第830話 毒親?

「・・・なんなの、あれ?」

大江家の門を出て、碧がふぅっと溜め息と一緒に吐き出した。


「なんかこう・・・子育て用ゆとり教育の失敗例ってやつかな?

ざっとしか記憶を見ていないけど、どうも母親が『働くか政略結婚しろ』って言う大江家の方針が面白くなくて娘達の躾から手を抜いたのかも?」

大江さんの母親には会っていないから確認できないが、意識誘導の術を掛ける際にざっと見た妹さんの記憶によると母親に注意されている場面が妙な程に少なかったんだよね。


姉から色々と注意される記憶は沢山あったし、父親からも時折『自分の人生なのにしっかり考えなくて良いのかい?』みたいな事を言われているが、母親関連の記憶は姉が熱心に勉強しているのを微妙にディスっている場面と、美しくあれとお洒落系の買い物を推奨する様な言動が主なのだ。


これってちゃんと考える子を育てるつもりな母親の言動じゃあなく無い??


まあ、姉だって同じ親の下で育って立派になったけど。でも子供の素質って全員イコールでは無いのだ。

自分だけで目標を立てて頑張れる子供も居るが、親がそれなりに指導して道筋を見つける手助けをしなければ楽な方へとばかり流れて大人になってから後悔する子供の方が平均としては多いぐらいだろう。


親が衣食住を賄うのにすら苦労するのを目の当たりにしているならまだしも、なまじ裕福な家に生まれたのでは、成人してから寄生は許さないと言われて育ったところでそれが何を意味するかなんて実感を持たない子供が多い筈だ。


世間の荒波を知らない子供なんて楽観的に育つんだし。

その楽観論を適度に叩き潰して将来に向けて努力させるのが親の義務の一つだろうに、どうやら大江家の母親はそれをしていなかったっぽい。


「えぇぇ?

だって、大江さんはしっかりまともに育ってるじゃん?」

碧が目を丸くして振り返った。


「性格の違いもあるだろうし、ある意味長女がまともに育っているから父親は安心して次女に関してはあまり関与しなかったのかも?

もしくは仕事の責任が増えて忙しかったのかもだけど」

3歳違いってそれ程大きな違いでは無いが、男性にとって30〜40代って会社での責任がどんどん増えていって忙しくなる時期だろう。

そう考えると次女の育成への関与は母親の比重がより大きかった可能性は高い。


「でもさぁ、母親が子供がいつまでもべっとり甘える様なタイプに育てたにしたって、思う様に結婚相手が見つからないからって姉に呪詛を掛ける依頼をするのは違うでしょ」

碧が呆れた様に言う。


「そこまで悪意が無いっていうのが怖いんだよねぇ。

多分妹的には姉の悪口を掲示板に書くのとほぼ同じ感覚だったんだと思う」

記憶の中での呪詛に対する思いは、掲示板で悪口を書くのとほぼ同程度、せいぜい姉が買ってきて楽しみにしていたケーキを勝手に食べちゃえと言う程度の悪意だったのだ。


悪意が薄いのは良い事だが、呪詛をそんな気軽に掛けるなんて頭が痛い。


「いやだって、呪詛でしょ??

呪詛や悪霊の事を分かっている家系なのに、ダメじゃん!」

碧がお手上げと言う感じに手を振り上げた。


「だよね〜。

多分、一族の歴史に関する親族の老人の話とかもちゃんと聞いてなかったんだろうね。

流石に今回の事件で父親も許さないだろうし・・・ある意味、厳しい罰則に母親が反対したら離婚もありかも?

そうなったら母親が思う存分次女の生活の資金援助を出来るかもだけど」


まあ、成人した娘に対する扱いで意見が分かれたからって離婚するかどうかは知らないけど、あそこまで大江家の教育方針を無碍にしたっぽく育ったのだ。

母親の価値観って父親や大江家のスタンスと大分と違う様だから、気軽に軽いとは言え呪詛を使う様な娘を反省も促さずに庇う様だったら、場合によっては夫に切り捨てられるんじゃないかなぁ?


「まあ、大江家のどうこうは私らの知ったことじゃあないね。

だけど、その気に入らない相手に呪詛を掛けちゃえって唆しているサイトはヤバいね。

田端さんがしっかり調べて、その呪詛の情報を提供元まで調べて潰してくれるなら良いけど・・・大丈夫かな?」

碧が溜め息を吐きながら言った。


「だよねぇ。

ヤバすぎるでしょ。

でも、退魔協会は例えこのサイトの事を報告しても、誰かから依頼がない限り何もするつもりはないんだよね?」

まあ、ウェブサイトや掲示板で呪詛の請負を広告していようが、退魔協会にそれを取り締まる権限は無いとも思うが。


せいぜい警察がそれを取り締まるのを協力する程度かな?


「田端さんにどうなるのか、確認してみよう。

なんだったら調べて取り締まる際に割安で協力しても良いし」

碧が言った。


だね〜。










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