第853話 収用狙い??
「今回のこの治水工事って、そもそもどう言う流れで決まったんですか?
何か水害の危険性が高いと評価される様な事故や予兆でもあったんですか?」
石碑の浄化はキャンセルしても、下手にここの工事を強行して石碑が破壊され、祟り神化した土地神を浄化する羽目になるのは遠慮したい。
その為にはまず何が起きているのかを知り、可能なら工事を止める必要がある。
迂闊に喫茶店や自治体の会議室に入って話し合い、政治家に縁のある人に話を聞かれて横槍を入れられても困る。なので肌寒いがそのまま石碑の側の駐車場で私たちは話し合うことにした。
横田氏に口が軽くなる意識誘導の術を掛ける必要があるかもと思ったが、本人も土地神様の抹殺依頼に怒ったのか、自分から話し合いに積極的に参加してくれた。
「正式に私が知っているのは、この地域から選出された国会議員の安田氏がここの災害危険地域をもっと有効活用して地域全体の安全強化に利用する為に予算を取ってくると旗振りをして県知事と組み、大掛かりな治水工事計画を物凄い早さで通したと言う事実だけです」
横田氏が教えてくれた。
「地方では橋やトンネルや水道管の劣化がそれなりに進んでいて、それらの修理の為の予算が足りなくて色々問題が起きていると新聞にはありましたが、それらを放置してここで大規模な工事をしなければならない程ここら辺は危険なんですか?」
土地神が頑張れる程感謝の念が集まっているなら、それ程被害が出てないんじゃ無いかと思うんだが。
それとも被害が少ないお陰で予算が潤沢にあるとか?
「古い施設の修理や更新を優先すべきと地元の職員は言っているのですが、政治的にそう言うのは華が無いですし、確かに数年ほど前に県から依頼された研究者がここを衛星写真や地図に基づいて危険だと評価して災害危険地域に指定したんです。
それが決め手になったような?
ただ、何度も住民がヒヤリとするような思いはした事はあるものの命に関わる様な被害が出た事は殆どないし、家や畑にもそれ程被害は受けていないので、地元の人間はヒラタ様のお陰だと祈りを欠かしていません」
横田氏が川と周囲を見回しながら言った。
ふうん。
災害危険地域に指定されたんだ。
確かあれって建物の建築とかリフォームとかにも制限がつくよね?
しかも過去に死者や大きな被害が出ていないなら移転推奨地域としての補助金は出ないのかも。
とすると・・・。
「ちなみに、その災害危険地域の土地って今回の治水工事で収用されるんですか?」
横田氏が複雑そうな顔をした。
「ええ・・・全部ではありませんが、一部はそうなります」
「その収用される一部って安田氏の支援者とか親戚が所有していたりします?」
碧が鋭く突っ込む。
「ここら辺も纏まった利用されていない大きな土地はあまり無いですからね。
既存の家がある地域の土地を住民を説得しつつ買い集めるよりも、多少危険でも誰も住みたがらない倉庫用の土地の方が早いと言って高齢者用施設を新設しようと安田氏の妹さんの息子の会社が数年前に纏めて入手しました。
その直ぐ後に、東北の方の河の氾濫で川際にあった高齢者施設で逃げ遅れた高齢者に死者が出たせいで施設建設の話は立ち消えましたが。
今回はそことその周辺地域がバッチリ収用される予定です」
横田氏が教えてくれた。
どこの誰かがどこそこの土地を買って何に使おうとしているかなんてある意味プライベートか企業秘密っぽい話だと思うが、地方自治体で働いているから知っているのか、それとも田舎のプライバシーなんぞ知ったこっちゃね〜情報網なのか。
どちらにせよ、詳しいね。
しかも、無理やりこの土地で治水工事をする動機まで教えてくれた。
まあ、ある意味地元の人間にとっては公然の秘密ってやつなんだろうね。
「それってどう考えても身内の為の利益誘導じゃ無いですか。
違法じゃ無いんですか??」
もっと人が死ぬかも知れない切実に補強が必要な場所の治水工事とか、崩壊したら人命に関わるかも知れない橋やトンネルの修理とかの方が優先順位は高いだろうに。
マジで政治家、何やってるの??
その政治家の甥も、地元の人間なんだったら土地神様のことぐらい知っているだろうに。
それを壊して消してしまえなんて、本当に何を考えているんだろう。
「実際には殆ど誰にも被害が出ていないにしても、データ的には危険な地域として災害危険地域に指定されたんです。
そこの安全度を高める為の工事は違法とは言えません」
溜め息を吐きながら横田氏が言った。
「でも、死者が殆ど出ていない地域での治水工事よりも先にやるべき事は色々あるでしょうに。
まあ、それはいいとして。
その安田氏の政敵って誰になります?」
碧が尋ねた。
政敵よりも週刊誌にでもすっぱ抜かせる方が良く無いかね?
それとも政敵と仲のいい週刊誌を利用するのかな?
取り敢えず。
情報収集して、手を打とう。
ついでに退魔協会の調査員に天罰を下してはどうか、白龍さまに聞いてみよう。
水害対策で忙しい土地神様よりも、白龍さまの方が余力があるでしょう。
週刊誌が上手くいかなかったら土地神様に政治家へ天罰をどうですか?って持ち掛ける必要があるかもだし。
とは言え、既に話が動き始めちゃったんだったら政治家本人よりは週刊誌で騒ぎ立てて優先順位の低い工事に無駄金を使うな!って世論を動かして工事を取り止めさせる方が現実的だと思うが。
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