第839話 悪事は何でも倍返し出来れば良いのに

ぱん。

碧が祝詞を終えて手を叩いたら、結界の中の空気が清められたのが感じられた。

ちょっと白龍さまの気も混ざってるかも?

ガッツリではなく軽めな清めと言っても、やっぱ地方都市だろうとそれなりに大きな街の商業部分の殆どを清めるのは途轍もない重労働だよね。


「お疲れ様〜」

碧が祝詞を唱えている間に買っておいた暖かいお茶のペットボトルを渡す。


「ありがと。

なんかさぁ、考えてみたら八つ当たりとか嫌がらせで呪詛を掛けるあの術師は頭がおかしいんじゃないと思ったけど、呪詛だったら返せば因果応報的に害を成した人に罰が下るじゃない?

この方が、半グレみたいな暴力的な人や陰湿な虐めっ子とかよりも実は良いかも知れないね。

大局的には因果応報ってあるんだろうけど、個別的にも全ての悪事が倍返し出来る世の中だったら良いのに」

ペットボトルを開けながら碧が言った。


「あ〜。

確かに、殺人とかだったら警察がそれなりに本腰を入れて犯人を捕まえてくれる可能性が高いけど、サラリーマン狩りとか浮浪者狩りみたいなよく分からない暴力を振るう人間とか、ネットで憂さ晴らしか何かで理由もなく誰かを中傷する様な人って多分法的に罰せられるのは極々少数だろうからね。

まだ呪師の方が被害者が神社とかに行ってお祓いに行けばバッチリ倍返しになるし、マシかも」

呪詛の方が良いって考えはかなり微妙だが、確かに悪意がある行為の中では呪詛の方が返した時の因果応報ちっくな仕返しがしっかり入る。


とは言え。

呪詛も暴力もやらないのが一番だけどね〜。

大抵の呪師は自分が掛ける主体な呪詛を馬鹿みたいにばら撒かないし。


こっちの世界の呪詛って弱者の最後の攻撃手段と言うよりは、こっそり仕掛ける嫌がらせに近いんだよねぇ。

しかも折角割安な神社のお祓いという手段があるのにあまり使う人が居ないみたいだし。


まあ、ハズレな神社が多くなったせいで信じない人が増えても不思議はないし、自分の人生が上手くいっていないとか体調が悪いって言っても呪詛のせいであるよりは単に運が悪いとか努力が足りないとか、病気に罹っているとかの可能性の方が高いからねぇ。

いくら退魔師を雇うよりは安いとは言え、日常生活の支出と比べたらそれなりな出費であるお祓いをそうそうやろうと思わなくても不思議はないか。


「しっかし、あの呪師はマジで何なんだろって感じだったね。

あの調子だったら呪詛を掛けられるほど近所じゃない相手だったらネットとかで中傷しまくってそう」

マジでネットでの行動も呪詛返しみたいに因果応報にできれば良いのに。


「ネットでの中傷に関して差し止め請求とか誰が書き込んだかの開示要求が以前よりはしやすくなったらしいけど、簡単に捨て垢をガンガン作って出鱈目な悪口とかを幾らでも書き込める手軽さに比べたら『言論の自由』に守られたネットの中傷の自由って守られ過ぎだよねぇ」

碧が溜め息を吐きながら言う。


「その気になったら名誉毀損にならない様に『意見』で通せる様な言い回しにすれば訴えるのも難しいだろうしねぇ。

テレビの解説者とか評論家がしたり顔で偉そうな事を言っているのや、政治家が馬鹿みたいに『記憶にございません』で処罰されないのもムカつくけど、考えてみるとネットでの中傷ってマジで質が悪いよね。

それに下手なことがあってネットの検証好きを自称している人に実際の名前とか住所を暴かれて晒されると、今度は実生活で色々と嫌がらせとかされて大変らしいし」

世の中ムカつくことが多過ぎるよね〜。


「しかも、怖いのは悪事を働いた人間と偶然苗字が同じだっただけなのに、親だとか親戚だとか本人とかだって勝手に決めつける書き込みがあると、嫌がらせが凄い事になるらしいしねぇ。

怖過ぎる」

碧がブルリと腕を振るわせながら言った。


「まあ、碧相手にそんな事をしたら白龍さまが天罰を下してくれると思うけど、そう言う変な攻撃をする人には呪詛返しみたいな報復が出来れば良いのにね」

マジで変な間違った晒しなんて呪詛と同じか、それより酷い。


それを倍返しできないのって本当に残念だ。






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