第880話 正当防衛・・・

慌てて周囲を見回し、玄関の方へ戻る。

複数の悲鳴が上がる様な事態につっかけとかスリッパで出て行く気は無い。

土間の方に自分の靴を持ってくるべきだった。

美帆さんの個人宅側で食事をした後に中を通って土間に来たので靴がないんだよね。


碧も同じ事を思ったのか玄関へ向かって私よりも先に突進している。

箒でもどこかに放り出されていたら薙刀代わりに不審者を撃退するのに使えるのだが、今時だったらハンディクリーナーを使う人の方が多いし、どちらにせよ人目があるところには置いてないだろう。


せめて玄関に傘でもあると期待しよう。


そんな事を考えながら玄関に辿り着き、急いで自分の靴に足を捩じ込んで側にあった傘を掴み取って外に出たら、どうやら土間から自分の靴を履いて直行したらしき美帆さん箒を手に、なにやらブツブツ呟きながら刀を手に持って近付いてくる老人と対峙していた。


ああ〜。

やっぱ迷惑ジジイは刀も買ってたんだ・・・。


迷惑ジジイが勝手に入ってきていてギョッとする(プラス不快な)思いを何度かしたらしいので、プライベートな建物側の外への門は鍵を掛けるようになったと言っていたから、恭弥さんの会社側の入り口から入ってきて、従業員の人とかち合って先ほどの悲鳴が上がる事態になったようだ。


会社の警備員らしき人がへっぴり腰で警棒っぽいのを手に老人を止めようとしている。

警察に連絡はしたんだろうね??

側に会社側の建物から出てきた男性がいたので、「警察に連絡して下さい!!」と声をかけておく。


高校で薙刀の使い方を習ったが、現世で実際に殺そうとしている相手と戦った経験はないからある意味これが初陣なんだけど、大丈夫かなぁ?

まあ、相手に触れて昏倒させちゃえば良いし、それこそ一撃で首チョンパでもされない限り刀で斬られようが刺されようが碧が治してくれるから、それなりに安全とも言えるけどね。


「柴田さん!!

何をやっているんですか?!

自分を見失わないようにしっかりして!

刀を手放すんです!!」

美帆さんが老人に呼びかける。

やはりあれが迷惑ジジイらしい。


ちょっと穢れに取り込まれた程度だったら自我もそれなりに残っている筈なんだけどね〜。

まあ、夢だと思って抵抗しないケースも多いらしいが。


迷惑ジジイも穢れ(もしくは付喪神?)に抵抗した方が良いと思い至ったのか、動きがギクシャクし始めたが、それでもゆっくりと刀を振り上げるのを止めなかった。


「はぁ!!」

美帆さんが箒を鋭く振りかぶって迷惑ジジイの腕を強打し、返す箒で刀を叩き落とし、素早くそれを足で踏みつけて固定した。


刀に乗っ取られただけでなく穢れに精神まで侵されているのか、迷惑ジジイは刀を手放した後でも美帆さんに手を伸ばして襲いかかってきたので(もしかしたら縋りつこうとしただけかも知れないけど、知人以下の男が女性に抱き付くのは誰にとっても許容範囲外だろう)美帆さんがガツっと箒を迷惑ジジイの鳩尾に叩き込んで撃退した。


強いねぇぇぇぇ!!

高校の部活で齧った程度の私よりもずっと実戦経験がありそうだ。


「大丈夫ですか?!」

先ほどまでへっぴり腰で迷惑ジジイを止めようとしていた警備員が近づいてきた。


警備なんだから、刀を持って襲ってきているような人間は少なくとも刀を取り落とさせるぐらいの事はしなくちゃ駄目だろうに。

『止まれ!』とか『刀を手放せ!』と言って言う事を聞かないならもっと強行手段を取らなきゃ。


流石に老人を警官が銃で撃ち殺したら問題かもだが、警棒でぶん殴るぐらいは十分正当防衛とか警備員の職務範囲内だったと思うよ?

まあ田舎のスタートアップで雇われる警備員なんて、おざなりな訓練しか受けてなくって戦闘能力はあまり無いんだろうけど。


明らかに美帆さんの方が強かった。

美帆さんの出産後で良かったね。


でもまあ、少なくともこれで迷惑ジジイを合法的に排除できるし、ある意味終わりよければすべてよし?

誰も物理的に傷付かずに解決しそうだし。

この話がネットに漏れたら迷惑ジジイの家族とかは大変な思いをするかもだけど、『刀を持って徘徊した』程度だったら大丈夫かな?


ここに来る前に誰かを切り捨ててない事を期待しよう。




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