第942話 違うでしょう

「う〜ん、確か頭痛と肩こりが戻ったのって3日前な気がするから・・・月曜日に歩いて回ったのは西野町行きのバスで行ったあっちか。

そうなると、地形的に考えて・・・」

東川さんがメモ帳を取り出して何やら見直し始め・・・はっと気がついてそれを閉じでこちらに向かってきまり悪そうに笑ってみせた。


「いやぁ、仕事中に済まないね」


いや、違うから。

悪霊に憑かれてるんだよ?

そっちの方が重要じゃない?

はっきり言って、利用者が殆ど居ない夏休みの大学図書館で司書が業務時間中にちょっと個人的なメモを見直していても構わないと思うし私の知ったこっちゃない。


だけど。

「悪霊の件はどうするんですか?

多分、前回厄祓いして楽になった神社に行ってまた同じ事をして貰えば良いと思いますが・・・」

その後またヤバい戦場跡に行くつもりならあまり意味が無いかもだけど。


「ちなみに、悪霊ってこう、沢山憑かれるとパワーアップして危険性が増すとかってあるのか、知ってる?

今回は場所があっているかを確認する為に厄祓いしてから行くつもりだけど、場所を確定した後も毎回厄祓いしているのはちょっと出費が嵩むから、出来れば肩凝りが辛くなり過ぎた時に纏めて行くぐらいにしたいんだが・・・」

東川さんが頭を掻きながら聞いてきた。


マジか。

出費とか、蓄積した悪霊のパワーアップが心配とか。


ちょっとこう、心配する事の方向性が間違ってない??

まあ、現時点ではちゃんと眠れているから心配するのは頭痛と肩凝りだけなのかもだけど。


悪霊も強いのに憑かれると凶暴性は高まったり、怒りっぽくなりやすいとか言った影響がある。

が、今回は戦場跡にしては意外とそこら辺の影響が無さげだ。


「え〜と、城跡なり戦場跡なりが見つかったら、発掘作業とかをするつもりなんですか?

もしもそこに慰霊碑とか何か死者にとって思い入れのある物があって、うっかり壊したり持ち去ったりしたら危険かも知れませんよ?」

まあ、通りすがりの人が弱めとは言え何度も悪霊に取り憑かれる程の死霊が漂っているらしいから、慰霊碑はあるとしても既に破損している状態な可能性は高いけど。


「何か歴史的価値のある物が見つかりそうだったら大学や自治体から補助金が出るかも知れないし、補助金が出なくても立ち入りを認められたら色々可能な限りは調べてみたいところだね!」

嬉しそうにに東川さんが言った。


「それで、悪霊は?

一応場所を特定できたらその周辺範囲の除霊の依頼も可能だとは思いますが」

いくら掛かるか知らんけど。

まあ、大して強そうじゃ無いからそれ程でも無いかな?


「う〜ん、祓ってしまうよりは慰霊碑でも作って宥められると良いんだけど、こう言うのって神社に頼んだらやって貰えるかな?」

ちょっと困った様な顔をしながら東川さんが聞いてきた。


知らんがな。

でも慰霊碑を依頼するお金があるんだったら心置きなく退魔協会を紹介できるね。

「戦国時代の死者なんて、今更他人が慰霊碑を作っても霊の方は意義を感じないと思いますよ。

普通に除霊して昇天して貰う方が霊達にとっても良いのでは?

除霊する場所が分かれば退魔協会に依頼すればやって貰えるでしょう」


怨みと憎しみが強過ぎて昇天させられない様な霊を封じるならまだしも、東川さんに憑いている程度の悪霊は既に自我も殆ど残っていないし怨みも漠然となっているから、慰霊碑なんぞを現代人が建てたところで自分たちを慰めて昇天するのを助ける為の物だと気付きもしないだろう。


「ふむ。

取り敢えず、まずは場所を確定しなきゃだね。

城跡や戦場跡を見つけられて、いつまで経っても悪霊に憑かれ続けるとか症状が酷くなる様だったらその退魔協会?とやらに頼んでみるよ。

ネットで名前を検索したら出て来るのかな、その協会?」

東川さんがにっこり笑いながら言った。


清々しい程悪霊は二の次って感じだね。


今後は大学に来る際には図書館に寄って、東川さんがヤバいことになって居ないか確認しておこう。


取り敢えず。

「ここですね」

退魔協会のパンフレットをバッグから取り出して渡す。

自分の名刺を渡したくない時用に持ち歩いているんだけど、そこそこ減ってきたから次の依頼の時にでも一度協会に行ってパンフレットを再入手しておく方が良いかも。






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