第876話 泣くのが仕事

「さぁ〜て出発〜!」

いつもの様に後ろの椅子を撤去した軽バンに亜空間収納を使って持ち込んだ強化段ボールの猫ハウスと水の容器とトイレを設置して源之助を迎え入れ、我々は諏訪へと出立した。


今までは碧と私で二人がかりでバンへ色々と運び込み、その後に源之助を連れ込む必要があった為に近所の駐車場を借りて一旦バンを停める必要があったのだが、私の亜空間収納に猫ハウスとトイレが入る様になったので、猫ハウスの中に私の荷物も詰め込んで収納し、碧がレンタカーを借りてきたと連絡がきたら直ぐに予めキャリーケースに入って貰っていた源之助を連れて下に行き、バンに乗り込んで持ち込んだ物を設置して源之助をキャリーケースから出せば良くなった。

お陰で駐車場を借りる必要も無くなり、大分と時間とお金を節約できる様になって助かる。


路駐していても中に運転手がいれば問答無用でその場で駐禁を切られたりはしないからね。

ウチらのマンションの辺はそこまで路駐したら迷惑な場所でもないし、5分程度停まっていても問題は無い筈。


普段でもウォーキングから帰って来た際なんかに停まっている車をちょくちょく見るし。


車を離れて荷物を取りに行くとなるとやっぱ何か問題が起きたら困るかな〜と思って駐車場を借りるべきかとなるんだけど、私一人で全部運べる様になると碧が車から離れないで済むんだよね。

最近の亜空間収納の鍛錬成果を考えると前回の時でも猫ハウスを収納できた可能性は高いんだけど、試すのを忘れていた。


今回は碧に言われてやってみたら、しっかり全部荷物が入ったのだ。

いやぁ、あまり活用出来てなかった収納が役に立って嬉しい。


ちなみに、家の防犯用トラップは色々と楽しく工夫をしながら私と碧と炎華でガッツリ設置しておいた。

もしも誰かがウチに押し入ろうとしたら、かなり不幸な経験をする事になるだろう。


白龍さまも『儂が誰も入れぬ様に結界を張っても良いぞい?』と提案してくれたのだが、『自分達で色々工夫してみて、穴があったら改善していきたいので!』と碧に断られてちょっと寂しそうだったけど。


仲間が色々と工夫しようと楽しげに話し合っているのって参加できないとちょっと哀しいよね〜。

ただまあ、白龍さまが手を貸したら工夫なんぞする余地も必要もなくなっちゃうので、我々の成長と楽しみの為にも我慢してもらおう。


「なんかさぁ、毎回後ろを撤去して貰うのって悪いから私らの車を買う?

総額200万円ぐらいで買えると思うから、退魔師に報酬を注ぎ込めば買えそうだと思うんだけど。

去年は所得税が掛からなかったし」

碧が運転しながら提案してきた。


今日は源之助がまったりムードなのか、助手席で私の膝に寝転がって寝ている。


最初は碧の膝の上で寝ようとしたんだけど、流石にそれは危険だからねぇ。

クルミ経由で説得し、私の膝の上に来てもらった後にこっそりギアボックスから碧の膝と足元までを全部源之助限定で認識阻害結界を展開しておいた。


「ああ、私の発見報告の特典だっけ」

健康保険も退魔協会の方で負担してくれるから、年金保険料以外は全部報酬が手取りになったので確かに車を買うぐらいのお金は貯まったかな?


学生って事で生活費はお互いの親が負担してくれるので、退魔師としての収入はほぼ全部使えるのは大きいよねぇ。


室内型なガレージがある様な戸建てに住むのはまだ難しいけど、車だけでも買うのは可能だろう。でも、手間は多少は減るけど・・・固定費が上がる。


源之助が私らと一緒にドライブがてら依頼に行きたいかも微妙だから、車を買う方が良いかはまだ未定ってところかなぁ。


諏訪なら源之助も碧の家族や家に慣れてきたからそれ程負担じゃあないみたいだけど、他の場所での依頼の場合に源之助を連れてバンで運転して行くのをどのくらい源之助が歓迎するかは微妙だからねぇ。


「バンの後ろを撤去するのはそれなりにそう言う需要があって常時撤去状態になってる車があるんじゃ無いかな?

毎回ほぼ同じナンバーだから」

碧はレンタカー会社の方に手間をかけさせて悪いと気にしている様だが、気にする必要はないんじゃ無いかな?


「あれ、そうだった?」

碧が首を少し傾けた。


「一回だけちょっと離れた地方の番号だったけど、それ以外の時はいつも同じやつだから、ウチらみたいなちょっと変わった人か荷物が多い人用に確保してあるんじゃ無い?」

詳しくは知らないが。


「そっかぁ。

だとしたら源之助次第って感じだね」

碧が言う。


「取り敢えず、学生の間は泊まり掛けの仕事はほぼ拒否しているんだし、必要無くない?

卒業後にどの位遠距離の仕事を拒否できずに受ける羽目になるかをみてから決めようよ。

現時点では必要ないでしょ」

諏訪に行くのも2、3ヶ月に一度程度だから、200万円出して買う上に毎月5万円とか掛かる駐車場代は無駄な贅沢な気がする。


「そうだねぇ。

もうちょっと待ってみようか」

碧が頷いた。


「そう言えば、美帆さんの子って名前は何になったんだっけ?」

『赤ちゃん』で済ますわけにはいかないから名前はしっかり覚えておかないと。


いつきだって。

それなりに夜泣きで大変らしいけど、赤ちゃんに安眠用のお守りをあげるのはマズいかしら?」


ああ〜。

夜泣きねぇ。

「あれって寝る気がないと効かないからねぇ。

まずは目を閉じないとダメなんだけど・・・手の平で目を覆ったら目を閉じるかな?

そう考えると、夜だけだったら大丈夫かも?

でも楽だからって日中まで使いまくると変な癖がつくかもよ」


寒村時代に、最初の子が生まれた後に忙しい上に疲れていたので泣く度に問題を確認して単に機嫌が悪いだけだった場合はさっさと能力を使って眠らせていたら、気がついたら機嫌が悪いとスコンと寝落ちすると言う不思議な習性を持つ子になっていた。


幸いにも成人するまでにはその癖も消えていたけど、ちょっと焦ったのは今でも覚えている。


赤ちゃんが泣くのってあまり止めない方が良いんだと実感した経験だった・・・。





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