第875話 トラップ三昧

『あ、碧さま〜、あの湖の方へ行くのでしたら私もご一緒して良いですか〜?

久しぶりに里帰りして魔素を充填してこようかと思うんですけど〜』

源之助のフードで減量パッケージじゃないのを探して購入している碧に、窓辺でいつもの様にふくふくと日向ぼっこしていた炎華えんかが声を掛けてきた。


「え?

そりゃあ、里帰りはいつだって好きにしてくれて良いけど?

別に私の里帰りとか旅行の都合に付き合う必要はないのよ?」

碧がタブレットから顔を上げて言った。


『折角あの乗り物で境界門のそばまで行くなら、便乗した方が楽に行けますでしょ〜?』

炎華がのほほんと応じる。


ああ、『遠慮』じゃなくって『便乗』なのね。

単なる鴉の霊であるハネナガですら行き先が分かっていれば長距離移動が出来るんだから、幾らマンションでの夏と冬の温度調整のかなりの部分を担っているとは言っても、あれだけ大きくて力がありそうな炎華が自力で移動できない訳がないと思うが・・・面倒なのだろう。


まあ、温厚なふくふくしたタイプがいいとは碧が言ったんだもんね。

力がある幻獣の温厚なタイプって怠け者なのが多いのかね?


別にふくふくしたその体を楽しませてくれるならずっと怠惰にクッションで昼寝してても構わないんだけどさ。

室温の温度調整とか留守の時の防犯機能も果たしてくれてるし。


と言うか。

「炎華もちょっと留守にするなら、玄関に認識阻害の結界でも張っておこうか」

物理的に鍵を開けられない様にする結界は私には難しいが、鍵どころか扉そのものを見つけられなくするのは難しくない。


もしも真面目にウチに泥棒に入ろうとする人間がいたらかなり困惑するだろうけど。それを何処かに公表できる訳じゃないんだし、思いっきり人が入れない様にしても問題はないだろう。


「ああ、良いわね。

じゃあ、窓には私が昏倒結界を張っておこうかしら」

碧が頷きながら言う。


「考えてみたら、帰った時にベランダに昏倒している泥棒がいたら面倒か。玄関の方に昏倒結界を張って、ベランダ全体に認識阻害結界を仕掛けよう」

基本的に通常時だったらマンションの玄関に触る人間なんぞいない筈。


ピッキングしようと扉に触れて玄関の前で意識不明になって倒れていたら、近所の誰かが通りがかった時に救急車でも呼んでくれるだろう。


うっかり掃除のおじさんとかがよろめいて玄関に触れてしまったら申し訳ないけど、何もない廊下でよろめくなら暫し休息が必要なんだろうし。

一泊二日で帰ってくるんだから、一晩病院で寝続けたら碧が『お見舞い』で伺って起こすよ。

一応誰か倒れていたのを救急車で搬入させたりしたのか帰ってきたら確認して、該当人物は昏睡を解除するついでに裏がないかもチェックするけど。


ベランダに関してはベランダそのものに認識阻害をかければ隣の部屋のベランダから乗り移ってくる事も出来ない筈。


ついでに内側に恐怖を感じさせる結界でも張っておけば、『ある筈』と押し入ってこようとする人間も撃退できるだろう。


見えない4階のベランダに当てずっぽで押し入ってくる泥棒はまず居ないとは思うけど。


『ふむ。

だったらベランダの縁に氷を張っておいて滑りやすくもしておきましょうか〜』

炎華が提案した。


「完璧だね!

これで入れる人間がいたら、敬意を払ってテレビやPCを盗むぐらい、許してあげよう」

碧が笑いながら言った。


まあ、そうだよね〜。

キャッシュカードもクレジットカードも持ち歩くし、銀行の口座は通帳無しタイプだからウチに押し入っても盗む物ってそれ程ないんだよねぇ。


実は一番高いのって諏訪から入手している聖域の草を使った符用の和紙なんだけど、あれは素人には価値がわからないだろうし・・・分かる人間だったらそれを白龍さまの愛し子の家から盗むなんて自殺行為だと分かっているだろう。


「それらを全部跳ね除けて忍び込む凄腕がいたとしても、チュー助を残しておけば泥棒が入ったら分かるし、分かった時点でハネナガを喚び出して犯人を追跡して貰えば後日どうとでもできるから、その程度で良いよね」

部屋の中を荒らそうとしたら、ハネナガに襲いかかって貰うかな。

玄関の方でチュー助に音を立てさせたら誰かが帰ってきたと思って慌てて逃げるかも?


と言うか、どう考えてもそれこそ天井か隣の家との壁に穴でも開けて入ってくるんじゃない限り侵入は無理だとは思うけどね。


とは言え。狙われている場合にどんな防犯対策が出来るか、もっと考えるのも楽しいかも。


時折再放送されるクリスマスに家へ置き去りにされる少年の映画って好きなんだよね〜、

家をトラップ三昧にするのって、楽しいかも。









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