第859話 怪しい壺?

『クルミ、ジルちゃんに何がストレスなのか聞いてきてくれる?

あと、穢れとか悪霊にも思い当たる点があるかもついでに確認して』

クルミにジルちゃんへの質問を頼む。


まずは被害を受けてストレスを感じている猫から状況を聞き出しておいた方が、飼い主さん(確か宮田さんと言う名前だったかな?)とも話しやすいだろう。


宮田さんと猫のあるある(撫でて欲しそうに寄ってくるのに撫で始めると微妙に手が届かない位置に移動するとか、オモチャを気に入ってボロボロにしたから同じのを買ってきたのに見向きもしないとか、冬になったから高くて暖かそうな猫ベッドを買ったのにボロい段ボールを愛用するとか)を話していたらクルミから念話がきた。

『なんか暫く前に現れた容れ物が良くないって言ってるにゃ』


『容れ物』ねぇ。

全く何なのか想像つかんぞ。


取り敢えず、ヤバい何かをうっかり買ったか貰ったかしたんだろうな。

「ちなみに、ジルちゃんの体調が悪くなったのっていつぐらいからなんですか?」


誰か知り合いから話を聞いていて、ペットの体調が崩れて直ぐに碧を頼る人もいれば、今までの掛かりつけの獣医を信じて何年も通っていたけど良くならず、藁をも縋る思いで『怪しげな祈祷師』にダメ元でくる人もいる。


宮田さんはどれなんだろ?

『暫く前』に入手した何かが穢れとストレスと不調の原因なんだったら比較的最近な話っぽいけど。

猫の時間的感覚って本猫の興味度によって大分と変わりそうだからなぁ。


「2ヶ月ぐらい前かしら?

最初は普通の下痢だと思って、近所の獣医さんに連れて行って薬を貰ったんだけど良くならなくって・・・。

どうしようかと悩んでいた時に知り合いから藤山さんの事を聞いて、来てみたらスッキリ治って安心したんですけど・・・また最近になって下痢気味になっちゃったんですよねぇ」

悩ましげに溜め息を吐きながら宮田さんが言った。


「ちなみに、その2ヶ月より数日か数週間前からジルちゃんの行動が変わった点ってあります?

こう、今まで気に入っていた場所に寄り付かなくなったか、執拗に何かを叩き落とそうとするとか」

壊して破棄させようとするよりは寄り付かなくなる可能性の方が高いと思うが、もしかしたら自分のお気に入りに高い場所の側にあるなら叩き落として遠ざけようとするかも?


「・・・そう言えば、リビングの食卓に乗らなくなったわね。

やっと躾が出来たのかと思っていたのだけど、体調不良のせいだったのかしら」

一瞬沈黙して考え込んだ後、宮田さんが応じた。


ふむ。

食卓ねぇ。


「食卓の上とか、その側に置いた何か新しい物はありませんか?」

食卓の上だったら叩き落とそうとするかもだから、飾り棚があるんだったらその中かも?

まあ、近寄って叩き落としたくもないぐらい瘴気が凄いのかもだけど。


「そう言えば、食卓の前の飾り棚に置いた飾り壺を貰ったのはジルちゃんの体調が悪くなるちょっと前だったかも?

もしかして何か有害なカビでも生えているのかしら?!」

宮田さんがはっと背筋を伸ばした。


え〜、飾り棚って猫を飼っているならガラスのカバーが前側についた形なんじゃないの?

オープンなのじゃあ猫の悪戯が怖すぎるでしょう。


そうじゃなくても日本じゃあ地震のたびに飾ってある食器とかが飛び出しそうだし。


まあ、ガラス張りの飾り棚の中身が地震で前後に振り回されたら正面のガラスが割れそうで、却って室内の安全性に関してはマイナスな気もするが。

外用の窓に貼るガラスシートみたいのを飾り棚のガラスにも貼っておくのかな?


「ちなみに・・・世の中には呪われた壺とか、悪霊を抑える為の慰霊碑とかあるんですが、宮田さんもジルちゃんも微妙に穢れを体に溜め込んでいます。ヤバいホットスポットの側にでも住んでいるんじゃ無い限り、新規に何か危険な物を家の中に持ち込んだ可能性が高いと思いますが、

その飾り壺は何か曰くがあるような物だったりしますか?」

高級品でも新品だったら誰かが意図的に呪いでもしなければ危険度は低い筈。


呪詛は基本的に誰かターゲットを狙うので、たとえターゲットが宮田さんだとしてもジルちゃんにとばっちりがいっているのはおかしい。


骨董品だったら曰く付きのを偶然買ったのを貰ったのかも?

とは言え、偶然買っただけの壺を貰った人物とその猫が害を受けるほど穢れた物を売りに出す骨董商は問題だと思うけど。


その怪しい飾り壺でジルちゃんと宮田さんの飲み水を汲んでいるとでも言うんじゃ無い限りそうそう普通に『多少の穢れ』が付いた程度の飾り壺で飼い主と猫が体調を崩すなんて有り得なそうだが、飾り棚に入れるような壺を水を汲むのに使う人はいないだろう。


イマイチどう言う状況なのか、想像がつかない。


まあ、ジルちゃんが特に敏感でストレスを感じているのかもだけどね。


「・・・あれは貰い物なんです。

それなりに綺麗だから目につくところに飾ったんだけど・・・しまった方がいいでしょうか?」

宮田さんが真面目な顔で聞いてきた。


しまうだけじゃああまり効果はないんじゃ無いかなぁ。

それこそヤバいカビでも生えていたとしても飾り棚である程度は隔離されているのに、ジルちゃんは体調を崩して穢れを溜め込んでいるんだし。


「・・・宜しかったら私と藤山で見に行きましょうか?」

一応何らかの報酬を払ってもらうように話を持っていく必要があるんだけど、実際に視てみないと何が問題なのか分からない。






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