第871話 そもそも間違いだったのかも
何やら内線で指示を出していた後に宮田さんは玄関へ向かい、ちょっとその脇の待合室(じゃあ無いだろうけど良く分からない小部屋)に入り、携帯電話を取り出した。
「あ、祐介くん?
京子おばさんよ。
実は芽衣さんが春華さんに贈った骨董品にちょっとヤバい物があったかも知れない事が発覚したんだけど、これから専門家の方とそちらへ確認しに行っても良いかしら?」
お、宮田さんの名前って京子さんだったっけ。
カルテではジルちゃんの名前とか毛色や模様に注意がいっていたから、下の名前を覚えていなかったんだよね〜。
イマイチ後から聞きづらかったし。
しっかし、甥姪と話す時って自分の事を自ら『おばさん』と言うのかぁ。
兄貴のところに子供が出来たらちょっとそこは悩ましいなぁ。
いつまで経っても『お姉さん』と呼ばせるのは苦しいが、『凛さん』と最初から呼ばせる様にしようかな。
『おばさん』呼ばわりは親戚でも嫌だ。
前世の言語だと『おばさん』を年上の女性の呼び名につける習慣はなかったから、日本語で聞くとちょっと微妙だわ。
他人がどう呼ばれようと知ったこっちゃ無いが、兄貴が結婚するとなると私に甥か姪が出来る可能性はそれなりにありそうだし。
何やら電話の向こうで男性が他の人に話しているらしき声が小さく漏れ聞こえる。
どうやら祐介君は春華さんと一緒に居たらしい。
「え、そうなの??
ははは、正しい対処法だわね!!
でも・・・うん、そうね、頼んでみるからちょっと待って」
宮田さんが携帯を手で塞いでこちらに向いた。
携帯電話ってどこを塞いだらちゃんと音が止まるんだろ?
まあ、ここでの会話が向こうに聞こえても良いんだけどさ。
「春華さんはなんか薄汚くて気持ち悪い骨董品は貰った翌日に近所の質屋で売り払ってきたんですって。
でも、気味が悪いから何か変な事をされて無いか確認の為に、部屋を一度見に来て貰えないかとの事なのですが・・・お願いできますか?」
おお〜。
将来の姑との戦いはどうやら嫁の思い切りのいい行動で攻撃を上手く躱せていたみたいだね。
「構いませんよ。
遊びに行った時に何か勝手に置いてきたとか、食事でも一緒にした際にバッグへ小さい物を忍び込ませたなんて事もあり得なくは無いですし」
私が頷いたのを見て、碧が応じる。
「ありがとうございます。
あ、祐介君?
大丈夫って話だから今から向かうね。
30分ちょっとで着くと思う」
宮田さんがそう告げて、電話を切った。
「ちなみに・・・弟さんとあの奥様の仲ってどんな感じだったんですか?
仲良かった夫婦が突然離婚なんて事になると周囲が色々と反対したりするかもですし、考えてみたら息子さんもそれなりに話し合いに参加したいと思いませんかね?」
宮田さんの車に乗り、目的地に向かいながらふと気になって尋ねる。
実母では無いとは言え、10年ぐらい母親として付き合ってきた女性が家族でなくなると聞いたら息子さんもびっくりしないかね?
まあ、自分の婚約者に穢れマシマシのヤバい物を意図的に贈っていたと聞いたら離婚を思い直す様に説得しない可能性が高いとは思うけど。
「弟と芽衣さんの関係は・・・熱量のバランスが取れていなかった感じですね〜。
一応弟も妻として彼女を尊重して大切にしようとは努力していましたが、努力しないと単なる同居人扱いになってしまう時点で彼女の愛情が返されていたと言えないでしょう?」
溜め息を吐きながら宮田さんが教えてくれた。
うわぁ。
『誠意ある対応をしようと努力される』って愛情が絡まると微妙に辛いね。
『愛』の反対語は『憎しみ』じゃ無くて『無関心』って言うけど、マジでそれって弟さんは実質『愛』は皆無な無関心状態なんじゃない??
「芽衣さんは望んで後妻になる為に頑張ったんだろうけど、弟さんも愛情を返せないなら結婚すべきじゃなかったかもですね〜。
ある意味、玉の輿目当てな相手だったらお互いをそこそこ尊重し、男性側は子供の母親役と社交におけるホステス役、女性の方はお金と社交出来る様な社会的地位って事でお互いギブアンドテイクなそれなりに良い感じに対等な関係になれたでしょうに。
一方だけが愛情を感じていてそれを相手からも求めているとなると・・・話が複雑になりますねぇ」
碧がうへぇ〜と言う感じでコメントした。
玉の輿目当てで結婚し、将来の更なる金の為に色々危険な嫌がらせをやっているのかと思ったのにね。実際はどうやらマジで弟氏を愛しているのに、空回りしているせいで余計に行動が危険な方向に暴走している感じかな。
性格的にはちょっとどころで無く問題があるけど、弟氏との関係に関してだけは同情するかも。
とは言え。
穢れの危険性もそれなりに認識している癖にそれを安易に嫌がらせに使うような人は問題ありまくりだけどね。
マジで弟氏が彼女と再婚した事自体が間違いだったんじゃ無い?
無事に離婚できる事を祈っておこう。
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