第939話 善意が実を結ぶとは限らないけど

『ねえ、私の使い魔としてこのまま契約を継続しない?

東京まで一緒に来ても良いし、こっちに数ヶ月おきに来る際に手伝って貰うんでも良いよ』

諏訪滞在の最終日を前に、私は手伝いをしてくれていた動物霊達に長期契約の勧誘を持ち掛けていた。


私が居なくても色々とやってくれる使い魔って思っていた以上に便利だったんだよね〜。

まあ、魔素の薄い聖域以外の場所で大々的に物を動かすのは魔力的に厳しいだろうけど、家の中を塵取りやクイック◯ワイパーを使ってフローリングの掃除を頼む分には良いだろうし、ちょっとした情報収集とかもお願いするかもだし。


都心だと動物霊って鳥か猫か犬か鼠が殆どで、鳥は情報収集以外ではあまり協力的じゃ無いし、鼠は知性的になるまで育てるのに時間と魔力の必要量が多すぎる。

猫は・・・使い魔にしてもこっちが半ば下僕扱いだからねぇ。

犬ならもう少し手伝ってくれるかもだけど、猫が多いウチはちょっと犬の霊には居心地が悪いんじゃ無いかと言う気がする。


家の掃除とか郵便受けの監視以外はそれ程定期的にやって貰う事ってないかもだけどさ。

どちらにせよ、都心に居ないタイプの使い魔はそれはそれで楽しそうだし、ダメ元で聞いてみたのだ。


『う〜ん、街は嫌だけど、時々ここで手伝うのは良いよ?』

タヌコが応じた。


『また来たら声掛けて〜』

タロウが熊手でワルツっぽい動きをしながら言う。


『どうしてもって言うなら助けてあげても良いよ』

コン吉がちょっとツンデレな感じに言った。

お、一人ゲット?


『こっちで手伝っても良いけど、山から離れるのはや〜』

ソラはどうやら都心にいるタイプの鳥ではなかったのかな?


どうせなら2体来てくれた方が塵取りと箒とかクイック◯ワイパーで作業が出来るんだけど・・・まあ、クイック◯ワイパーの生地を動かしてもらって最後にそれでゴミを包んで捨てて貰えば一体ででも掃除出来るかな?


掃除要員として頼るのに本人(本狐)が合意すればだけど。


『おっけ〜。

じゃあ、他の諸君はまた今度来た際に宜しくね?』


一応名付けが残っているから1、2ヶ月後程度だったら魔力を込めれば喚べる可能性が高いし。


『魔力をくれたらここでヨモギ集めしてても良いよ?』

タヌコが提案した。


う〜ん。

集めてもらっても流石に熊手に鍵のかかった洞窟の中へヨモギを仕舞わせるのは難しいから、そうなると外に出しっぱなし。

それじゃあ腐っちゃうか虫に食われちゃうかしそうだ。

ヨモギって虫に食われるのか知らないけど。


どちらにせよ、外に長期間放置されてたのはカビとか生えているかもだからポーション作りに使いたくはない。


『そっちはまた次に来た時にお願いしたいな。

じゃあ、山で迷子になっている人とかが居たら、それとなく助けてあげて?

まあ、そう簡単に誘導できるとは限らないけど』

動物霊が話し掛けても気付ける人間は少ないからねぇ。

道が左右に分かれている時にそれとなく『片方から呼ばれている気がする』ぐらいの感知力がある人間ですら、ごく僅かだろう。


しかも山で迷子になってパニック状態になっていたら益々何も聞こえない可能性が高いし。

極限状態で才能が開花する事もあるけど、大抵は死ぬ間際で他の雑念が湧かないぐらいに力が尽きかけている状態な時が多いから、その時点では既に手遅れだろうし。


『迷子になってる人が居たら、仲間に手伝って貰って誘導出来ないか試してみるよ。

追いかけたら逃げることが多いから、追い立てるのはそれなりに上手いんだよ!』

自慢そうにタロウが言った。


え?

熊の霊が追い立てるのが上手いって・・・不味く無い??


しかも正しい方向へ逃げるよう追い立てれば助かる可能性もあるかもだが、下手をしたら慌てたせいで大怪我する可能性もありそうなんだが。


大丈夫かねぇ・・・。


取り敢えず。

『人を害さないよう命じるから、出来る限りの範囲で無事に人里の方へ帰れるよう助けてあげて』

魔力を込めて命令を契約に含めておく。


私が見張っていないところで善意があって助けようとしても、上手くいくかどうかは不明だが・・・まあ、練習すればそのうちいい感じに誘導する方法を身に付けてくれるかも?


使い魔って魔力と契約が思考能力を上げるから、ある程度の学習効果はある筈なんだよね。

流石に東京からここにいる使い魔の感覚共有は無理だから、上手くいくと期待だけしておこう。


次に来た時に『遭難した時に変な悪戯をする存在と遭遇して更に迷った』って話が出てくるようだったらお願いを変える必要があるかもだけど。







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