第867話 清められるのは気持ちが良い

「では、そちらが作業をしている間にちょっと防犯カメラの角度を確認してくる」

料金とか祐介君(弟氏の息子)と春華さん(祐介君の婚約者)のところに行くタイミングとかを話し合い、碧が蔵の清めを行う段階になって弟氏が出ていった。


そっか、貴重品を置いてあるんだから既に防犯カメラは設置してあるのか。

奥さんが帰ってきた時の言動が分かるように角度を調整するつもりなのかな?

音声も録音できると更に良いと思うけど。


「私も出ていた方が良いかしら?」

宮田さんが尋ねる。


「いえ、別に見ていても構いませんよ〜」

碧が応じて、蔵の真ん中に足を進めて祝詞を唱え始める。


そっと蔵の扉のところまで下がり、宮田さんにさっき弟氏がいるところで聞き辛かった事を確認した。

「義妹さんってその祐介君の母親なんですよね?

下手をしたら健康を害するような贈り物を義理の姉だけじゃなくて自分の子供にも送るような人なんですか?」


ちょっとそうなるとサイコパスっぽいよね。

もしくは本人は何も知らずに何か金持ちか宮田家に恨みのある古物商にでも利用されているのかな?


「祐介くんの実母は10年ぐらい前に交通事故で亡くなっているの。

芽衣さんは祐介くんの生みの親である紀美さんの従姉妹で、紀美さんが生きていた頃からそれなりに良く遊びに来ていたんだけど、彼女が亡くなってからは母親がいないと一人親じゃ子供に十分注意を払えないだろうから寂しいでしょうって言って殆ど入り浸りに近い感じで訪れるようになったのよ。

ちょうど祖父が病気で体調を本格的に崩して会社の手綱を弟に引き継いでいる時期だったからどうしても弟が祐介くんと過ごせる時間が限られていたせいで、それなりに祐介くんも彼女の事を受け入れていたのかな?

私や両親も出来るだけ顔を出すようにしていたけど、祖父の看病とかもあったし、祖母が亡くなった後で遺産の後始末もまだ終わっていなくてバタバタしていて、気が付いたら芽衣さんが祐介くんの母親役をほぼ完全に請け負っていたの」

碧が祝詞を唱えている様子をじっと見ながら低い声で宮田さんが教えてくれた。


宮田さんの祖母が亡くなり、祐介くんの母親が交通事故で死亡、祖父も体調を崩して多分その後亡くなったんだろうと考えると、随分とバタバタしていたんだね。

宮田さん達のご両親の存在感がちょっと薄いけど。


「で、結局何だかんだしている間に数年たって、やはり子供に母親は必要だし大きな会社の社長となるとそれなりに社交もする必要があるから、落ち着いてきた事だし弟も再婚した方が良いんじゃ無いかって話が出てきたのよ。

何人かとお見合いっぽい感じで弟も会ったんだけどイマイチ合わなかったらしくて、結局祐介とも馴染みがあるしって事で芽衣さんが後妻になったの。

本人は下手に子供を産んで遺産相続とか揉めたりしない方がいいでしょうとか言って子供は欲しがっていないらしいんだけど・・・祐介くん曰く、あの人は子供は嫌いなんじゃ無いかって」


ええ?

子供嫌いが従姉妹の子の世話を押しかけてべったりしたの?

なんかそれを聞くと上手い事周囲を騙しきって金持ちな社長の後妻の座を手に入れたって感じだね。


まあ自分の子を産んでいないから、祐介くんを殺して遺産を全て自分の子にってならないだけマシなのかもだけど。


でも、子供がいなければ弟氏が死んだ際の遺産って全部妻のものになるんじゃ無い?

子供と妻がいたら半分ずつになるよね?

いや、子供が居なくても親や姉弟が居たらそっちに代わりにいくんだっけ?


「ちなみに・・・。

宮田さんのご両親の健康状態はどうなんですか?」

母親は義理の娘からのプレゼントをあっさり『趣味に合わないから』と断ったらしいから、宮田さんと同じように穢れまみれなプレゼント攻勢は出来ていないだろうけど。


まあ、親世代は基本的に先に死ぬもんだけどね。

とは言え、今はそれなりに誰も彼もが長生きする。

親世代が死ぬのを待っていたら自分も高齢者と言われる年齢になっていそうだ。


宮田さんへの贈り物にしたって嫌がらせメインで殺意はかなり緩いと言うか気が長いから、殺そうと言う程の積極性は無い可能性も高いかも?


「両親は元気一杯ですよ。

しょっちゅう海外旅行に行ったり、海辺の温泉に浸かりに行ったりと留守が多いですが」

宮田さんが答える。


ふむ。

少なくとも義妹さんの策略で体調を崩している様子は無いんだね。


そんな事を話しているうちに、祝詞を終えた碧がぱんっと手を打ち合わせて浄めを完了させた。

相変わらず碧の清めの術は気持ちが良いわ〜。

さっきまで鬱々のジメジメな印象だった蔵が、一気にお洒落で綺麗な収納部屋に変わった感じがする。


「・・・私の家にある隔離部屋を清めて頂いた時も思いましたが、本当に何かこう・・・心が綺麗に浄化されるような感じがしますね」

嬉しげに微笑みながら宮田さんが言った。


確かに。

そう言えば、暑くなる前にまた美帆さんの旦那の会社敷地にある霊泉に入りに行こうかな。

あそこも凄く、爽やかと言うか清められる感じがして気分がいいんだよねぇ。

真夏でも気持ちは良いが、やっぱ温泉は暑くなる前の方が純粋に楽しめる。


その前に芽衣さんとやらのヤバさ殺意の確認を終わらせなきゃだけど。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る