死んで欲しい人が入るのに向いている施設と、快適に出来るだけ長生きして欲しい人用の施設ってどうやって見分けるんだろ?


単純に値段の問題でも無いと思うが。

死亡率だって受け入れる人の状態の方がケアよりも大きく影響してそうだし。

さっさと死ねますよ〜とは流石に広告しないだろう。

入ってから、酷い!!と家族が憤慨して出ていく率でも確認すれば良いのかな?


それはさておき。

「悪霊が祟りに出ない様に設置した結界がまだ辛うじて残っているから、範囲指定は簡単だね。

弱まっているから踏み込んだ誰かに取り憑けば出られちゃうみたいだけど」


色々と悪霊がいるっぽいから、東川さんが自分が探していたマイナー武家の関係者っぽい悪霊に取り憑かれたのは凄い偶然だね。


それとも、そのマイナー武家の事を考えていたから関係者の霊の注意を引いて真っ先に取り憑かれたのかな?


う〜ん、他にも東川さんの調べているマイナー武家関係の霊がいるのか、これじゃあ分からないなぁ。

一々悪霊を個別に接触して確認するのも疲れそうだし。


「取り敢えず、マップに結界跡の範囲を書き込んで、次に行こうか」

碧が言いつつ、タブレットを取り出してマップに線を引き始めた。


器用だねぇ。

まあ、退魔師だったらちゃんと範囲は分かるとは思いたいけど。

ついでにヘビー級な悪霊の数もメモっておくか。

多分今更そうそう変わらないよね?


「そんじゃあ、次〜」

タブレットをバックパックに仕舞った碧が携帯を取り出して地図アプリを確認してから坂を降り始めた。


一応どこも足で動き回れる範囲だから極端には離れていないんだけど、次の戦場もしくは城跡はちょっと範囲が広いんだよねぇ。


「どっか景色がいい場所で座れる様なのに行き当たったらランチにしよ」

流石にさっきの尼寺跡で食べる気はしなかったからね。

碧が清めてくれるなら悪く無い場所かもだけど、無料でやる訳にはいかないからね〜。


あそこは建物の跡も無い廃墟とすら言えない山の上のちょっと開けた土地って感じだったから、除霊した後に調べても何も出てこなそうだ。

日本の建物って木造が多いから時の経過には弱いんだろう。

精々昔の食器とかの破片が何処かに埋まっているのが見つかるかもって程度なんじゃ無いかな?


歴史の研究用に昔の霊を呼び起こすのってダメなのかね?

色々と過去の日常生活については学べると思うけど。

あと、歴史に隠された裏話とか。


もっとも、歴史上の人物なら誰でも好きなように召喚出来るとなると、過去の埋蔵金狙いの召喚とかが流行って霊の眠りが邪魔されて悪霊化したり、詐欺が横行したりしそうかな。


それこそ徳川の埋蔵金なんぞが実在した場合、本家は金があるみたいだからそんなモノの為に先祖の霊を喚び出すなんてしたく無いだろうけど、関係ない他人は金目当てにやりたがりそう。

そう考えると、やっぱ直系以外は霊の召喚の依頼が出来ないのは良いことかもね。


もっとも、戦国時代とかの武家の子孫となると誰が直系か証明するのは至難の業だろうけど。

戦国時代とか江戸時代って『家』を維持するのが重要であって必ずしも『血』を残さなきゃって考えじゃ無かったっぽいから、養子縁組をやりまくったせいで『直系』の定義もかなり微妙そうだし。


少なくとも、養子に入った人間の子孫の血や髪の毛を媒体に召喚出来ないのはほぼ確実だろう。


まあ、300年も経っていたら血が薄れすぎてて養子なしでも子孫の血や髪の毛で召喚できるか怪しいし。

それに、託卵疑惑は常にあるしね〜。







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