第844話 女性の敵
「失礼」
一言断り、女性の腕に触れる。
うん、やっぱ飢餓の呪詛を掛けられている。いくら食べても満足出来なくて、ひたすら食べまくるし常に飢餓感に追い立てられる様な感じになる呪いだ。
こう言う呪いって前世では自然発生的な、餓死した農民の恨みが呪いになって領主や租税役人に掛かるって言うのが多かったんだけどねぇ。
この人のは普通に悪意をもって人為的に掛けられた呪いだ。
「何をするんですか!」
振り払おうとした女性に逆らわず、手を離す。
「詐欺的な占いとか呪いとか除霊とかと言ったモノは多いと思いますが、呪いも悪霊も実在します。
誰かがお金を払って貴女に飢餓の呪いを掛けたせいで、どれだけ食べても飢えた感覚が無くならなくなったのです。
同じ女性としてダイエットすら出来なくする呪いっていうのは許せないと思ったので声を掛けました」
穏やかそうに聞こえるように、ゆっくりと説明する。
だけど、これって金を払えと言った時点で『詐欺師か』って思われそうな気もするなぁ。
まあ、解呪してから納得したら金を払うって話にすれば良いかな?
ある意味、一時的にでも飢餓感が消えるだけでも嬉しいだろう。
今じゃあ物理的にこれ以上無理ってぐらい食べても飢餓感が多少マシになる程度で、この呪詛に掛かると下手をしたら食べる為に吐いて胃に空きを作ってでも食べ続けようとするからねぇ。
「確かにいくら食べても満足出来ないのって呪われているんじゃないかと思った事もありますが・・・本当に呪いってあるんですか?」
女性もある意味納得感があったのか、少し落ち着いた感じで碧が勧めたベンチに座った。
「誰かを呪いますとか、呪いを解きますとかって大っぴらに言っているのは殆ど全部詐欺だと思いますよ?
呪詛を掛けるのって違法行為なので人目につくところで広告するバカに本当の呪師は居ませんし、呪いは解呪されると倍返しになるので、飢餓の呪詛はまだしも本格的に相手を害するタイプだと呪詛返しで死ぬ事もあるので呪師にしてもそれなりに仕事は吟味した上で高額を要求しますから」
とは言え、それこそスポーツ選手なんかだったら決勝戦で後一歩足りない程度な実力があるなら、こないだの見合い相手への嫌がらせとして勧誘していた『ちょっと不調にするだけ』のしょぼい呪詛でも十分依頼する価値はありそうだけど。
金メダルと銀メダルじゃあ生涯年収は全然違うだろう。ボクシングとかだって一度チャンピオンになれば『これ以上、自分が輝くのは無理だと思う』とでも言ってリタイヤしてジムでも開けば元チャンピオンって事でそれなりに客が集まって美味しい思いも出来そうだしね。
まあ、そこら辺はスポーツ協会とかが少なくとも決勝戦とかの前には参加選手全員に解呪が必要か確認させてるよね?
オリンピックとかは選手が呪詛を使ってライバルを陥れていたら大騒ぎだろうから、ドーピングテストだけでなく呪詛も絶対に確認しているだろう。
呪詛って形を変えれば痛みを感じないとか寿命を燃やして実力以上の力を発するとかな効果も一応可能だしね。
「神社も最近はダメなところがありますが、三、四ヶ所まわればどこかの厄払いで呪詛を祓える事が多いですよ。
よく使う駅を言ってくれればちゃんとした厄払いが出来る神社を教えます。
取り敢えず、今回は呪詛を返した感覚を実感する為に、ここで呪詛返しをしませんか?
実感できたら神社の厄払いの料金を後から払って貰えれば良いです」
碧が言った。
「お金は取るんですね」
ポツリと女性が呟く。
「そりゃあ、呪詛返しだってリスクが完全にゼロって訳ではないし、やる方は疲れますから赤の他人にボランティアで無料でサービスする謂れはありませんよね?
と言うか、我々はプロの退魔師なので、無料サービスをした事がバレると叱責されるんですよ」
なんで人間って親切な助言を受けると、無料でさらに助けてくれても良いじゃないかと思うんだろう?
自分で探して悪霊祓いなり呪詛返しなりの依頼を頼みに来たのだったら無料でやれなんて言う事を考えもしないだろうに、こちらから親切で教えてあげると『金を取るんだ?』と心外そうに言われる羽目になる。
自分でも何とは無しに分からなくもない心理だが、言われる方はちょっと不快だ。
「こちらが退魔師としての名刺です。
実際にこの住所がある場所に行ったらそれなりに立派な建物がありますし、そこで呪詛返しを依頼したらまずは実際に呪われているかの調査をするのに数万円請求され、立派な報告書を受け取った後に呪詛返しをしますか?と聞かれて、実際に呪詛返しを依頼したら更に数十万円請求されます。
神社のお祓いの方が遥かに安いんで、たとえちゃんと祓えるところを見つけるまで三ヶ所か四ヶ所廻る羽目になってもそちらの方が経済的ではありますよ。
まあ、碧がちゃんと出来るところを教えてくれるからハズレに行かないで済む可能性が高いし、今回は一回分の厄払いの金額で私が返してあげても良いけど」
話しているうちに段々面倒になってきて、言葉遣いが雑になっていく。
女性もそれを感じたのか、さっと財布を取り出した。
「やって下さい。
お願いします!」
まあ、こんだけの体格だったら今までに散々ダイエット商品とか医療費で出費しているだろうしね。
今更厄払いの料金をケチる必要もないんだろう。
「では、やります」
女性の手を取り、呪詛を辿る。
さて。
絶対に転嫁させずに本人に返すぞ〜。
太らせる呪詛なんて、女性の敵!!
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