第848話 因果応報
「おかえり〜」
幾つかの授業を受け、他の友人や事務員とかと相談して履修しようと思うクラスに大体の目安をつけて帰ってきた私に碧が声をかけてきた。
カレンダー的にはもうそろそろコタツを仕舞っても良い時期な気がするが、まだ朝晩は冷えるし源之助がコタツの中の暗がりが好きなので出しっぱなしなんだよね。
「ただいま〜」
カバンを置き、手を洗ってリビングに行ってみると、碧がコタツの中に寝転がって源之助の顎の下を撫でていた。
「あ、そう言えば北川さんからチャットが来てた。
どうも前の職場のすごくお洒落だけど嫌味な元同僚が、最近無茶なドカ食いする様になったらしいって」
碧が薄く笑いながら教えてくれた。
「おお?
呪詛返しの消去を依頼出来ることを知らないのか、二人目なのか。
どちらにせよ、ザマアミロってやつだね」
同じ女性にブクブクに太る飢餓の呪詛を掛けるなんて、許し難い。
女の敵は女とも言うけど、マジで依頼主は女だったんだねぇ。
ピンポイントに最も嫌な呪いではある。
返ってきて、本人も絶望するぐらい嫌な思いをしているだろう。
どの位職場に残る気力が保てるか、見ものだね。
「ついでに、その情報を教えてくれた人に、北川さんが知り合いに勧められて神社で厄祓いしたら数年前から突然経験する様になったどうしても我慢できない空腹感がスッキリ消えたってそれとなく教えたらどうかって唆してみたら?
今時だったら職場に何人かはラノベ好きが居るだろうから、呪詛返しって考えに誰かが辿り着くんじゃない?」
折角の
周囲にも本人の罪を知られて更に苦しめば良い。
呪詛返しは因果の応報なので、それの消去に神は手を貸さない。だからたとえ北川さんが神社のお祓いで呪詛返しが出来たって話が呪詛を掛けてきた女に伝わっても、そいつの役に立たない。
「確かにね〜。
ちなみに、この呪師返しってどのくらい効果が続くと思う?」
携帯を取り出してチャットアプリに打ち込みながら碧が聞いてきた。
「う〜ん、かなり魔力を込めた感じだったから倍返しだと5年か10年ぐらい?
食欲って元からある生存本能にリンクした欲だから、それを刺激して暴走させるのってそれ程エネルギーは要らないんだよね。
しかも暫くすると体も精神も慣れちゃうし。
心が折れずに抵抗し続けたら5年ぐらい、早期に心が折れて抵抗しなくなったら10年ってところかな?
10年後にはもう暴食が習慣になっていて、呪いがなくても四六時中食べる様になっているだろうけど」
生き物は食べなきゃ死んじゃうから、本能的に食べようとする機能がそれなりに強いんだよね。
お陰で今の現代人は飽食しちゃって、糖尿病とかで早死にする様になっちゃうと言う微妙な調整不備を起こしている人も多いけど。
「まあ、人を呪うなら穴二つって言うもんね。
唯一残念なのは、その女が糖尿病になっても医療費が皆で払っている健康保険から出るだろうことだけど。
呪詛返しだったら医療費も全部自己負担にって規定があったらいいのに」
碧が溜め息を吐きながらアプリを閉じて携帯を置いた。
「確かにね〜。
まあ病気の因果関係なんてそうそう証明できないから、無理だろうけど。
少なくとも呪詛返しで昏睡状態になった呪師の延命措置をしないだけ、マシじゃない?」
いつまでも起きず、起きても裁判で死罪がほぼ確定しているような人間を医療機関で延命するなんてこの上ない金の無駄遣いだ。
それをやらないだけでもまだマシだよね。
「そうだね。
そう言えば、あの手当たり次第に呪詛を掛けまくってたアホな呪師、目覚めずに衰弱死したらしいよ。
弱い呪詛でもあれだけ積もり溜まると本当に死んじゃうんだねぇ」
碧がちょっと意外そうに言った。
「ある意味、呪詛返しで昏睡状態になって衰弱死する程の呪詛を掛けまくっても、弱い呪詛だから司法では比較的緩い処罰しか課さないって言うこの国の司法制度にも少し問題があるよね。
マジでそう言う時は被害者を探してガンガン呪詛返しするしかないかな」
まあ、呪師が捕まったら一応依頼者と被害者は探して確認するらしいから、その際に呪われている事を聞いたら被害者も退魔協会に呪詛返しを依頼するか、神社で厄祓いぐらいするだろう。今回みたいに依頼もないのに自発的に呪詛をばら撒いていたケース以外は自然と司法の調査過程の中で因果応報な報いが呪師に返るかも?
「ああ言うバカがそう沢山居るとは思いたくないけどね」
顔を顰めながら碧が言った。
まあねぇ。
でも、バカは枯れない泉の如く果てしなく湧いてくる気もするけど。
それはさておき。
「そう言えばさぁ、退魔師になる人って大学とかで就職の話題が頻繁になってきたらどう返すの?
退魔師になるって実際に公言するのは微妙な気がするんだけど」
時には絢小路先輩みたいに公言した上でカンパを募ろうとする強者もいる様だけど、あれは例外だよね?
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