第827話 雇ったのか本人なのか
取り敢えず。
妹さんが呪師見習いを雇ったのか、本人が呪師見習いなのかは後で本人に確認すれば良いだろう。
今は呪詛返しをして返った現場を押さえれば良い。
『呪詛に使われた補助具も分かったし、問題なく呪詛返しを出来そう。
そちらは準備OK?』
メッセージアプリで碧に尋ねる。
ちなみに田端氏に確認したところ、呪詛返しが戻る瞬間を確認できればどこから呪詛が返されたかはそれほど重要では無いので、こっちの返す場面の立ち合いは必要ないと言われた。
なのでこちらには警官はおらず、大江さんの実家の方に碧と一緒に田端氏が行っている。
ちょっと実家に置いてある大江さんの物を見せたいと言う事で呼んだものの、大江さんが遅れているのであちらで待たせてもらうと言う形にしている。
妹さんともその後大江さんが話をしたいと連絡してあるので彼方にいる想定なのだが・・・流石に確実に妹さんを拘束しておくわけにはいかないのでそこがちょっと不確実要素だったんだよね。
『大丈夫。
一緒にお茶でもと誘ったら同席したから、今から返して良いよ』と返ってきた。
お茶を飲んでる最中にスマホを弄る訳にはいかないから、さっさとやっちゃう方が良いね。
「じゃあ、行きます!」
補助具に手を当て、呪詛の糸を手繰って壊す。
下手っぴな印象に違わず、やはり返し転嫁の術は掛かって居なかった。
ぶわっと霊的な風が吹き、一気に部屋に溜まっていた呪詛と穢れが消えた。
『返したよ〜』
さて。
妹さんに返るか否か。
違ったら呪詛の元を探すのはちょっと難しいかも。
補助具がまだ手元に残っているからこれを使ってある程度は辿れる可能性は高いが、かなり弱い呪詛なのでしっかり呪師まで辿り着けるか微妙だ。
『来たよ!』
碧から返事が来た。
『うっし。
じゃあ、私がそっちに行くまで昏睡状態にしておいて』
メッセージを返す。
嘘をつかれたかどうか判定するのに私が居た方が良いし、呪師の可能性があるとなったら迂闊に言葉を交わすのも危険だ。
相手と話すだけで呪詛を掛けられる人間なんて殆どいないが、用心はしておく方がいい。
「やはり妹さんが呪詛を掛けていたようですね」
大江さんにメッセージアプリの文字を見せる。
「困ったものですね。
でも最初の呪詛は『まさか効くとは思わなかった』が通ってしまうのでしたっけ?」
溜め息を吐きながら大江さんが言った。
「ですね〜。
まあ、もしも本人が呪師見習いとして弟子入りをしていた場合は、今まで対価を貰って呪詛を掛けていたなら一気に有罪判決になりますが」
嫌がらせ程度しかやっていない(できない)見習いに毛が生えた程度だったら、多分死刑にはならないだろうが、それなりに厳罰を科される可能性はある。
『興味があったから習ってみた』程度で姉への嫌がらせ以外に使っていないならまだ普通の依頼人と同等の扱いになるかもだが。
とは言え、実家にしても困るだろうなぁ。
呪詛を使えて、実家の自分の扱いに不満はある子供なんて危険すぎる。
将来的に一族皆殺し的な報復をやられかねない。
魔術師だったら魔力封じで危険性をほぼ排除できるが、呪師って命を糧に呪詛を繰り出せるから、本気で恨まれた場合は完全に封じる方法は無いんだよね。
それこそ24時間監視付きな独房にでも入れて、散歩や何かの作業の為に外に出る時間すら認められないようにするなら呪詛も練れないだろうが、そこまでやったら死刑の方がマシだと思う人間が多いと思う。
中に呪詛の魔法陣を隠し描きかねないので、本を渡すことすら出来ないとなったらマジで暫くしたら退屈で発狂しちゃうんじゃないかな?
そう考えると、見習い程度でも呪師になる意思はある人間はもう諦めて死刑にすべきだよねぇ。
立川少年が退魔協会に雇われる事になったのもギリギリなタイミングだったが・・・大江さんの妹はどうなんだろ?
まあ、単に腕に悪い見習いを雇っただけで本人は何も学んでいない可能性もあるけどね。
さて。
どうなっているやら。
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