第825話 次の手配

「考えてみたら、今までの呪詛依頼人逮捕系の話って呪師への支払い情報から依頼人がバレて、2回以上依頼してたら殺人依頼相当扱いになってたんだよね?

今回みたいに被害者から依頼人が推測できた場合ってどうするん?」

大江さんを廃病院の解体現場で降ろし、駅への帰路につきながら碧へ尋ねる。


「呪師が誰か分からないから・・・呪詛返しを警察の立ち合いの下で行って、返ってくる瞬間を別の警官に目撃してもらうしか無いんじゃないかな?

スマホの動画で記録していても呪詛返しが映るかどうか分からないし、家族の証言は微妙に信頼できないし、やっぱ第三者に立ち会ってもらう方が無難でしょう」

碧が言った。


「まあ、普通は呪詛を掛けられて返すにしても依頼人が誰かは確実には分からないものねぇ。

もっとも今回だって、大江さんの誤解で別の人間からの呪詛の可能性だってゼロじゃあないけど」

私的には大江さんって良い感じにサッパリしていて仕事も出来る有能な女性と言う印象だし、魂にも自分を常時偽っている様な変な濁りが無いから信用できると思う。でも、他の人との関係とか感情って意外と当事者が誤解している事もあるんだよね〜。


『良い人』だと思っていたら利用されているだけだったってケースが大多数だけど、『嫌われている』とか『嫌味な人間だ』と思っていたのが実は誤解だったって事も極々稀にだが無いことはない。


かなりレアなケースだけどね。

まあ、もっとありそうなのが加害者だと思われている人間は実際に被害者の事を嫌っているし、人格的にも褒められたものじゃないけど、実は事件の犯人は別人でしたってケースだね。


人間って気付かないところで色々と嫌われたり妬まれたりしているのだ。

成功していたり、他者から好かれる様な人って意外とどうでも良くね??と思う様な理由で憎まれていたり何かの邪魔だと思われている事もある。

流石に普通の一般人だったら、呪師にコネがある様な人間からそういう感情を受ける事は滅多に無いのだが。


だが独り立ちして家から離れているにしても、大江さんが良い家のお嬢さまなんだったらそう言うヤバい連中と伝手のある人間の邪魔になっている可能性だってある。


それこそ、良い家のお嬢さまなんだったらどっかの旧家の御曹司とのお見合いを誰かが手配しようとしている可能性だってあるし。


退魔協会の旧家でもあるように、良い家の息子って言うのはあちこちから狙われているが、本人はまだしも親が満足するレベルの家柄で人格的にも問題がない娘はそうそう多くは居ない。

と言うか、家柄も人柄も良くてお見合い結婚する気がある様なお嬢さんは直ぐに売れちゃうだろうし。


大江さんはそんな旧家に嫁入りして仕事を辞めるタイプには見えないから、お見合いなんぞ断るか共働きを認めるならと言う条件付きになりそうな気がするけど。共働きが前提条件じゃあお見合いを持ってくる様な家からはお断りって言われそうだ。


それはさておき。

「じゃあ、田端氏に連絡したらそこら辺は頼めるのかな?

と言うか、霊視が出来るタイプじゃ無くても呪詛返しって視えるの?」

前世では呪詛返しってかなり露骨に黒いモヤみたいのが飛んで返って行ったが、考えてみたら今世ではそう言うのを見た記憶は無い。


と言うか、こっちの呪詛って精神に悪影響を及ぼすとか、ちょっと体調を悪くすると言ったステルスタイプが多いせいか返す際も目に見えていない気がする。

やっぱ魔素が薄いせいで呪詛にも違いがあるのかね?


「それなりに衝撃があるらしいし、部屋が暗くなる感じらしいから分かるんじゃ無いかな?

まあ、イヤホンか何かで返すタイミングをこっそり教えないと見逃す可能性はあるけど」

碧が肩を竦めながら言った。


「取り敢えず私が呪詛返しをして、碧が妹さんのそばで見てるって事でどうかな?

ほぼ無いとは思うけど、下手をしたら呪詛返しを第三者に転嫁する術の回避に失敗するかもだから、周囲の家族とかに飛んじゃったら助けてあげてくれる?」

今までに呪詛返しを失敗したことは無いけど、何事も初めてはあり得るからね。

その初めてで誰かに転嫁されるのを警察に目撃されるのは遠慮したい。


無いとは思うけど、妹さんじゃ無くて他の家族が呪詛を掛けていた場合、転嫁されたのか普通に返ってきただけなのか、その場に碧がいたら判断しやすいだろうし。


「良いよ〜。

とは言え、大江さんの家の方に私と警察が乗り込む理由が必要だけどね。

やっぱ家族の誰かには言っておく必要があるんじゃない?」

碧が指摘する。


「確かに・・・。

そこら辺は大江さんに相談して決めよう」


さて。土曜日までは仕事がないし、のんびり源之助と遊びつつお守りでも作成しておこう。

考えてみたら、不眠用お守りを大江さんに渡しておけば良かったかな?

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