第826話 職業選択の自由?
「いやぁ、久しぶりに熟睡できたら凄く気分が良くなって!
本当にありがとうございました!」
土曜日の朝、現場から帰って来た大江さんと彼女のマンションの最寄駅で合流したら、何やらちょっとハイになっている感じだった。
もしかしてずっとあの穢れに侵食されていたウィークリーマンションで寝泊まりしていたせいで、それが気付かぬうちに心身に負荷を受けていたのかな?
突然負荷が無くなって、まるで羽が生えたように心身ともに軽やかだ〜って感じなのかも。
まあ、元気になるのは良い事なんだけど。
ハイになってうっかりヤバい物に触れたりしないでよ〜?
「ちなみにこの案件に関わる前はどうでしたか?
多分あの廃病院の巣くっていた悪霊のせいでウィークリーマンションの方も居心地が悪くなっていたとは思いますが、その前は平気でした?」
最初に会った時は呪詛は見当たらなかったから、体調は問題なかったと思うんだが。
それより前から常に微妙な気分だったら、それこそ慢性鼻炎でも患っているのかも?
工事現場なんて粉塵が多いだろうし、鼻炎とかにはなりやすそうだよね。
ダスト関連へのアレルギーもありえるし。
碧に診て貰うのが一番だろうけど・・・あまり例外を作り過ぎるのは良くないだろう。
碧に気に入られたらこっそり身体を診てもらえるとか、割安で呪詛返しをして貰えるなんて噂が流れたらますます彼女の生活が油断の出来ない毎日になってしまう。
私をパートナーとして懐に入れたのだって、白龍さまが見出した普通と違う才能持ちって事で自分を利用しようと近付いてきた訳ではないと思えたかららしいんだよねぇ。
本人が最初から下心を持って近付いてきたら白龍さまがそれとなく排除するらしいが、白龍さまや両親に接触がない人物から碧と仲良くなる様に誘導されて近付き、親しくなってから親なり親しい人なりに『友人ならこの位の頼み事をしても聞いてくれるでしょ?』と唆されて要求を突き付けてくる『友人』は子供の頃から多かったらしい。
その為にわざわざ同じ学区内にまで引っ越してくる人間もそこそこ居たらしいのだ。
一族の人間以外と迂闊に親しくなれないのも、当然だろう。
「あ〜。
どうだったかしら?
誰でも時折体調が悪くなる時があるんだからと余り気にしたことがないですねぇ」
肩を竦めながら大江さんが応じた。
おや?
定期的に風邪を引くタイプ?
イマイチそう言う雰囲気じゃ無いけど。
まあ、風邪をひきやすいとか体調を崩しやすいのは本人の性格とか雰囲気とは関係ないっちゃあないけどね。
何とは無しに、ハキハキした人って風邪をひきにくい様な印象があるんだよねぇ。
性格と免疫力ってあまり関係ない筈だけど。
・・・いやでも、笑ったら免疫力が上がるってどっかで読んだ気がする。そうなると性格もある程度免疫力に関係するのかも??
まあ、一部関係する事もあるって程度かな?
今度碧に聞いてみよう。
現実的な話として、性格よりもちゃんと満遍なく栄養素を取れている食生活の方が重要だろうけど。
雑談をしつつ大江さんのマンションへ向かい、中に入る。
「私が良いと言うまでは何も触らずにいて下さいね」
大江さんにお願いする。
危惧していた通り、ちょっと呪詛の穢れと言うかエネルギーが蓄積している感じがする。
まあ、それでも比較的軽い感じだけどね。
それこそ物理的には足の小指をどっかの角にぶつける程度かな。
「はい」
中々良い感じなマンションの中を歩き回り、呪詛の元を探す。
やがて足が止まった。
「おっと。
これって妹さんのお手製?」
呪詛の悪臭が漂う小さな手作りっぽいドライフラワーの飾りをマジマジと見つめた。
呪詛の補助具って普通は呪師が作るんだけど。
ドライフラワーを作る呪師ってあまりイメージに合わない。
まあ、手作りのドライフラワーを買って細工したのかも?
ドライフラワーとしての細工も呪具としての出来も、どちらもかなり拙い作りだけど。
・・・ある意味、ハロウィン騒動の後に師が居なくなって見切り発車で呪師として活動を始めた最初の仕事でウチらに捕まり、退魔協会で働くことになった立川少年に似たり寄ったりなレベルかな?
魔力の質から、彼じゃあないのは分かるけど。
もしかして、同じ時期に師匠役が居なくなった若い呪師を雇ったのかね?
それとも妹さん本人が呪詛のやり方を習っていた??
「えっと・・・どう言う事ですか?」
横から手を後ろに回して覗き込んでいた大江さんが聞いてきた。
「もしかしたら・・・妹さんが呪師見習いになっていて、ちょっと練習を兼ねて大江さんに嫌がらせもどきな呪詛を送りつけていたのかも?」
妹さんが半ば素人な腕の悪い呪師の知り合いで、練習台みたいな感じに簡単な呪詛を依頼していた可能性もあるけどね。
「え??
思う様な相手と結婚できないからって呪師になると言うのは・・・職業的にNGだと思うんですけど」
思わずと言った感じで大江さんが応じる。
いや、結婚の代わりの職業として選んだんじゃあないと思うよ??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます