第937話 退屈したら出てっちゃうだろうから

5時半ぐらいになり、風も涼しくなってきたので聖域に行く事にした。

「刈った草を仕舞っておかないとね〜。

明日からは朝に白龍さまにスパッと切って貰って、1日かけて使い魔達に箱への回収を頼んで、夕方に箱を仕舞えば良いと思わない?」

碧が歩きながら言った。


「そうだね。

ちょっと早めの夕方に行けたら、帰りに美帆さんとこの温泉に入れて良いんだけど・・・5時ぐらいで風が涼しくなっていると期待しよう」

今日は既にお風呂は入っちゃったから箱の回収で汗をかいたら夜寝る前にもう一度シャワーだけど。


流石に1日2回も美帆さんの所に行くのは気が引ける。

日中に行くのも我慢しておけばスッキリ1日の終わりに霊泉に入れたんだけど、都心からの運転や草刈りで疲れて耐え難かったんだよね。



見事に2メートル幅で刈られた草がぽつんぽつんと置いてある段ボールの所に纏まっている光景を見て、碧が感嘆の声を上げた。

「おお〜。

お見事!」


前世では身の周りの作業を全部ゴーレムや使い魔にやらせている魔術師も居たが、こっちの世界ではそう言うのはまだ難しいからねぇ。

こう言う放っておいたら勝手に綺麗になっているって言うのは感動ものだね。


まあ、そのうちAIロボットが掃除とか刈った草を集める作業とかを全部してくれる世の中になるかもだが。


いろんな作業をロボットがしてくれるだけでなく、文書の作成や調べ事も生成AIがやってくれるようになったら、人間って何のために存在するんだろって気もしないでも無いけど。


AIを使ったら音楽とか画像とかもそれなりに作れちゃうしそこそこ面白いテンプレ小説とかも作成できちゃう様になったら、マジで人間が絶対にいなきゃいけない作業って殆ど無くなりそう。

一握りの天才には追い付けなくても、人類の大多数分はカバーできちゃいそうだ。


子作りは人間じゃなきゃ出来ないが、作業や仕事までAIやロボットが出来るなら、人間を態々増やす必要性もないって結論が論理的帰結にならないかね?

色々出来るAIが社会の全てを動かすようになったら、そのうちマジでAIが人間を排除もしくは軟禁する方向に動いても不思議はなさそう。


『人間を生かし続ける』と言うのを至高の目標と設定していたとしても、下手に人間を自由に行動させて人殺しとか核戦争とかを始められたら困るから、さっさと隔離して危険な事を出来ないように動物園みたいな所に閉じ込めて遊ばせておくのが一番適切だって結論にAIが辿り着いてもある意味論理的だ。


それこそ『マトリックス』の映画の世界みたいに。

あれはAIが人間に反乱を起こして搾取する事に決めた世界だったけど、反乱していなくても人間の幸せと永続の為に、ああ言った感じのメタバースっぽい世界に人間を閉じ込めておくのが一番人間の安全の為になるって結論に達するんじゃないかね?


前世では古代遺跡は魔術が発達し過ぎて自滅してしまった文明なのではって事でその技術は危険すぎるって調べる事を反対する学者もいたが、便利な術が発見される事もあったからそれなりに金になるってことで遺跡探索を賛同する人間は多かった。でもそんな古代文明でも少なくとも人間が社会の運営を託せるような機能的に人間の上位互換的な存在は解明された限りでは居なかった。


地球では今までは創造的思考やリサーチは人間にしか出来ないって事で機械によるオートメーション化で失業する人間が居ても、人間そのものは不要って事は無かった。


だが、このままいけば2030年ぐらいには人間より賢いAIが完成するって信じている投資家や研究者がいる現代だと、マジで近いうちに人間って不要になるんじゃね?って気がしないでも無い。

ある意味、悪霊を祓う退魔師の仕事って数少ない絶対AIに取って代わられない仕事だ。


お願いだからどっかの気狂いとか、バグったAIが地球上の人間の大多数を抹殺して人類の継続性を高めようなんて考えないでね〜。

2030年じゃあまだまだ死ぬには早い。


次の転生はそれこそ2100年とかそれより更に後で良い。


それはさておき。

現実に戻らねば。

「そんじゃあ頑張って箱を集めよう」

草しか入っていなくて比較的軽い筈だが、量があればそれでもそれなりに重い。

地面がなだらかじゃ無いから台車が使えないのは痛い。


「そう言えば、美帆さんの所の湯室に警報機能を持った使い魔を置くのって可能そう?」

碧が近くの箱を持ち上げながら日中に話していた話題へ戻った。


「厳しいかなぁ。

と言うか、結局桶を転がしても更衣室はまだしもその向こうの廊下にいたら音が聞こえなかったじゃん?

かと言って流石に警報を設置させてそれを使い魔に押させるのは怪しすぎるでしょう」

どう考えても偶然と言い張れない現象になってしまう。


外まで響くような大きな鐘を設置したとしても、それが誰も触れていないのに大音響を出して鳴り響くのは不自然すぎる。


使い魔がそれで遊び始めたら迷惑極まりないだろうし。


今だって、私らが段ボールを動かしている横で熊手と塵取りがブレークダンスっぽく踊っている。

使い魔になった霊達が渡した魔力で遊んでいるんだが、美帆さんところに居ても同じ事をするだろう。


もしもの時以外は動くなって言ったら飽きてどっかに行っちゃうだろうし。

かと言って、無理やり退屈な場所に縛り付けるのは可哀想だ。


中々難しいよねぇ。










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