第835話 取り調べ

呪詛返しをし終わった女性の捜査員が腕を動かして調子を確認している間に、田端氏が徐にポケットからアイマスクを取り出して呪師の目に被せた。


おお〜。

実際に目で睨みつけるだけで術を掛けられるような凄腕がこの世界に存在するとは思えないけど、ある意味逆恨みで捜査員に報復しようなんて考えるかも知れない相手にじっくり顔を見せないのは正解か。


そうなると、最初に玄関の呼び鈴を鳴らして呪詛を喰らった女性はかなり危険度が増す気がするが。

その分、危険手当でも貰えるのかな?

若しくは呪詛避けみたいな何かを配布されるとか?


でも、魔術攻撃避けの防御結界はまだしも、呪詛って相手の血や髪の毛と言った生体指標マーカーで送り付けるから、それらを入手されたら防ぐのは難しいんだよねぇ。

前世では呪詛返し的な効果のあるめっちゃ高級な呪詛避けだったら一流の呪詛以外なら防げたが、マジで自分の命を捧げるような本気な呪詛は掛けられたのを個々にそれなりに腕のいい術師が返すしか対処法は無かった。


まあ、魔力だけで相手に直接ぶつけて掛けるような呪詛なら防げたから、大して腕も良くないっぽいこいつ程度なら大丈夫かもだが。

そもそもとして呪詛避けなんぞこっちにあるのかね?

しかもそれを下っ端の捜査員に配るかは非常に怪しい気がする。


願わくは、人ごとながらも捜査員に八つ当たりな報復呪詛が行かない事を期待しておこう。


「腕の方は大丈夫か?」

呪師に目隠しをしっかり装着させた田端氏が女性に尋ねている。


その間に私はそっと呪師の方に近付き、正直に色々と話したくなる意思誘導の術を掛けてみた。


抵抗されるかと思ったが、あっさり通ったね。

魔力もあまり無いし、持っている魔力も研ぎ澄まされている様子は無いし、ちょっと憎しみと穢れが多いけど能力自体は大した事がない呪師っぽいかな。

さらっと見た記憶と身に纏っている穢れから察するに性格は悪いが。


「はい。

痺れた様な違和感があったのですが、治りました」

女性が応じる。


そうだろうね。

大した事は無い呪詛だったし、短時間しか掛かって無かったからね。

あれで後遺症があったらある意味びっくりだよ。


「取り敢えず、中に入って座りましょうか」

田端氏が声を掛けて来た。


「そうですね〜。

玄関の前に立っていても意味がないですし、家の中を捜索している間にこいつに色々質問をしちゃっておきません?」

捜索で呪詛に引っ掛かった人を解呪しなきゃいけないから、捜査員が終わるまでは私らは帰れないけど、家捜しに一般人が参加する訳には多分いかないだろう。

最後に何か術で隠されたものが無いかの最終確認程度な事をやっても良いのかも知れないけど、まずは一通り警察が調べる必要があるよね。


依頼の記録とかはPCなり書類なりに残っているだろうから退魔師の能力は関係ないだろうし。


で。

捜査をしている間に取り敢えず呪師の業務形態とかを田端氏が聞き始めた。

残りの一人の男性も捜査に加わり、女性が残って記録を取っている。


「ジジイが秋に術師の集会があるとか言って出掛けてから帰って来なかったんだよ。

2日待っても戻らなかったから捕まったんだろうと思って金目の物とかを頂いてこっちに戻って、独り立ちしたのさ。

だが、ジジイの使っていた仲介人までもが揃いも揃って連絡が取れなくなったから、新規な顧客層の開拓って事であちこちの掲示板で色々と興味がありそうな人間に声を掛けて、軽い呪詛を請け負ってきたんだ」

いつからあのウェブサイトをやっているのかを尋ねられて、呪師が答えた。


なるほど。

あのハロウィンの騒ぎで捕まった呪師の弟子だったのか。

呪師だけでなく仲介人も捕まったせいで師匠役の伝手が使えなくて、掲示板で誘うなんて言うある意味斬新な顧客開拓を始めたのね。


闇サイトでもっとヤバい呪詛の仕事を探すだけの伝手やネット知識が無かったのか、そこまで強い呪詛を請け負う能力がない自分の限界を認識していたのか。


「人を呪い殺した事はあるのか?」

田端氏が尋ねる。


「俺がやったんじゃねぇ。

ジジイが受けた依頼の手伝いはしたが、あんただってあのジジイの下に居たら断らなかっただろうよ」

へっと吐き捨てる様に呪師が言った。


どうやら師匠役の呪師がかなり強烈な人物だったっぽい。

本人はかなりへっぽこっぽいから、これだったらどんな処分が決まっても極端には危険性は無いかね?


まあ、そこら辺の判断は警察なり退魔協会の専門家なりが下すんだろうけど。

少なくとも、たとえ政治家の為にグレーな依頼を受ける呪師になったとしても大した事は出来なそうだ。


お見合いで失礼な事を言って来た男に天誅を加えるなんて言う掲示板で謳っていた嫌がらせ程度の事しか出来なそうだから、ある意味安心かな。


マジで危険な呪師だったら白龍さまに天罰を下しておいて貰わないと、政治家とか警視庁のお偉いさんとかと変な取引をされたら被害が大きくなりそうだからね。

その点、こいつなら比較的安心かな。


しっかし。

掲示板の中傷とかって問題になっているけど、最近では呪詛を請け負う様な話まで出てくるんだねぇ。


マジで掲示板の取り締まりを頑張って欲しい。







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