第829話 心を入れ替えるかは不明

「良い男が見つからないからって八つ当たりで私を脅かしていたのかもだけど、呪詛の依頼はれっきとした違法行為よ?

流石に今回の事はお父様達も見過ごす訳にはいかないでしょう」

溜め息を吐きながら大江さんが言った。


とは言え。

なんか諦めの感情が滲み出てる?


親に諦めを感じているのか、妹さんに諦めを感じているのか。

まあ、価値観が違う相手に常識を言い聞かせても、それなりに痛い思いがなければ納得してもらえない事は多々あるからねぇ。


子供だったらお尻を叩くとか、お小遣い無しとか、おやつの禁止とか、ある程度現実的なペナルティで『これはやっちゃいけない事なんだ』って学ばせるんだろうけど、下手にそれをせずに大人になっちゃうと修正が難しそう。


罰則として働けって言ったところで、本人にやる気と学ぶ気が無ければ人件費的な頭数には入るのに戦力外な妹さんのせいで周囲が迷惑を被るだけだろう。

実際に一文無しで家から追い出すだけの根性があるならそれが一番かもだけど・・・流石にそれは難しそう。


有力な一族の人間だと知られていたら一族の名を使って詐欺行為とかしかねないし、かと言って親の権威を使おうとするからって理由で成人した人間を閉じ込めて拘束するの訳にもいかないだろう。


・・・家族でも本人の意思に反して閉じ込めるのは違法行為だよね??

例え野放しにしたら迷惑行為をしまくると言っても、出来ることって家族名義のクレジットカードを止める程度なんじゃない?

まあ、実際にそれでどっか遠くに放り出されたら困るかもだが・・・本人が交番にでも泣き付いたら、家族に保護してくれって連絡が来るんじゃ無いかね?


考えてみたら、現代日本ってちゃんと働く気がない人が『家族が面倒を見てくれないんです〜』って交番に泣きついてきたらどうなるんだろ?

それこそ仕事がある都心までの交通費も無かったとしたら、不幸なおまわりさんが自分の財布からお金を貸す羽目になりそう。

公共機関として厳格な基準なしにお金を施したり貸したりは出来ないだろうけど、現実的な話として交番の外で浮浪者が寝込んでいたらどっかに行くだけの交通費を渡して追い払うしか手が無さそう。


ホームレスになった人を助ける団体とかってありそうだけど、そう言うのにあっさり出会えなかった場合ってどうなるのかな?

しかもそう言う団体だっておんぶ抱っこで助ける訳ではなく、自立する気がある人間が自立するのを助けるだけだろうから、やる気がない人間に関してはお手上げだろうね。


「違法行為って言ったってちょっと脅かして二日酔い程度に気分が悪くなるぐらいでしょ?

良いじゃない、お姉さまは良い思いをしているんだから」

妹さんが不貞腐れた様に言い返す。


まあ、返されても吐く程度だし、確かに呪詛としては大した事は無いかもだけどねぇ。

なんだって自分の将来設計が上手くいかないからって頑張ってきた姉に嫌がらせをするかね?


「呪詛は死に至るモノだったら殺人未遂、それ以外は全て傷害罪として扱われます。

『脅かすだけ』と言う言い訳は通用しませんよ」

田端氏が冷静に口を挟む。


「『まさか本当に効果があるとは思わなかったの〜』」

妹さんが棒読みなセリフを口にする。

その台詞を言えば初回は見逃されるとそのサイトにも書いてあったんだろうね。


「サイトを調べて本当に今まで他の呪詛の依頼を出していないか確認しますし、前科として警察には記録が残りますから次に呪詛に関わった場合は死罪もあり得ますので気を付けて下さいね」

溜め息を吐きながら田端氏が返す。


「当局側はそれで誤魔化されるかも知れないけど、今回は流石にお父様達はあなたの行動を許さないでしょう。

呪詛に関わるなんて、大江家の人間として絶対に許されないと言うと思わない?」

大江さんが指摘した。


そう言えば、大江さんの一族って退魔師も出したことがある旧家って言ってたよね?

それも誇りに思っていたのだとしたら、呪詛なんぞに手を出したら激怒するか。

警察が呪詛返しの確認をしているんだから、単なる姉妹喧嘩では済まされないだろう。


とは言え。

変な風に歪んだ娘って親の教育が悪かったのか、本人の資質がおかしかったのか、どっちなんだろう?

ここでビシリと親が叱りつけても心を入れ替えて・・・なんて事は無いんじゃ無いかなぁ。


取り敢えず。

妹さんには1週間程度は嘘を付かずに本音を吐いちゃう意識誘導の術を掛けておこう。

少なくとも、親とかとしっかり話し合いをする際に本人が心を入れ替える気があるかははっきりさせておく方がいいだろう。


「じゃあ、呪詛返しは問題なく完了した様なので、我々は帰りますね」

大江さんに声を掛けてお暇する。


これ以上は出来る(やる気がある)事はないからね〜。

家族って難しい。

まだうちの兄貴は単なるスノボ馬鹿で良かった。

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