第850話 無理か。
「なんかさぁ、黒魔術師系は微妙だとしても、元素系魔術や白魔術師の魔術はしっかり実在を証明できるし映像に記録も出来るんだから、いい加減魔術や退魔の術を胡散臭いって世論を改めて、退魔師になるって普通に言えるようになって欲しいかなぁ」
魔術師が実在すると証明できれば、悪霊や呪いの実在も信じられて、退魔師が詐欺師扱いされなくなる・・・かも?
とは言え、考えてみたら人の精神に関与できる黒魔術師だと認めるのは危険なので、『退魔師になる』と公言して『何が出来る適性なの?』と聞かれたら詰むから、私にとっては就職戦線で真実を言えない事に変わりはないか。
ある意味、前世では制約で縛られていたから自分の能力を他者に悪用しない(
魔術の存在を公に認めるとなると、黒魔術師の扱いをどうするかは中々難しい問題になるだろうなぁ。
まあ、無理に現状を変えなくても日本だったら退魔師って何やら古い儀式をする神社の宮司の親戚っぽい扱いで、今だって旧家関連だったら絢小路先輩みたいに必ずしも詐欺師じゃ無い扱いにならないでも無いけど。
「退魔の術や呪いの実在やそれを使える事を証明できても、それを使って悪事をしなかった事を証明するのが至難の業だからねぇ。
術師側も変な冤罪とか疑惑とかを掛けられるのを嫌がったし、権力者側も表立って自分たちでコントロール出来ない力を振るう存在を公にしたく無いって言う思いが重なって今の『否定しないけどそれとなく話を逸らす』路線に落ち着いたんじゃ無いかな」
碧が溜め息を吐きながら指摘した。
まあねぇ。
魔術師の数が少ない上に、前世みたいな人権を無視した制約が出来ないとなると・・・魔術師って詐欺師じゃ無い扱いにすると色々と面倒かもだね。
と言うか、魔術師をそれなりに尊敬される職業だと認めた場合、新しい人材が表に出て来る度にそれが詐欺師か否かを誰かが証明する羽目になるか。
日本みたいに業界団体が退魔協会に一本化されている国ならそれなりに収拾がつくかもだけど、多民族国家とか、アメリカみたいに州ごとの主張が激しい国とかだったら認定団体が大量に出てきて、その中に口が上手いだけの詐欺師な連中も含まれちゃうかも。
やっぱ、魔術を使える人間の人口比率が低すぎるのが問題かな。
前世だって職業として魔術師になれる程の魔力持ちが極端にこちらより多かった訳ではない気がするが、ちょっとタバコに火をつける程度とか、灯りをつけるとか、コップに水を注ぐ程度の魔力なら大抵の人間は持っていたから魔術に対して極端な憧憬や幻想がなかったんだよねぇ。
憧憬がなければ詐欺師になって金をむしり取れるような事も難しかったし。
こっちは魔素が薄いせいか、ある程度以上の才能がないと魔力を具現化して現象を起こせないのだろう。おかげで魔術に対する期待度が高すぎて実際にはそれこそ悪霊を倒したり呪詛を返す以外は現代武器や機械の方が効率が良いにしても、『魔術ができる』となったら経済性を無視して持て囃されそうで、それを利用した詐欺師が出てきそうだ。
しかも胡散臭いと思われがちだし。職業訓練が高くつき過ぎる上に他に普通に働ける選択肢が多いせいで、能力があっても退魔師にならない人間もそれなりに居そうだ。
・・・そう考えると、魔術師や退魔師の存在が公認されても詐欺師だけが増えて、自分が退魔師になると表明しても胡散臭いと思われる可能性は高いかも。
「まあ、考えてみたら魔術師とか退魔師が胡散臭いと思われているからこそ、普通の人の事件で『魔術師がやったんだ』とか『黒魔術師に命令されたから逆らえなかった』みたいな冤罪ちっくな弁護とかが無いだけマシか」
『魔術師がやった』系はまだしも、『黒魔術師に命じられた』系は同じ黒魔術師にしか調べようが無いし物理的な証明は不可能だしで、考えてみたら魔術師の存在が公になったら黒魔術師は前世並みに酷使される羽目になりそうだ。
流石に
「それにやっぱキリスト教とかイスラム教は魔術師の存在を悪と見做す様な教えがあるからねぇ。
下手に術師の存在を公にしてデータベース化したりしたら、狂信者による暗殺が横行しまくる可能性も高いから、やっぱキリスト教やイスラム教圏の人たちは公表には絶対に反対すると思うよ」
碧が言った。
ああ〜。
宗教が絡むと色々と理不尽な行動をとる人がいるからねぇ。
キリスト教とイスラム教じゃない国ってそれこそ仏教とか儒教圏なアジア程度しかなくない?
欧州や中東メインで関係なさげなアフリカでも何故かイスラム教とキリスト教が殆どらしいし。
日本と韓国はまだしも、民主主義じゃない国だったら術師の存在が公になったらそれこそ家族を盾に、マジで国の奴隷扱いになりそうだし。
うん。
『退魔師になるんだ〜』と言うカミングアウトは無理だね。
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