第862話 赤黒く見えるって・・・

「やっぱ退魔師を知っているのって基本的に古くから続く金持ちなのかなぁ」

高級住宅地にある立派な家を見ながら思わず呟く。


なんかこう、旅館とか不動産屋は別として、退魔師って顧客が金持ち層が多いビジネスなんだね。

会う客どれもが金持ちだと、思わず僻みたくなったり大金を毟り取ろうとしたりする人間が出てきても不思議は無いのかも。


平均的な中間層や貧乏人を態々呪ったり祟ったりする事は少ないから(呪う依頼を出すより物理的に殴りかかる方が安上がりだしお手軽だ)、そっちでの退魔師の需要が少ないんだろうけど・・・以前の兄貴と彼女さんみたいにうっかり事故って慰霊碑とかを壊して祟られたりした一般市民は、退魔師の事を知らない場合はどうなるんだろ?


「裕福な家の方が古い情報も維持する余裕があったんだろうね。

それこそ戦争とかでも良い家の息子はなんだかんだで徴兵を逃れられたり、士官として危険度が少ない場所にいたり、やばい戦地に送られなかったりって言うのがあったかもだし・・・ある意味逆説的に言うと、ちゃんと稼げる年代の男手が生き残った家が旧家として現代まで残ったのかも?」

碧が微妙そうに言った。


良い家の息子でも戦死した男性は多いだろうけど、歴史のある旧家なんかだったら軍部とかも忖度して危険度が少ないところに送ったのかもだよね。


それに、金持ちだったら着物や壺を売る事になろうと戦後の食糧がない時代に栄養失調で死ぬ危険性は一般庶民より低かっただろうし。


やはりあの時代に一族の中でどの位歳のいった人間が生き残れたかで、どの程度の古い常識を失わずに済んだかも左右されたんだろうね。


それはともかく。

こんな立派な家だったら使用人とかも居て、家の掃除とかはそっちがやってくれてるんじゃないの?

それとも立派な家でも今はあまり収入がなくて家事は自分でやっているんかね?


資産があっても収入がない人っていうのはそれなりに居るから、旧家で不動産はあっても今はちょっと収入的には微妙な可能性はあり得るか。


だったらこの立派な家を売ってもっと小さいところを買えば?とも思うが、収入がないとローンを組めない。

だから家持ちで収入がない人間がもっと安いところに引っ越そうにも、まず何処かに部屋を借りて家具諸々をそこに運び込み、家を売り、金が入ってからもっとお手頃な値段のマンションなり家なりを買うよう勧められて意外と大変らしいとこないだ青木氏から雑談で聞いた。


大黒柱を失った専業主婦なんかがもっと不便で安い家に買い換えようとしても、中々難しいらしい。

現在住んでいる家を担保に短期的にお金を借りてマンションなりを買えばと持ち主が思っても、日本の銀行は収入がない相手に金を貸すのを嫌がるので難しいのだとか。


ノンバンクとかだったら不動産担保のローンを組めるだろうが、借金は銀行相手にしたいと希望する人が多いらしい。

ノンバンクって闇金融とかとごっちゃになっていて印象が悪いからね〜。


かと言って売って次のを買うまでマンションを借りようと思うと引越し代やマンションの敷金礼金などでそれなりに出費が嵩む。


それに収入がないと賃貸マンションを借りるのすら難しいらしいし。

遺族年金なんて子供がいなければたかが知れているので出費を切り詰める必要があるのに、家を売ってもっと安い住宅にランクダウンするのが意外と難しいって何とも面倒な話だよね。


まあ、宮田さんがそんな状況なのかは知らないけど。

家の中に入ってみると品のいい絨毯とか絵とか置物があったから、少なくとも家を売れなくてお金に困っているって言うのはなさそうだ。

家の中は普通にお洒落で綺麗だったから、急いで先に帰ったのは想定外な客の前に一応家の様子を確認したかっただけみたい?


立派なダイニングテーブル(これは『食卓』とは呼ばんだろう)の奥にある、ガラス張りの飾り棚にはお洒落そうなワイングラスとか食器が置いてあり、上の方にすっきりとしたデザインの壺があった。


ただし。

「赤黒い・・・?」


かなりおどろおどろしい。

一瞬、赤黒いなんて趣味悪い!と思ったが、よく見たら普通に白い磁器だった。

穢れで赤黒く見えるってどんだけ怨みや死を溜め込んでるの、これ?!


「あの上から2段目の壺が最近貰ったってやつですよね?

こう・・・見ていて寒気とかがしてきませんか?」

あれだったら普通に霊感とかがない人間でもヤバいのが感じられない??


「・・・そういえば、最近食卓に座ると寒い気がする時が増えましたが、てっきり風邪でもひき掛けなのかと思っていました。

確かにあの壺をじっと見ると寒気がしてきますね」

言われてみれば、という感じに宮田さんが応じた。


ちょっと呑気すぎじゃない??




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