第866話 斬新かも
裏へ回り、蔵に向かったらなんか周囲が薄暗くなった感じがした。
北側で多少日当たりが悪いって言うのもあるが・・・先にある蔵から怨念じみた穢れが漏れ出てるのが原因っぽい。
「うわぁ。
あそこまで集めるって執念じゃない?」
碧が呆れた様に呟く。
「どうしましたか?」
弟氏が尋ねてきた。
「蔵に近付くと寒気がするとか、頭が痛くなるとか、思考が悲観的とか暴力的になるとか、何かそう言った反応はありませんか?」
普通の人でもこれだけ濃厚な穢れだったらそれなりに拒絶反応が出ると思うんだが。
つうか、こんなに穢れた蔵が側にあって、良くぞ家が平気だったね。
よっぽどしっかりした地鎮祭でもやったのかな?
蔵の部分からそれが侵食されて、どれだけ元がしっかりしていてもこのままだったらそのうち敷地全体も穢れていくと思うけど。
「そんな馬鹿な事が・・・」
私の質問に、弟氏は深く考えずに否と応じようとしたようだが、ふと口を噤んで立ち止まった。
何も言わずにそのまま蔵に近付き、辺りを見回す。
「・・・そう言えば、芽衣が骨董品をプレゼント用として買い集めてここに置く様になってから、蔵に来ると頭が痛くなる事が多くなった。
てっきり骨董品を保管するために湿気防止用か何かの塗装を芽衣が手配して、それと体質が合わなかったのだろうと思っていたのだが、外に立っているのにそれは無いか」
弟氏が静かに呟いた。
「取り敢えず、中を見せて貰えますか?
外からでも分かる程に穢れが酷いので清める方がいいと思いますが、緊急性のある危険な物もあるかだけ、先に確認しましょう」
考えて見たら弟氏って子供はいるのかね?
蔵なんて、子供が探検したり隠れ家を作ったりするのに絶好に場所だと思うが・・・流石に生存本能があるマトモな子供だったらここには近付かないかな?
弟氏に蔵の鍵を開けてもらい、中に入る。
『蔵』と言う名称だが外は何とはなく和風なものの、中は普通の倉庫か物置っぽい内装で棚が壁一面にあり、色々な箱が置いてあるだけだった。
何が箱に入っているのか分かりやすい様に写真が正面側に貼られていて、明るい電気と伴って普通な物置っぽい場所の筈なのだが・・・濃厚な穢れのせいでそこら辺中がカビだらけでGやナメクジでも出てきそうな印象だった。
穢れがあるとこうも見た目と印象が乖離するんだねぇ。
去年の年末にやった水島家の蔵の品々のチェックの時は蔵そのものが古かったからカビっぽくて汚いんだろうと印象に疑問を抱かなかったが、比較的新しい見た目で明るく換気もされているっぽい空間なのに、暗くてジメジメした印象を受けると言うのはなんとも不思議な感覚だ。
『暗くてジメジメ』って言うのが穢れに対する人間の本能的な印象なのかな?
「どうやら刀とか武器系の物は無いせいか、手に触れたら周囲の人間に襲い掛かって殺そうとする様な物はないですね。
とは言え、物凄い穢れの濃度なので、普通の物を置いておいたら数ヶ月でそれも穢れそうですからここは将来的な健康の為にも清める事をお勧めします。
退魔協会に連絡したらいくら掛かるか見積もりを出してもらえると思いますよ?」
流石にこれらをそのまま古物商とかに売ることは勧められない。
普通に燃えるゴミに出すのも迷惑な事故を起こしそうだ。
ある意味、殺人的な衝動が強い血の染み込んだ品抜きでよくぞこれだけ穢れた品を集めたもんだね。
社交して付き合いのある女性への嫌がらせとかに使おうと集めているなら武器なんぞ贈れないし夫からも怪しまれると言う事で自制していたのかな?
「・・・まさか芽衣さんったらこう言うのを祐介くんの所に贈ったりはしていないわよね?」
宮田さんが蔵の中を見回しながら言った。
「祐介も骨董品なんぞに興味は無いから大丈夫だと思うが・・・春華さんの趣味に合わないプレゼントを贈られて困ると言う話はしていたな」
愕然とした顔で弟氏が呟く。
祐介くんと春華さんって誰だろ?
もしかして弟氏の子??
まだそんなに歳がいっているように見えないけど、考えて見たら20代前半で結婚していたら40代前半で子供が20歳ぐらいになる。
学生結婚していればその時点で夫婦になっている可能性はゼロじゃ無いし、結婚していなくても大学に行く為に家を出ていて、結婚を考えている彼女が居るというのもあり得なくは無い。
同居していない方が思う存分に穢れた物を嫌がらせで彼女にヤバい物を贈りつけられるね〜。
ある意味、斬新な嫁(?)イビリだ。
「ここと、息子と彼女の部屋の清めを急ぎで依頼しても良いだろうか。
金は幾らでも出すから至急お願いしたい」
ガバッと深く頭を下げて弟氏が頼んできた。
何やら心当たりがあるの??
まあ・・・何も言わずにここを清めて、奥さんがどう言う反応を示すかで穢れた品を確信犯的に集めていたかを確認できるよね。
息子さん達に関しては変な物を贈られていて、宮田さんの家みたいに欲しく無いヤバい品の隔離部屋が無いと健康被害が出ているかもだし。
「分かりました」
私が小さく頷いたのを見て、碧が弟氏の要請に頷いた。
退魔協会じゃあ調査や何だかんだで時間が掛かるかもだからねぇ。
取り敢えず。
ここを清めちゃおう。
ついでに隠密型クルミを残しておいて奥さんの反応を観察してみようかな?
いや、弟氏にペットカメラでも入手して自分で確認しろと勧めるべきか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます