第868話 激怒!

「もう直ぐ妻が帰ってくるので、暫くお待ち頂けますか?」

防犯カメラで確認していたのか、碧が清めを終わったところで現れた弟氏は暫し浄化された蔵を静かに見回した後、心なしか先程よりも丁寧に私たちの方へ頭を下げて頼み込んできた。


退魔師の存在を知っていたし、蔵に近づくと頭痛がすると言う実体験はあったものの、やっぱ微妙に半信半疑だったのかな?

碧に清められた蔵を体感して、改めて自分の妻が集めていた『贈り物用』の品々のヤバさを実感できたらしい。


ついでにそれを祓った私ら(今回は碧だけど)の実力も。

やっぱこう言う時は碧に清めてもらうと効果覿面だよねぇ。

私だって穢れは祓えるが、祓った後の爽快感が違うと有り難みも違うっぽい。


まあ、その分私は芽衣さんの尋問に多少は協力しようかな。

あんまり露骨に自爆させたら怪しまれるから、多少考えたらずになって自慢したくなる程度の意識誘導だけど。


一応クルミをくっ付かせて、具体的に邪魔な人間を排除する殺人を計画しているかもチェックするつもりではある。


長期的な穢れによる健康被害を暴露して止めたら暴走した犯人義妹に家族が殺されたなんて事になったら宮田さんが哀れすぎる。

ジルちゃんのストレスにならないように、宮田さんが『自分が何も言わずにいれば弟(もしくは甥?両親?)が殺されることがなかったのに』なんて後悔しないで済むようにしないとね。


もうそろそろ芽衣さんが帰ってくるとの事なのでお茶を飲みながら待っていたら、弟氏の携帯から通知音がした。


「帰ってきたようだ」

弟氏がサイドテーブルに置いてあったタブレットを手に取って操作しながら言う。


宮田さんがずずいと近づいて覗き込んでいるのでクルミを動かして視界共有して私も覗きこんだところ、どうやら防犯カメラの映像がタブレットから見えるらしい。

幾つかのカメラからの映像がタブレット上に見えている。

ピックアップされて大きくなっている蔵の前にある防犯カメラ画面(多分)に、車から降りてきた女性が写っていた。

女性は車から降りた時点では何やら機嫌良さげに見えたが、蔵の方を見て動きが止まった。


慌てて蔵に近づき、暗証番号を入力して中に入っている。


ふむ。

清められて穢れが無くなったのが視認できるのかな?


どうやら穢れがある骨董品を集めていたのは偶然では無い可能性が高そうだ。

と言うか、穢れを視認できるって退魔師の才能があるんじゃない?

金か興味か伝手が無くて退魔師にならなかったっぽいが、しっかり能力を封じておくべきかもだねぇ。

下手をしたら自力で魔力を使った初期的な呪いを見出しちゃうかも知れない。


芽衣さん(多分)が蔵の中に入ったところで別のカメラの映像を弟氏がタップして大きくしたら、女性の怒り狂った表情がしっかりくっきり見えた。


うわぁぁ。

怒ってるねぇ。

部屋の中をあちこち見て周り、怒りに髪をかき乱していたと思ったら、蔵から飛び出して行った。


また蔵の前のカメラに戻ると、女性は家の方に向かって早足で移動しているのが見える。

玄関に辿り着いたと思ったら、勢い良く扉を壁に叩きつけるような力で玄関を開き、女性が家の中に飛び込んできた。


「祐一さん?!

私の蔵に何が起きたの?!?!」

へぇぇ。

弟氏の名前って祐一って言うんだ。


多分最初に挨拶した時に聞いたんだろうけど、家の中を見るのに気を取られていたせいでスルーしてたわ。


「どうも君が集めていた骨董品は穢れが酷くて健康被害を起こしかねないレベルだったようなのでね。

君が他の人にうっかり迷惑を掛けたりしちゃわないように、浄化してもらっておいてあげたよ」

弟氏がしれっと答えた。


う〜ん、自己紹介とかがあったら握手を求めて触れたところで情報収集とか意思誘導とかしようと思っていたんだけど、こっちを無視して話を始めちゃったよ。


しょうがない。

『クルミ、こっそりその女性の背中にでも引っ付いて、術を媒介して頂戴』

隠密型クルミにお願いする。


芽衣さんが客に挨拶しようと思うほど落ち着くまで待っていたら、口を滑らせるのも不自然な状況になるかも知れない。怒り狂っている今のうちに口を少し軽くしないと。


「うっかり?

うっかり?!

あれを集めるのにどれだけ苦労したと思っているの?!」

なんか意識誘導の術を掛けなくても芽衣さんは怒りに我を忘れそうな雰囲気だが、軽く術を掛けて更に核心に迫る情報をポロリしてもらおう。


そっとクルミ経由で弱い意識誘導の術を掛け、それが終わったので殺人の計画が無いかざっと記憶を検索していく。

直接触れているならまだしも、クルミ経由のリモートアクセスだとやっぱやり辛い。

しっかり記憶を読むのはちょっと無理で、単語検索っぽい感じでざっと探すイメージになる。


「・・・穢れの酷い物が集まっていたのは態となのか」

弟氏がため息を吐きながら呟いた。

まあ、それを疑ってはいたんだろうけど、20年以上付き合いがあり、7年ほど結婚していた相手が何やら意図的に人(それも自分の血族)を害するような行動をしていたとはっきり言われるのは嫌なもんだろうね。


「あれを集めるのにどれだけ苦労したと思っているの?!

あちこちの骨董屋や古物商で探し回って見つけてぼったくり価格の物を買わされ、沢山集めてる癖に売ろうとしない頑固ジジイがやっと3年前にくたばったから跡継ぎから買えるようになって、漸くそれなりに見た目が良いのが集まってきたところなのに!!」

芽衣さんが喚き散らす。


うわぁ。

弟氏も宮田さんもそれなりに豪邸に相応しい品格がある感じなのに、ちょっとこの芽衣さんは・・・下品?

上流階級の社交で微妙に疎外されても不思議はないかも。

それを恨んで嫌がらせをしているのかな?

夫の親族からも見下されていると感じているのかね?


取り敢えず殺人の計画は無いっぽいけど。










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