第895話 キリが無いぞ

「取り敢えず、SNSやネットは使うのはほぼ無理な感じにしたし、私たちの事は思い付かないし誰かが言及しても気が逸れる様に意識誘導を埋め込んどいた。

殺人みたいな確実に警察が動く様な大きな悪事はやっていないし計画もしてないから、これ以上は出来る事がないかなぁ」

精神に基づく痛みなので頭痛薬を飲んでもSNSやネットを使おうとする際の痛みは消えないから、ネット経由の闇バイトや掲示板を使った嫌がらせはこれで防げる筈。


「穢れを視る能力を封じるのは?」

碧が聞いてきた。


ああ、そうだった。

しっかりともう一度宮田芽衣の精神と魂を見直したが、意外にも魔力は殆ど無い。

穢れが視えるのは魔術への適性のオマケではなく、単にそれ単体の能力なようだ。


幽霊とかも視え易くなるから封じるよう頼まれる事もありそうだが、そう言う希望がある場合以外は本来だったら別に悪用なんて出来ないから無理に封じる必要は無い能力だ。どうやら彼女の場合は幽霊は視えないけど穢れを悪用する方法を見つけてしまった様なので、封じておく方が良いだろう。


魔力がないから呪いも自分の命を使わなきゃ掛けられないのでリスクは大分と下がるが、多分呪詛も読み取れるので下手にそう言うのを見掛けて興味を持たれると後々面倒な事になりかねないしね。


ある意味、魔力を封じるだけの方が簡単なのだが、魔力視の亜種も封じる事は可能だ。

うっかり他の部分を焼き切ったりしない様に注意しながら慎重にゆっくりと時間を掛けて魔力視の能力を司る部分を壊して封じる。


そうだ。

ついでにちょっと口が軽くなる様な意識誘導と家族と話したくなる様な欲求を意識下に埋め込んでおこう。


この性格だったらネット経由の嫌がらせが出来なくなっても、なにかヤバい事をやろうとする可能性は高い。実際に人に迷惑を掛けまくる前に家族へポロッと漏らして止めて貰う流れになるよう少しでも出来たら・・・良いんだけど。


「よし!

魔力視の亜種みたいな感じで魔術や退魔の術に才能はないけど、封じたからこれからは穢れ付きの物を探して買い集める事もしにくくなる筈。

そんじゃあ、帰ろう」

床に少し水を垂らし、濡れた床で滑って転んだ記憶を軽く埋め込んで5分後ぐらいに目覚める様にした上で、宮田芽衣を床に寝転がせて私たちはトイレを出た。


一応頭の後ろと肩にちょっとした痣を碧が作っておいたので、転んだと言う記憶にも違和感はないだろう。


『清掃中』のサインは退けたが認識阻害の術はもう10分ぐらい残るようにしたので、誰かに発見されるよりも先に自分で起きる筈。


自力で目覚めて自分で滑って転んだ記憶があり、誰にもトイレに床に倒れている姿を目撃されなかったとなれば、床をしっかり拭いておかなかった清掃担当者の責任だとか騒がないと期待したい。


下手に誰かに発見されると恥をかいたと逆上して、八つ当たりとして清掃担当者を罰しろとか訴えるとか言い出しかねないからねぇ。


「結局、なんだって彼女は私たちに嫌がらせをやらせてたの?

穢れの事を指摘したから?」

家に戻りながら碧が聞いてきた。


「いや、どうやら宮田さんに穢れ塗れな骨董品を贈っていたのがバレたのが私らのせいだとはっきりとは認識してなかったみたい。

嫌がらせをしてきたのは、私たちが祐一さんに紹介されるぐらい宮田さんと親しくしていると思ったからだった」

マジで、私らに嫌がらせをしていた理由が理解を超える。


「はぁ?

どう言う事?」

碧が首を傾げながら聞き返した。


「取り敢えず、宮田祐一氏に関しては、ひたすら裁判を長引かせて毟り取れる物は全て毟り取り、離婚も10年でも20年でも出来うる限り係争を長引かせて絶対に再婚は出来ないようにしてやろうと思ってるみたい。

そんでもって宮田さん自身はムカつくけど贈り物は流石に受け取ってもらえなくなったので、彼女の親しい人間とかを興信所に探らせて、そう言う人間皆に嫌がらせをして、そのうち『友達は選ぶべきよ〜』とか思わせぶりなメールでも送って宮田さんの周りから人が居なくなるようにするつもりだったみたいね」

八つ当たりの嫌がらせにしても、壮大過ぎてちょっと理解を超える。


「ちょっと頭がおかしくない??」

碧が呆れたように言った。


「なんかねぇ。

今までは宮田祐一の妻である自分っていう自己像があったから、むかっとしてもみみっちい嫌がらせはしなかったし、穢れ塗れな骨董品を送りつけるにしてもそれなりな理由が必要だったからタイミングを見極める必要があったし費用も掛かったから、嫌がらせの頻度と対象が比較的少なかったみたいなんだけど・・・。

骨董品を全部祓われちゃった上に祐一氏に離婚するって言われて、そう言う自制心がぷっつり千切れ飛んじゃったみたい。

今じゃあ何かの拍子に気に入らない事を言った人とか、自分が欲しかった美術品を先に買っちゃって譲ってくれなかった人とか、パーティで自分の事を馬鹿にしたと感じる発言をした人とか、手当たり次第に嫌がらせをやっているみたいね」

ある意味、『一流な男の一流な妻である自分』と言う自己像がみみっちい事をやるのを止めていたのが、それがなくなっちゃったからねぇ。


SNSやネットで嫌がらせが出来なくなったら、何をするかちょっと心配な気がしないでもない。


まあ、実家の家族のところにガンガン遊びに行って不満をぶち撒けるよう意識誘導しておいたから、行動がこれより更に異常なレベルに傾いてきたら家族がなんとかしてくれるだろう。


多分。






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