第860話 値付けは悩ましい
「見に行く、とは?」
「悪霊とか祟りが実在するってご存知ですか?
勿論、祟りを祓うと言って大金を騙し取る詐欺師も多いですが、本物の退魔師も実在するんですよ。
政府公認の退魔協会が存在していて、私達もそこの一員なんです」
まあ、うちらは平均的退魔師とは大分と違うけど。
「ああ。
そう言えばそんな話を祖母から聞いたことがありますね。
縁が無かったので特に考えた事はありませんでしたが」
宮田さんがあっさり応じた。
ふうん?
もしかして宮田さんのお祖母さんは旧家に連なる人なのかな?
まあ、それこそ古い術者が多い地域(例えば諏訪とか)に縁があれば旧家じゃなくても退魔師の存在を信じて育つんだろうけど。
「ちなみに碧の様な癒しの術が使える退魔師はごく少数ですし、日本では術師が医師免許を自分で持つか持った人間の監督下で働くので無い限り人間を癒すのは違法なのですけどね。
幸い、祈祷による奇跡は法で規制されていないので。
あまり大々的に広まるとペットへの祈祷まで禁じられる可能性があるので、信頼できるペットを愛する人以外には藤山の事は広めないで下さいね」
退魔師が実在するなら祈祷師の話も大々的に広めても良いのでは?!とか、猫だけでなく人間の病気も治せるよね?!とか思われても困るので、一応釘を刺しておく。
「・・・なるほど。
祈祷で人間も治せばと良いのにとも思いましたが、既得権益が大き過ぎますか」
宮田さんが呟いた。
おや?
怪しい壺を飾るうっかりさんだからポヤポヤな人かと思っていたけど、意外と鋭い?
「まあ、藤山にやる気があるなら法を無視してでも治してもらいたい権力者は幾らでも湧いてきますが、権力者が癒しを求めるなら自分たちが政治献金に流されて定めた法律をまずは改正せよと言うのが彼女の信念なので」
普通の白魔術師だったら腕のいい医者と大して差がない程度にしか癒せない事も多い上、医者と白魔術の適性持ちな術者では治療できる人数が違いすぎる。
だからこそ政治家たちは安易に医療機関側からの要求に応じて術師による癒しを制限したのだろう。
なのに医者よりも圧倒的に癒しの能力が高い術者にだけその法を無視してくれと頼んでくるなんて、虫が良すぎる。
他者へ白魔術師による癒しを禁じるんだったら、自分もそれに従って苦しめばいい。
自分は法に縛られる必要はないと考える権力者は多いが、そんな奴らでも白龍さまに愛される碧に手出しは出来ない。
ざまぁ。
「癒しに関してはさておき。
私たちは悪霊とか呪いとか、それらから生じる事が多い穢れ等も視えるんですが・・・ジルちゃんも宮田さんも、穢れを体に溜め込んでいます。
そのせいで疲れやすいのではないかと思いますし、ジルちゃんの不調も関係している可能性が高いでしょう。
ですから、その怪しい飾り壺を確認して必要があったら清めましょうか?」
まあ、ジルちゃんの下痢は穢れが直接の原因なのではなく、それが自分のテリトリーにある事によるストレスが実際のトリガーだと思うけどね。
穢れって長期的な不調は起こして寿命を縮める事はあっても、意外と下痢みたいな直接的な症状は短期では起こさない事が多いんだよね。
物理的に身体を壊すのには少なくとも年単位は掛かる事が多い。
お陰で因果関係が分かりにくくなるのだが。
「そうですね・・・「終わりましたよ〜!」」
宮田さんが返事をし始めたところで碧がジルちゃんを入れたキャリーケースを持って姿を現した。
「ジルちゃん!」
宮田さんがささっとキャリーケースを受け取り、中を覗き込む。
動物病院とかに連れていくと猫って機嫌が悪い事が多いのだが(犬もだね)、碧に癒してもらうと気分が爽快になるのか、キャリーケースの中に閉じ込められていても元患者たちは機嫌がいい事が多い。
ジルちゃんもそうだったのか、覗き込んだ宮田さんの鼻にぴとっと前脚を着けて挨拶していた。
「ジルちゃん!!
元気になったのね〜!」
愛猫の挨拶に感激したのか、宮田さんが顔をジルちゃんの肉球に押し付けて喜んでいる。
・・・そろそろその前脚が『挨拶』から『ウザい、寄り過ぎないで』に変わりつつ無い?
う〜ん。
確かに猫の肉球って魅惑的だけど、あれを押し付けられて喜んでいるのって見方を変えると『女王様、踏んで下さい』って言っている下僕志願者の行動にも見える。
ちょっと昨晩読んだ本に出てきた脇役に重なって、微妙な印象だ。
『で?
どこまで話が進んだの?』
碧が念話で聞いてきた。
『ジルちゃんが食卓に乗らなくなった頃に貰い物の飾り壺を食卓のそばにある飾り棚に置き始めたんだって』
『そっかぁ。
もうさ、問題を見つけた場合は直接的に知っている人なら快適生活ラボがご相談に乗りますって事で適当に前もって決めておいた金額で契約するのはどう?
流石に神社のお祓いの値段で何でもかんでも対処する訳にはいかないけど、退魔協会に一々指名依頼を出してもらうのもアレでしょ』
碧が提案してきた。
『あ〜、それが良いかもね』
値段を幾らにするかは悩ましいところだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます