第886話 防犯カメラ
『マンションの住民じゃあないですね〜』
防犯カメラを確認して怪しい男が私らの郵便受けの前で何やらゴソゴソやっている場面を見つけた青木氏が、その部分だけカットした映像のリンクを送ってきてくれた。
それをオンラインで見ながら電話で話したところ、そう教えられた。
「このマンションも住民って全員青木さんの不動産屋経由で貸し出しているんでしたっけ?」
碧が尋ねる。
『何部屋かは大家さんの知り合いなんですが、流石に知り合いでも賃貸契約なしに貸し出すほどは親しくないらしく、そう言った契約関係で顔を合わせていますから。
エアコンとか水道とかで問題があった場合なんかにも連絡を受けるのはウチですし』
青木氏が教えてくれた。
まあ、知り合いに部屋を貸して、知り合いだからって家賃を延滞された時に直ぐにアクションを取れないとますます傷が深くなるもんねぇ。
と言うか、契約なしで使わせていると下手したら無料で占拠しているのを持ち主が10年とか20年とか容認してたら所有権が借主(と言うか不法占拠人?)に移っちゃうって言うなんか不思議な法律があった様な気もするし。
そう考えると安かろうと賃借契約と家賃の請求は必須だよね。
まあ、もうそれなりに歳な大家さんがあと20年も生きるかは知らないけど。
「このリンクを警察の知り合いに見せても良いですか?
何ができるかは微妙かもですが」
一応映像の所有権って青木氏のところか大家さんにありそうだから、確認する。
『構いませんよ。
5日ほどでネットの方の映像は消しますので、何らかの理由で消去を延期する必要があったらご連絡下さい』
青木氏が応じた。
ちなみに、不審者が来たのは夜中の2時ぐらいだった。
終電の後で、近くで飲んでた人間が歩いて帰るのも諦めただろう時間帯だから、防犯カメラが無ければ目撃者はゼロだっただろうね。
と言うか、これって私たちが留守にした時にやられたのは多分単なる偶然っぽいよね?
人が見ていない夜中に郵便受けに嫌がらせをするのに、住民が留守である必要は無い。
戸建てならまだしも、マンションだったら郵便受けは部屋から見えない。
犯人は天井近くにある防犯カメラから常に顔を逸らしているので、防犯カメラの事は意識しているようなのだ。これだったら人通りさえ無ければ真昼間だって変わりはないぐらいだ。
「分かりました。
じゃあ、どうもありがとうございました」
青木氏に礼を言って電話を切る。
「やっぱ防犯カメラってイマイチ映像がはっきりしないから人相とかは微妙だねぇ。
服装とか体格は分かるけど、これじゃあ人を特定するのは難しそう」
元々容疑者自体に心当たりがないし。
少なくとも体格だけでは知っている人物に該当しないんじゃないかな?
まあ、人の体格なんて普段からそこまでよくは見てないし、重ね着の有無とかでそれなりに変わるだろうから・・・捕まえてみたら知っている人間だったって可能性もゼロではないが。
野球帽みたいのを被っているから髪型も不明なので、ますます誰だか分かりにくい。
私って人間はオーラの色合いと髪型で識別している部分が多いから、知り合い程度だったら大きな心境の変化があってばっさりとヘヤカットされたりすると、すれ違っても気付かなかったりするんだよねぇ。
しっかし。
防犯カメラって犯罪の抑止効果があるって話だけど、こんなんで役に立つんかね?
まあ、服装と体格を元に防犯カメラに映っている人物の動きを追いかけていけば、そのうちもっとはっきりした画像に映っている姿を見つけられるかもだけど。
海外ドラマなんかでは、銀行のATMについているカメラなんかはかなり精細で顔がはっきり分かるようだったが、日本の場合はATMが道路に直接面していないから、あまり期待できない。
って言うか、道端で壁に設置されているATMからお金を取り出すなんて、怖くないんかね?
海外の方が治安が悪いだろうに。
それとも銀行の中という、密室モドキな場所の方が危険なのかね?
もしくはATMコーナーにホームレスとか酔っ払いが入り込んで寝ちゃったら困ると言う事なのか。
国によって色々事情が違って不思議だ。
それはさておき。
「それじゃあ、田端さんに連絡して、誰かに指紋を調べてもらいましょうか」
碧が言いながら携帯のアドレス帳をスクロールし始めた。
何気に碧って田端氏に対して態度が強気だよねぇ。
この力関係は一体何に起因しているんだろ?
空港のセキュリティゲート等々の再構築を碧に頼む関係とかで、国としては碧に借りがあるんかな?
それにしちゃあ以前は政治家のアホが偉そうな事を言ってきてたけど。
まあ、取り敢えず。
私の方は既にクルミを郵便受けの中に待機させ、追跡用にハネナガも待機させてあるので待ち状態だからね。
田端氏が何か追加情報を齎してくれると期待しよう。
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