第878話 迷惑ジジイ
「清める必要がある様な武器は危険だから、神社に持って行って穢れ落としをして貰うべきって言ったら?
ウチの神社じゃなくても、3丁目のあそこでも素人が触れる程度の穢れだったら落とせると思うよ?」
碧が麦茶に手を伸ばしながら提案した。
へぇぇ、神社って人間だけじゃなくて骨董品や古武器とかの清めもしてるのか、
まあ、古い人形とかお守りとか付喪神憑きだけど壊れちゃった骨董品とかを清めるのって神社がやってる事が多いらしいしね。
退魔協会でも出来るだろうけど、あっちは高いからねぇ。
「勿論それも言ったわよ〜。
だけどケチらないでウチの霊水を使わせろって執拗に言ってくるのよねぇ。
あれ、きっと商売に使って儲けようと思っているんじゃない?」
美帆さんが腹立たしげに息を吐いた。
「商売?
骨董品屋か古物商なんですか?」
なんか最近そういう話に縁があるなぁ。
「実際は素人なんだけど、微妙に一歩玄人寄りぐらいな感じの古物商モドキ?
元々は流通業の中小企業の社長だったんだけど、息子に会社を譲ってからは暇になったから自分の目利きを活かして古物商として儲けてやるってあちこちの旧家を訪れて蔵で捨て置かれていた古物を捨て値で買い集めたらしいのよ。
いざ売ろうとしたら、安く買えた物の殆どがヤバい穢れや付喪神崩れが憑いてるって発覚したんでしょうね」
うわぁ。
無駄に『歳の割に』元気で暇もある中高年が山に登って遭難するのも迷惑だけど、中途半端に知識がある素人が自分ならプロより上手くやれると思って別な方向で頑張って迷惑をばら撒いてんのも困るね〜。
まあ、自分一人で困る分には好きにしろってとこだけど。
近所の知り合いを利用て失敗からリカバーしようと粘着するなんて、言語道断だね。
プロの古物商や骨董品屋だって、良い物を持っている旧家にはそれなりに訪れて掘り出し物で購入できるものは購入してるでしょうに。
専門家達がパスしてる時点で放置されてるブツに問題があるのかも?と気付けよ。
旧家の当主か何かで、そんじょそこらの古物商では太刀打ちできない様な旧家間の伝手があるっていうならまだしも、言っちゃ悪いけど比較的中流階級が暮らすような地域に住んでいる中小企業の元社長なんて、伝手って言っても『顔見知り』程度なんじゃないの?
旧家側としたら買ってくれるなら処分に困っている先祖からの遺産を喜んで売るだろうけど、どこの古物商にも見せないような宝物を見せてもらえる様な関係性があった訳じゃあ無いんだろうね。
しかも、そこそこ買い集めちゃってから問題に気付いて慌て、金をケチって清めようとしているって事は・・・それこそこないだの宮田さんのところの義妹以下で、穢れの視認すら出来ないんじゃない?
古物商として自分で仕入れまでするなら、穢れが視えないならば以前の水島家の蔵整理の時みたいにプロがヤバい物の鑑定に来ている場合以外じゃあ買い取りはしない方が良いんじゃない?
まあ、古物商には古物商なりにヤバい物を見分けるコツか道具があるのかもだけど。
「危険だと分かっている古物を清めずに売ろうとするのは呪詛と同じ扱いになる筈なんだけど、そのご近所さんって古物商として登録しているのかしら?」
碧がニヤリと微笑みながら言った。
考えてみたら、古物商って多分登録する際に穢れとかの危険物を取り扱うことに関する決まりとかを教わる筈だよね?
うっかり知らずに買って売りましたってんだったらまだしも、執拗に無料で清めようとしているって事は仕入れ時はまだしも現時点では穢れているって認識している筈だからそれを普通に売るのは違法な可能性が高い。
まあ、違法だから霊泉を使って穢れを洗い流そうとしているんだろうけど。
・・・いくら霊泉だと言っても、大量の穢れを洗い落とせるのかね?
この温泉は仄かに白龍さまの聖域からの霊気が混じって霊泉となっているだけで、極端に清めの効果が強い訳じゃあないのだ。
入ったら気持ちは良いけど、こびり着いた死や苦痛の穢れを洗い流すにはそれなりに時間が掛かるだろうし、大量に穢れた古物を漬けたりしたら、霊泉足湯の方が力負けしちゃうんじゃ無い?
まあ、どちらにせよ。
「田端氏にチクろうか。
それとも、前回の宮田さんの義妹が贔屓にしていた店に制裁を課した『当局』って警察じゃないのかな?」
罰金を課されたとは聞いたけど、それが警察だったかどうかは聞いてなかったな。
「名刺を貰っているから、連絡するわ」
にっこり笑いながら碧が言った。
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