第938話 入り切らない

1週間の私たちの滞在予定は、白龍さまと森の動物霊たちのヘルプのお陰で3日目には破綻が見えてきた。


「どう考えても、乾いたのをもう一度詰め込み直しても後1日分入るか否かって感じだね。

源之助のスペースを削ったとしてもバンに積み込める量にも限界があるし」

貯蓄庫代わりな洞窟っぽい場所の入り口の外に積み上げた箱を見ながら碧が呟いた。


「だねぇ。

既に1日外で乾かしているせいか、洞窟の中でもう1日や2日干してもあまり体積が減らなかったのが敗因かな」

初日から洞窟が一杯になりそうな予想はあったのだ。

ただ、洞窟内で乾燥させた雑草がもっと縮むと思ったんだよねぇ。

風か火の元素系魔術の素養があったらもっとカラカラに乾燥させて体積を減らせたかもだけど、白と黒の魔術師じゃあそこら辺の使い勝手は悪い。


「もう、明日以降の分はヨモギだけ集めたら?

残りは地面で養分になって貰おう」

碧が提案した。


野原っぽい聖域で地面に放置された枯草って養分になるのかな?

・・・なるよね?

変な虫を大量に育てる餌になったりしないよね??


ちょっと怖いが・・・まあ、なんだったら来月にでもまた遊びに来て、変に虫が増えていたらそれを生け捕りして碧が虫除けを作り、結界で聖域を一時的に封じた上で端から端まで虫除けを持って碧に歩いてもらって徹底的に駆除すれば良いか。


多分、自然の営みとそれほど違う環境にはならないよね?

単に普段は勝手に生えて枯れていくのが、今回は白龍さまがスパッと切ったってだけなんだから。


「しっかし。

こうやって雑草の凄さを目の当たりにすると、農家とか田舎の土地持ちな人の苦労って途轍もないものなんだなぁって実感するね」

まだ聖域の三分の一も雑草を刈れてないんだから。


これが完全にしっかり管理しなきゃいけない農家だったりしたら、絶望しか無い気がするが・・・農家の人ってどうやって雑草との戦いに勝っているんだろ?


農薬って虫を殺すだけで雑草だけ殺してくれる訳じゃあないだろうし。

最近ニュースになっていた、どこぞの中古車販売会社は店の前の街路樹の周りに除草剤を撒き過ぎて街路樹を枯らしたって話だったし、農作物だって除草剤を撒いたら枯れるだろう。


ある種の草だけを枯らす除草剤もあるかもだけど、雑草って一種類じゃないし。


畑をガッツリ深く耕して地表にあった種や芽を地面奥深くに埋め込み、それが育つ前に農作物の苗を植えちゃって太陽光の獲得合戦のスタートダッシュでもさせてるとか?


寒村時代は畑が小さかったし土も比較的痩せ細っていたから家族総出で春夏に抜くだけで何とかなったが、日本みたいな比較的気候が植物の生育に向いている土地で、肥料を撒きつつ農作物なんぞ育てたら凄い事になりそうなもんだけど。


まあ、それはさておき。

大量にヨモギを集めてもらって、濃縮ポーションでも作ってみるかね?

もっとも、まだ若いし碧のヘルプがあるしであんまり必要は無いんだけど。


『皆〜。

明日はこのヨモギだけを拾って箱に入れてくれる?

残りはそのまま地面に放置しておいて良いから。

多分熊手と塵取りでは特定の草だけを集めるのには向いてないから、一本ずつ集めてくれると良いかな』

仕事が一通り終わり、今度はワルツっぽい動きをして遊んでいる霊達に声を掛ける。


『え?

この躯体を返さないといけないの?』

タヌコが不満そうに聞いてきた。


『いや、仕事を頼んでいる間だけ。

まあ、熊手と塵取りでヨモギだけを選り分けて集められるならそのままの格好でやってくれても良いけど』

どうせあと3日はあるのだ。


少々効率が悪くても構わない。


なんかこう、すっかり熊手と塵取りが気に入ったようだ。

定期的にこっちに来た時に協力してくれないか、後で交渉してみよっと。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る