神をも恐れぬ所業

第851話 税金無駄遣い

「新しい依頼の話が来たけど、どうする〜?」

ウォーキングから戻ってきた私に碧が声を掛けてきた。


おや。

あの廃病院の後はしばらく仕事が無かったが、依頼が来たのか。

ある意味、北川さん関連の呪詛返しの消去だったら面白いんだけど、太り始めている怪しい人物が元職場に居るらしいから違うんだろうなぁ。


「なになに〜?

悪霊祓い?

呪詛返し?

それとも意表を付いて呪詛返しの消去?」


「ある種の悪霊祓い・・・かな?

なんか、川の増水対策で大々的に地形変更する工事に邪魔な慰霊碑があるから、それを霊ごと清めて撤去できる様にして欲しいんだってさ」

タブレットを見ながら碧が教えてくれた。


「ふうん?

まあ、工事で慰霊碑を壊して祟られた後に除霊を頼まれるより良いと思うけど、その慰霊碑が鎮めている霊はまだ昇天してないの?」

時間を掛ければそれなりに落ち着いて昇天するなり消滅するなりして消える霊も多いと思うのだが。


「退魔協会の調べでは多分手荒に撤去したら危ないんじゃ無いかって話らしい。

丁寧に撤去して別の場所に再安置するよりは、根こそぎ除霊しちゃった方が後腐れないからお願いしますだってさ」

ちょっと不機嫌そうに碧が言った。


「まあ、過去のやらかしで悪霊になっちゃった人達の霊を鎮めるための慰霊碑を手荒くぶっ壊す前に昇天して貰うって言うのは間違った対応じゃあないんじゃない?」

最近は温暖化のせいか異常気象も増えたから、川や海の治水工事の重要性は今までになく高まっているだろうし。


「そうだけどさ、近くの村が幾つも離散して人口が減り続けている様な地域なのよ?

ある程度の護岸工事は必要とは言え、この赤字財政の時代に無理に大々的な工事をしてハザードマップで真っ赤な部分をなんとかしようとするよりは、そこに住んでいる人をもっと安全な地域へ移転させてその辺一帯を豪雨時の遊水池的な扱いにでもすれば良いのに。

妙に大掛かりな工事を何でするのかと思って調べてみたら、どうも政治家の人気取りっぽいんだよねぇ」

碧が言った。


なるほど。

地元への利益誘導と人気取りだからこそ、下手に祟りとかで問題が起きない様に前もって慰霊碑を清め様なんて話になるのか。


「毎年3月近くになるとポコポコ増える道路工事とかもムカつくけど、これだけ財政赤字だとか、増税だとか、国債の利払い負担が増えるとかって暗い話題が新聞に毎日の様に出てるのに、国や県の金だったら最適な使い道を考えずに一部の人間の懐さえ潤えば良いって言う考え方をする政治家が多いのってマジで嫌になるね。

痛みのある改革を誰もやろうとしないで、人気取りの支払いをする予算を取ってくる政治家が持て囃されるんだから、ある意味日本人の自業自得とも言えるかもだけど」

私らへ払われる依頼費だってかなり無駄だ。


単なる川の堤防を強化する護岸工事程度だったら多分慰霊碑の撤去は必要ないだろう。

大々的な工事をする事で地方に金が流れ込むんだろうけど、本当に意味がある出費なのかは怪しいもんだよねぇ。


人口が減りつつある地方なのだ。

文句だけ言って危険な場所から動こうとしない頑固な連中をしっかり説得して移転させて効率的に安全管理をすれば良いのに。


危険な地域から『思い出がある家を離れたくない』と言って移転を拒否して、代わりに税金を使って地域の安全性を高める工事に大金を注ぎこめって主張する老人も我儘でムカつくけど、それを許しちゃうシルバー民主主義な日本も問題ありまくりだ。


確かに落ち目とは言え世界でも有数な先進国である日本を作り上げるのに貢献してきたのは今の高齢者達だろう。

でも、若い現役世代より資産があるのに無駄に延命する医療費の3割負担すら文句を言って1割から増やそうとする政治家に圧力をかけるんだから・・・少子化で国の人口がどんどん減っても日本が滅びる頃には死んでるからって自己中だよねぇ。


まあ、誰も自分が払う負担は最小限にしたいんだろうけど。

何だってヨーロッパはそれなりに痛みを伴う増税とかコストカットが出来るのに、日本は借金と赤字を垂れ流して老人を甘やかすんだろ?


不思議すぎる。

まあ、今回の依頼には直接関係ないけど。


「いくら公共の資金が無駄遣いされるのが不満でも、私達が依頼を拒否したって他の誰かが代わりに依頼をこなして報酬を受け取るだけだから、無駄な抵抗はせずに依頼を受けるんで良い?」

碧が確認に聞いてきた。


「うん。

碧じゃなきゃ浄化出来ないとか言うような案件じゃないんでしょ?

碧が拒否したら話そのものが止まっちゃうって言うならまだしも、そうじゃないなら受けて良いと思うよ〜」

碧が受けなきゃ止まるような案件だって、拒否したら何らかの圧力を掛けられて受ける羽目になるだけだろうしね。







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