第836話 どれだけ積もっているかな

呪師の家からは色々と証拠が見つかったらしく、田端氏もなんとは無しに機嫌が良さげな感じで私たちに最終チェックを頼みに来た。

「では、最後に証拠品及び捜査員が呪われているかと、家の中に触れたら呪詛が起動する様な仕組みが残っているかの確認をお願いします」


「はいは〜い。

私たちの付き添い以外の人たちはもう証拠品を持ち帰るんですか?

だとしたら持ち出すところを見ていて証拠品と捜査員を一緒に確認しますけど」

やっとこことも終わりだ〜!


田端氏による呪師の尋問は聞いていてあまり気分が良いものじゃ無かった。

呪師って元々人格者がなる様な職業じゃあないんだけど、特にこいつは僻み根性が強いと言うか、他者への悪意が盛り沢山と言うかな感じで、話を聞いているだけで疲れてしまった。


技術も魔力もへっぽこだけど、悪意だけは人並み以上にある。

ある意味、呪師として長く働いたら大成するタイプかも。

依頼とか金とかだけでなく、幸せだったり成功している人を苦しめるのが好きっぽいんだよね。


田端氏へ答える際にもぽろぽろとそんな事を言っていたし、自分が掛けた呪詛に関して話す時もニヤニヤと嬉しげな笑いが時々溢れていて・・・マジで不快だった。


立川少年なんかは他に選択肢が無かったから呪師の教えを受けていただけだし、人を苦しめるのも『金を持つ人間がやろうと思っているのだ、自分がやらなきゃ別の人がやるだけでしょ』って感じで割り切っていた感じだった。


それに最初の仕事がクソッタレなDV男を大人しく寝付かせる為に呪詛を掛けると言う、ある意味人の為になる依頼だったしね。


もっと仕事を続けて、純粋な悪意で人を苦しめる様な依頼を熟す様になったらどう変質していったかは知らないが、少なくとも私たちが見つけた時点ではまだまともだった。

だからこそ退魔協会に雇われるのも可能だったんだと思う。


それに比べ、こっちの男は・・・立川少年より数年しか年上では無いのだが、既に悪意と穢れで真っ黒な感じ。

魔力面で見た才能は立川少年よりずっと劣っているが、呪詛を掛ける人間という歪みの面で見たら、なるべくしてなった呪師って感じだね。


正直に答える意識誘導の術を掛ける際にちらっと見えた記憶によると、どうも依頼が無くても呪詛返しをする伝手がなさそうな一般人にちょくちょく嫌がらせや八つ当たりで個人的に呪詛を掛けていたみたいだし。


まあ、そう言う一般人でも神社とかで厄払いをする事もあるんだけどね〜。

今時の若い人は厄払いにお金を掛けようと思う人は少ない上に、ここら辺の神社は新年のお参り程度で呪詛返しが成る程霊験あらたかなところは無いのか、まだ痛い目にあった事はない様だったが。


ただねぇ。

こいつって呪師としての腕がへなちょこだから、今まで自分だけで大きな被害の出る呪詛は掛けてないんだよね。

自分の魔力では無く、呪いたいと願っている依頼人の命を使って強い呪詛を掛ける方法を教わる前に師匠役が居なくなったんだと思う。


これって下手をするとまだ害が軽度だからって事で、死刑では無く魔力を封じた懲役刑で済まされちゃうかも?

師匠と一緒に呪殺にも関与していると本人も認めたけど、多分証拠なんて何も残っていないだろうし。

呪殺なんて基本的に物的証拠が残らないんだから、自白したところでそれを元に罰するのも難しいだろう。例え呪殺の証拠が見つかったにしたって師匠役の人間を未成年の見習いが手伝ったってだけだったらどの程度罰せられるか微妙なところだし。


人の不幸を願うのは良くないが、この呪師に関してはしっかりここで罰しておかないと不味いんじゃないかなぁと思われて、余計にやきもきした。


そんなこんなで精神的に疲れる尋問が一区切りついたので、後は捜査員や証拠品の呪詛確認だけだったら気分転換にも良いだろう。


「ああ、じゃあそれでお願いします」

田端氏が頷き、捜査員に指示を出しに行った。


『ここの確認が終わったら、駅まで送って貰わずに帰る前にちょっと近所を回っても良い?』

念話で碧に尋ねる。


『良いけど、どうして?』

ぐいっと背中を伸ばして左右に曲げてストレッチしながら碧が聞き返してきた。


『こいつ、近所の店員とかでムカついた人間にも呪詛を掛けまくってるの。

そこそこしょぼいんだけど、全部返しておこう』

意味もなく、近所に住んでいるクソッタレに八つ当たりな呪詛を掛けられた住民や店員が可哀想だし、呪詛返しが沢山溜まればそれで寝込む事になるかもだし。


もしも塵が積もりすぎて死んじゃったら・・・それはそれで自業自得だよね?





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