第881話 法の穴?

「駄目ですよ、凶器を持った危険人物に自分から近付いたりしては。

警察を呼んで、あとは他の人が近付かない様に誘導する程度にしておいて下さい」

迷惑ジジイをタオルを使って後ろ手で縛り上げて暫くしたら警官が現れ・・・警備員さんが怒られていた。


警備員なんだからへっぴり腰で声を掛けるだけじゃなく、もっとしっかりやれよと思っていたのだが、ああ言う時は警察に任せるのが正解だったらしい。


「大丈夫、私が直ぐに駆け付けて制圧したから」

美帆さんが箒を片手に声を掛けた。


・・・なんかセリフが間違ってない??

警備員が対処しようとして注意されているのに、出産したばかりの人妻が何故ここで『大丈夫』と言うセリフを言っているんだろう?


「いや、美帆さんだって出産したばかりで鈍っているかもなんだから、危険な事はしないで下さいよ」

警官がちょっと困った様な顔で返す。


「・・・美帆さんってお巡りさんの知り合い??」

いや、知り合いというか仲間っぽい感じ??


「この地域で薙刀の使い方を教えているのはここ5年ぐらいは美帆さんですから、警察の人間でも稽古に参加している人間が居るので美帆さんが強いのはよく分かって居ます。ですが幼い子供が居るのにもしもの事があっては困りますから、気をつけて下さいね」

お巡りさんが美帆さんに注意を繰り返した。


マジか〜。

薙刀の先生なんだ、美帆さん。

どおりで強い訳だ。


とは言え、武術って鍛錬を休むと腕が錆びつくって言うもんねぇ。

出産で体力を使ったのもだが、妊娠中は鍛錬を休まなきゃいけなかっただろうから大分と鈍っていたんじゃないの??


まあ、自転車を乗るのと同じである程度の勘は残っていたとは思うが。


しっかし。

警官にも教えてるって凄いねぇ。


「碧も、もしかして何かの武器の扱いが師範級だったりするの??」

思わず横にいる碧に尋ねる。


「いや、そこまでの才能は無かったし、時間も足りなかったからね〜。

私のは自衛用の護衛術に毛が生えた程度」

碧が教えてくれた。


それでもしっかり習ってはいるんだね。

戦国時代から続く退魔師の一族だと、悪霊だとか祟りだとか言われて赴いてみたら山賊だったみたいな事が多くって、自衛手段として武芸を身に付けて鍛えてきたのかな?

同じ古くから続く退魔師でも、京都の旧家はそう言うことをしてなさそうだけど。


「で、何が起きたんですか?」

お巡りさんが美帆さんに尋ねる。


「どうも、柴田さんが老後のセカンドキャリアとして古物商をやろうと思い立って、あちこちから曰く付きな骨董品を買い集めちゃったみたい。

ちゃんと神社なり退魔協会なりに依頼して清めて貰えばいいのに、ケチって霊泉だって噂があるウチの温泉の水を使わせろってここんところずっと付き纏っていたんだけど・・・どうやら穢れや付喪神を識別できないだけじゃなく、曰く付きな代物の正しい取り扱い方法も覚えていなかったみたいで取り込まれたっぽいわね」

呆れた、と言いたげに溜め息を吐きながら美帆さんが言った。


「古物商の免許ってこう言う問題を起こしたら剥奪されます?」

ついでなのでお巡りさんに聞いてみた。


「担当部署に確認する必要がありますが、危険物を正しく扱えていなかった様なのでその可能性は高いでしょうね。

もうお年ですから穢れを祓って貰った後も、どの程度悪影響が残るかは不明ですし」

お巡りさんがちょっと悲しげに応じた。


おや?

迷惑ジジイの事を知っているのかな?

まあ、リタイヤして暇すぎて迷惑を周囲に掛けまくっているジジイだったら、地域の集まりとかにもしゃしゃり出てきて巡回に来ている警官とかにも声を掛けていそうだね。

普段の状態だったらもう少し言動も常識的なのかな?


しっかし、ある意味心神喪失状態と言えなくもない凶行だが、これって祓っちゃって正常な状態に戻ったら本当に穢れに取り込まれたせいで心神喪失状態になったって証明できるのかね?


古物商になろうとした癖に仕入れた物の正しい取り扱い方法を知らなくて穢れに取り込まれるなんて言うのも恥ずかしいが、精神病のせいで心神喪失状態になって人に刀で斬り掛かろうとしたとなるよりはまだましだろうし、精神病院とかに軟禁される可能性も減りそう?


この場合、もしも家族がどさくさ紛れに煩い老人を監禁してしまおうと態とお祓いをさせずに精神病院に放り込もうとしたらどうなるんだろ?


警察なり病院なりが親族の合意なしに治療(と言うかお祓い)を出来るのかな?

・・・出来ないとしたら、ある意味怖いね。

遺産争いとかで家族を陥れようとするのに使える方法になりそうだが、ちゃんとそんな抜け道を塞ぐ様な規制があるんかな?





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