第823話 一部は不幸な偶然・・・かも?
「ここのところ、自分の家で起きると部屋に血がついた手形みたいのがべっとり付いている様になって・・・。
ぎょっとして目覚めるんですが、取り敢えず出勤しなければならないから時間が無いと放置して家を出ると、夜に帰って見るとその手形が無くなっているんです。
だからノイローゼかもとも思ったんですが・・・」
呪詛の詳細に関して聞いたら、大江さんが説明してくれた。
消えるって事は実際の血痕ではなく霊障による視覚障害みたいな感じなのかな?
「ちなみにそれってスマホのカメラに写ります?」
映らないからと言ってノイローゼとは限らないが、映るかどうかで呪詛の強度がある程度推測できる。
「こんな感じです」
大江さんがスマホの写真を見せてくれた。
定規が置いてあるローテーブルの上に赤い手形がべったりと付いている。
「・・・これがあるのにノイローゼは無いでしょ?」
碧が思わずと言った感じで呟く。
現時点では殺意が無いにしても、写真に映るほどの現世への視覚情報干渉ってそれなりな筈なんだけどな。
帰ったら消えてるって言うのも、ある意味それはそれで不気味だったろうね。
そんな手形を付けた見えない手で首を絞められたりしたら、完全な密室殺人が出来そうで怖いだろう。
まあ、実際のところは手形の映像をどっかの表面に付けるのと、首を絞めるのとでは必要な現実への干渉力の強度に天地の差があるけど。
首を絞めるよりはどっかに傷を負わせて破傷風菌にでも感染させる呪いの方がずっと現実的だし、危険だ。
とは言え、建設業界の現場監督として働くなら破傷風のワクチンは定期的に打っていて、感染自体が起きないかもだけど。
「大江さんって家に毎日帰っているんですか?
と言うか、家はどちらなんです?」
流石にあのコンテナハウスに住んでいるって事は無いだろうけど、都内から通勤っていうのも無理がありそうだ。
社内や依頼主とのミーティングに新幹線で都内に戻るのはまだしも、毎日の通勤に新幹線を使っていたら交通費が凄い事になる。
「平日は近くの街にあるウィークリーマンションに滞在、週末や都内でミーティングがある様な時は都内のマンションに帰っています」
注文したケーキに気怠げにフォークを突き刺しながら大江さんが答えた。
「ウィークリーマンションでもこれが現れるんですか?」
写真に写っていた背景はもっと個人宅っぽい雰囲気だったが。
「いえ。
ウィークリーマンションでは夜な夜な浴室の水がポタポタ垂れるだけですね。
そちらは単にボロいだけな可能性も高いですが」
ちょっと疲れた様に肩を揉みながら大江さんが言った。
なる程。
だから血痕っぽい手形が出ないこちらで暮らしていても疲れているのか。
とは言え。
家でしか血痕手形が出ないって事は、呪詛の補助になる何かが家に置かれているのかも?
「大江さんの家に妹さんが遊びにきたとか、誰かがプレゼントを持ってきたとか言った事はありませんか?」
補助を使った呪詛で手形程度なのだったら、実はかなりショボい呪いなのかもだねぇ。
まあ、姉への八つ当たり程度だったら怖がらせて、ちょっと窶れたらいいと思っているだけな可能性も高いか。
ある意味、今使っているウィークリーマンションの水垂れが無ければそれ程実害がないレベルだったのかもだ。
「・・・一度妹が着物の帯を借りたいと来ましたね。
基本的に若い女性向きの物の殆どは従姉妹とかも使える様にと実家に置いてあった筈なのですが、見当たらないと言って私の箪笥を漁りに来てました」
「・・・では、もしかしたら呪詛は比較的弱い、補助付きで短時間の嫌がらせが『見える』程度のモノで、ウィークリーマンションの水垂れは単に建て付けが悪いだけなのかも知れません。
取り敢えず、まずはそのウィークリーマンションの方を見に行きましょう」
考えてみたら悪霊マシマシなこの現場でずっと働いていたせいで穢れが浸透して、少し精神的に弱っていたせいで弱気になっていてありもしない呪いに悩んでいたのかもだし。
まあ、東京のマンションの方は現実に呪いがあるので『ありもしない』と言うのは語弊があるけど。
水垂れだって通常の状態だったら気にもしないか、さっさとウィークリーマンション経営者の方に修理しろと命じていた可能性は高い。
祟り目に弱り目(それとも反対だったっけ?)とも言うし、祟られて気が弱くなっているせいでうっかり他の理不尽も受け入れちゃって余計に弱っていると言う可能性もある。
妹さんから本格的な呪いを受けているなんて切ないから、出来れば水垂れは単に不幸な偶然で、八つ当たり的な呪いは微々たるモノであると期待しておこう。
とは言え。
八つ当たりで自分の家族に呪いを送りつけるなんて、弱いモノだろうが妹さんのカルマ的にはダメージが大きいだろうし、人格的にも終わっているよねぇ。
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