セカンドでもキャリアはしっかり考えてから
第873話 怖い武器
「ねぇ、暑くなる前にまた諏訪へ美帆さんの所の霊泉に浸かりに行かない?
・・・あれ、考えてみたら彼女って妊娠してたよね。
臨月いつだったっけ?」
暑い頃に行った時に妊婦なのが分かる感じだったから、もうそろそろ産まれてる?
年末に行った時はかなり大きくなっていた。
妊娠による体型変化は本人の元の体型とか体質とかで個人差はあるが、あれだったらそろそろ産まれてないと大変な事になっていそうな気もする。
「もう産まれてるわよ。
2月に医師免許を持つ叔父がタイミングを合わせて帰省して、近所の産婦人科での計画分娩に立ち会って無事問題なく生まれたって連絡が来てたから。
もうそろそろ遊びに行っても迷惑じゃあ無いかな?」
碧が源之助におもちゃを振りながら教えてくれた。
最近は源之助も大人になったせいか、以前ほど走り回らなくなったんだよねぇ。
おもちゃで遊んでても飽きっぽくなったし。
ドタバタ悪戯されるのが減ったのはありがたいけど、前ほど元気じゃなくなって少し残念な気もする。
碧がいるので健康なのは分かっているから単なる成猫への成長過程に伴う変化だと納得出来るけど、これって普通の飼い主は『体調でも崩したの?』とちょっと心配にならないかね?
まあ、徐々にヌコ様が育つ内に落ち着いてくるという変化だからそれ程違和感はないのかな?
偶に実家に帰る際に遊ぶ程度の関係だとびっくりする事になるのかもね。
それはさておき。
「あれ、出産に碧は呼ばれてなかったんだ?」
折角身内に奇跡も可能なレベルの白魔術師がいるのだ。
当然出産時の立ち会いを希望すると思っていた。
「年末に戻った際にじっくりしっかり確認して母体にも胎児にも問題ないのは分かっていたからね。
通常の出産だったら医者である叔父が立ち会う方が、産婦人科の先生や看護師と変な軋轢が無くて良いでしょ?」
肩を竦めながら碧が言った。
まあねぇ。
出産後とかも暫くは医者にチェックアップとかに行くだろうし、出産時に名目上は素人な女子大生の従姉妹を医者や看護師よりも重視しているのを知られたら後々問題があるか。
「考えてみたら、今の時代だったらそれこそ『奇跡の腕を持つ医師』として碧の叔父さんも開業医として大成功出来るんじゃない?
もう一度諏訪に戻ってきて開業する気はないの?」
折角医者免許を持った白魔術師なのだ。
その能力をどこかの僻地なんかで埋もれさせずに、もっと人口が多い大都市か、親戚や友人が多いであろう諏訪で活用すれば良いのに。
「いやいやいや。今の時代だからこそ、大きな医療機関に属していない癒しの能力持ちな医者なんて徹底的に潰されるわよ?
本当に奇跡的な能力があるなんて信じられる様になって、金払いの良い客を根こそぎ奪われた上にあっさり治されちゃあ商売にならないからね。
信頼を築き上げる前に徹底的に悪い口コミとかを書き込みまくって潰すでしょう」
碧が私の言葉に呆れた様に返してきた。
ええ〜?
金払いの良い客を奪えると言っても、一人の医者が治療できる患者の数なんぞ限られているだろうに。
「街の開業医をやりたがる様な能力者をそこまで目の敵にするかなぁ?」
「叔父が諏訪で開業した時なんかは医師会の名簿に載っている電話番号が何故か毎回誤記されてて連絡が付かなくなっていたり、地域の医師会を通した大量購入の割引が何故か毎回売り切れで断られたりと言った程度の嫌がらせはあったものの、患者に対する悪評は態々人を雇って待合室に紛れ込ませて色々と『知り合いが誤診されてちょっと大変だったらしい』みたいな噂話の形をした嘘を流す程度しか出来なかったの。
だけど今となってはネットで検索サイトに悪評の口コミとか、廃業しましたなんて言う嘘のお知らせの書き込みを幾らでも積み上げられるのよ?
捨て垢なんて無料で30分もあれば作って書き込みが出来るのに、医者側がプロバイダーに名誉毀損や誤記に関しての情報開示や削除を依頼するには弁護士を雇ったり何だかんだで時間も金も掛かるんだから、どう考えても一個人には勝ち目がないわよ〜」
碧が指摘した。
そういえば、最近も新聞で医者や歯医者が連名で検索サイトの運営会社を損害賠償か何かで訴えたって書いてあったっけ?
明らかに不当な口コミや嘘が書きこまれても、中々削除してくれないせいで医院などが損害を受けているって話だったように思う。
愉快犯的な嫌がらせっぽい書き込みならまだしも、大手の医療機関が医者免許持ちの白魔術師を潰すために金を払って本気で悪評を流そうとしたら、今のSNSな時代では個人側に勝ち目は無いか。
嫌な世の中だね〜。
直に誰かと話しているなら嘘を吐かれても分かりやすいが、ネットの書き込みじゃあ私だって嘘か本当かなんて分からない。
そう考えると、ネットや口コミって便利だけどマジで怖い武器だ。
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カクヨムさんで別に書いている短めに終わる予定(希望!)な話の最新話を久しぶりにアップしました。
良かったら読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678
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