第882話 ぐだぐだ〜
「ご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした!!!」
迷惑ジジイが警察に引き取られた後、警官に事情聴取されて疲れた私らは温泉に入ってリラックスした。
霊泉にじっくり浸かり、やっと落ち着いたのでお土産に持ってきたプリンを食べようと対面式キッチンのカウンターの所に座ってお茶を淹れるのを見ていたら、何やら客が来たと美帆さんが玄関に呼び出され・・・帰ってこないのでそっと見に行ったところ、どこぞのおっさんに土下座されていた。
あ〜。
あの迷惑ジジイの息子かな?
「いえ、穢れの危険性は理解していない人が多いですからね。
柴田さんも『仕入れた骨董品を売る為には自分が分からない穢れとやらを落とさなきゃいけない』としか認識していなかったみたいなので、半分詐欺だと疑っていたようですし。
取り敢えず、危険性をきちんと認識していただいて適切な対処をして貰えれば私は構いませんから」
ちょっとうんざりした様に美帆さんが言った。
美帆さんが呼び出されてから経過した時間を考えると、既に同じ事を何度か言ったのかな?
人の話を聞かないのは親子どちらも似た様なところがあるのかも。
「父は歳をとって今まで以上に頑固になってしまって。赤木さんに迷惑を掛けないで神社に行くなり以前教えて貰った退魔協会に行くなり、いい加減にちゃんと対処する様にと何度も言ったのですが聞いてもらえず、手をこまねいているうちにこんな事になってしまい・・・本当に申し訳ない」
頭を下げたままおっさんが続ける。
老人が頭が固くなって人の言う事に耳を貸さなくなるのって認知症の初期症状なのか、単に加齢劣化で硬直的になって新しい事を考えるのが面倒になった脳の反応なのか、興味があるところだ。
ある意味、認知症でも治せる碧が全力であの迷惑ジジイを治した場合、人の話を聞く様になるのか試したら興味深い結果になったかも?
だが、事件が起きちゃった今となっては結果として反応が変わっても、治療で認知症が治ったからなのか、迷惑を掛けたから悪い事をしたと認識しているからなのか、分からないね。
まあ、考えてみたら人の話を聞かない頑固者とか独りよがりな人間は若くてもいるからなぁ。
あの迷惑ジジイが穢れや付喪神の存在を認識できず信じていないとしたら、買い集めた骨董品を穢れていて危険だから売れないと言われたのも単なる詐欺とか嫌がらせとかだと思っていた可能性も高い。
諏訪神社と白龍さまと碧達一族がいるここら辺だったら退魔師とか穢れとかに対する認識がもっと現実に即しているかと思ったんだけど・・・外部からの人なのかな?
もしくは、自分の目に見えるモノ以外は信じないタイプなのか。
「刀を振り回して暴れた事に関しては私達は特に何か処罰を求めるつもりはありませんが、法的な処罰がある場合にそれを緩和してくれと願い出るつもりもありません。
悪い事をしたと思っているなら、言葉で詫びるのではなく、さっさと問答無用で柴田さんと問題の骨董品を退魔協会にでも依頼して全て清めて貰ってください。
あとはこちらへ訪問しないで頂ければそれで十分です」
美帆さんが溜め息を吐きながら言った。
神社で祓えと言うのは諦めて、全部退魔協会へ持って行けとなったか。
まあ、その方が確実だし、神社は安いからとか知り合いの勧めだからとか言って駄目なところに厄祓いに持って行かれたら意味がないしね。
折角美帆さんが祓える神社を教えていたのに。ここまで問題が大きくなったらちゃんと退魔協会で祓って貰った方が無難だ。
退魔協会の祓いましたって言う依頼完了証書でもあれば、他の骨董品屋や古物商もヤバかった品々を買い取ってくれるだろう。
「そうですね。
さっさと全部祓わせて、売っぱらってしまいます。
本当にご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
私らが覗いているのを見てやっと客がいるのに邪魔していると気付いたのか、おっさんがもう一度深く頭を下げて出ていった。
「変な事件を起こしちゃったから起訴されるかどうか決まるまで拘束されるか、少なくとも家から出ないように家族に見張られるだろうし、老人だし誰も殺してないからって有罪判決になっても執行猶予で済むとしても・・・多分古物商は辞めろって言われそうだったわね」
冷めてしまったお茶を淹れなおしながら美帆さんが言った。
「会社を辞めて、セカンドキャリアも躓いて、これで引き篭ったりしたら一気にボケそうだけどね〜」
と言うか、自分の思考能力とか体力の衰えを感じたから息子に会社の舵取りを譲ったんじゃないかね?
既にちょっとボケ始めていたんだとしたら、今回の事件がきっかけになってボケが顕在化するのも早まりそう。
ボケってどのくらいやり甲斐とか人との交流で遅らせられるのか知らないけど、引き篭ったらあっという間だと言う話だからねぇ。
まあ、ボケ始めたから引き篭もるのか、引き篭ったからボケるのか、ちょっと因果関係が微妙な気もするけど。
「でしょうねぇ。
ちょっと初期の認知症みたいだったし」
碧が言った。
あらら。
脳神経か何かが萎縮し始めているのを視たのかな?
なんかこう、老化でどんどん体が言うことが聞かなくなるのは悲しいが、体以前に知性が劣化していくのは更に切ないよねぇ。
とは言え、碧に親しくなるとか、襲うとかしたら認知症を治して貰えるなんて周囲に認識されたらとんでもない事になりかねないし。
仕方がないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます