第872話 危険物取り扱い

「宮田さんの義妹が使っていた古物商が、危険物取り扱いに関して安全管理不備で改善命令を当局から出された上に罰金を食らったんだって〜」

大学から帰ってきた私に、碧がタブレットから目を上げて教えてくれた。


碧はかなりの授業をオンラインで済ませているのだが、私の受けている科目のいくつかは講師がネット配信の設定が下手すぎてオンラインだと何が何だか分からない回が多い為、最近は弱めな認識阻害を掛けてちょくちょく大学に行っている。


イマイチ退魔協会のフロント会社に納得いかなくて、まだ就職に関して聞かれた際のカバーストーリーが納得できるレベルで出来上がっていないんだよね。

そのうちもう少し設定をちゃんと考えて、大学で同期に会って色々聞かれても問題なく言い抜けられる様にしたいと思っている。


それはさておき。

芽衣さんが使った古物商??


先日はあの後に宮田さんと祐介君の家へ行ったところ、なんと彼は春華さんと同棲していた。

結婚する前に同居生活をちゃんと経験して、家事の分担とか生活上の価値観に大きな相違がないか確認しておくのだそうだ。


つまり。

芽衣さんが春華さんへの嫌がらせで贈った危険物って、春華さんがさっさと捨てて無かったら祐介君のマンションに置かれるところだった訳だ。


もっとも、どうも同棲については春華さんのことに関して芽衣さんの反応がイマイチだったから、父親は知っていたが芽衣さんには言っていなかったらしい。だから流石に義理とは言え10年近く育てた息子を危険に晒す気は無かったと思いたい。


幸いなことに二人のマンションには特に危険な程穢れている物は無かった。

我々は穢れの有無を確認したら、何やら弟氏の離婚とかについて話を始めた宮田さんを残してさっさと電車で帰ったのでその後のことは聞いていなかった。

のだが・・・、


どうやら何かお知らせが来たらしい。


「宮田さんの義妹、やっぱ離婚に同意しなかったから裁判になったんだけど、その際に弟さんは婚姻を継続し難い重大な事由として家族や知人を意図的に害そうとする様な価値観の違いを挙げたらしいのよ。

で、その証明の為に宮田さんに贈られた物に関しては私が危険なほどに穢れていたので清めの術を行ったって退魔師として証言したんだけど、ある意味私は宮田さん側の人間じゃない?

言い掛かりだって奥さん側が主張したから弟さんが資金の流れから今まで購入した骨董品全てをどの店で買ったか追跡して、店の方に売った物に関する情報を提示させたのよ。

で、幾つかの店はちゃんと記録が残っていたし、危険物だから取り扱いの注意及び譲渡する際の注意喚起に関する書類の写しがあって、それには彼女の署名があったの。

勿論それらを受け取った親族や知人は誰も注意事項に沿った説明は受けてなかったので芽衣さんの言いがかり説はあっさり没になったらしいわ。

だけど、最近よく使っていたって言う店が何も書類に記録はないって主張したから、弟さんが退魔協会に手を回して店で売っている骨董品及びここ数年で売られた物の危険度の確認をやらせたの」

碧があれから何が起きたのか、説明し始めた。


そう言えば、何か証言に行くって言ってたね。

誓約を使って嘘をつけない様にする訳でもない現世で誰かが証言したところでどれだけそれを信頼できるのかね〜と思って居たのだが、なるほど、別の団体をさらに巻き込んだのか。


「で?

書類を残して居なかったから罰金を食らったの?」


「それもなんだけど、先代が亡くなってから穢れや付喪神付きな危険物の販売を碌な説明も無しにやって居たことが判明してね。

記録も杜撰で危険物と普通の骨董品とを分けて無かったし。

先代の時代に仕入れた危険な付喪神付きの骨董品はまだしも、代替わりしてから仕入れた骨董品は全部同じ扱いにしていたのよ。

お陰で売った先を確認して危険物判定をしないと不味いんじゃ無いかってなったらしいんだけど、弟さんが興信所を雇って色々と情報収集した上で退魔協会にも依頼を出してお金を払って証拠固めしたから、店主は危険物の取り扱い不備で捕まったし、芽衣さんは裁判に負けて離婚が決定になったんですって」

おお〜。


金の力は凄いね。

と言うか、そんな形で負けて離婚となったら、財産分割もかなり不利にならない?

少なくとも、芽衣さんの悪事を調査する為に払った費用は全部彼女の財産分与分から引かれそう。


「古物商が付喪神付きとか穢れた骨董品を扱うのに規制なんてあったんだねぇ」

まあ、確かに危険だし、そう言った物を普通に売買できるんだったらある意味呪詛を掛ける代わりに使えちゃうよね。


「普通の骨董屋がうっかり知らずにヤバい物を一個か二個仕入れちゃって売っちゃったって程度だったら良いんだけど、意図的にそう言う曰く付きなのを集めている店はそれなりに免許が必要で守らなきゃいけない規制があるんですって。

私も知らなかったわ」

碧が肩を竦めながら言った。


でも、そんなのどうやって調べるんだろう?

まあ、骨董品を買って体調を崩したとか祟られたって事で退魔協会に依頼を出した時なんかは入手元を退魔協会か田端氏とかが確認するのかな?


「そんじゃあまあ、弟氏が離婚になって更に逆上した芽衣さんに刺されなければ、一応ハッピーエンドって感じかな?

どの位財産分与で芽衣さんがお金を受け取るのか、彼女がどの程度逆恨みするかで今後の危険度は変わるだろうけど」


田端氏に聞いたところ、穢れた骨董品を意図的に嫌がらせとして人に贈るのは呪詛の1回目と同じ扱いで、あれに関して現時点では法的に罰することは出来ないらしい。

今回の事件で警告を受けたから今後同じことをやったら呪詛を依頼するのと同じ扱いになるし、離婚して夫という資金源から切り離されたので思う存分危険な骨董品を買い集めることは出来なくなるだろうが。


一応、また宮田さんに会うことがあったら芽衣さんがどんな感じに受け止めているか、聞いてみようかな?

呪う勢いで逆恨みしているんだったらマジで能力を封じておく方がいいだろう。

元々穢れが見える程度で大した才能は無いが、『穢れが見える』時点で多少は魔力を使う適性があるとも言えるので、呪師になろうなんて思われたら誰かが不幸な事になりそうだ。


7年間は社長の妻として生活してきたのだ。一応ある程度の財産分与を貰える可能性は高いから、変に拗らせなければ離婚しても一人で生きていける筈なんだけどねぇ。


人間、欲をかくと碌なことがない。






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