第816話 失敗は成功の母?

「あ、ごめん!」

ぴょいぴょい動かしていたお土産の猫じゃらしモドキが、突っ込んできた源之助の頭にペシンとぶつかってしまったので謝る。


「なんかそれが気に入ったみたいね〜」

如何にも猫じゃらしっぽくて、きっと気にいるに違いない!と碧が力説したミニ箒の様な飾りを手からぶら下げながら碧がコメントした。


基本的に源之助は碧と私が似た様なオモチャを振っていたら碧の方に飛びつくんだけど、今回は私が選んだお土産が気に入ったのか、こちらに飛びついてきたんだよねぇ。


夢中になって追いかけて、うっかりオモチャに頭突きする程だったんだから、これは稀に見る当たりと言って良いだろう。


どうせすぐにボロボロにされるだろうから、また次回行った時に仕入れておこう。

「だね〜。

なんかこう、猫ってこっちの予想を外すのを楽しんでんじゃないかって気がするぐらい、見た目からのこちらの予想とか値段を無視してオモチャのお気に入りを決めるよねぇ」


「ほんとにね。

これは絶対気にいると思ったんだけどなぁ。

シャカシャカ音がするし、チラチラ揺れる部分があるし、理想的じゃない??」

碧が自分の手に持ったお土産を未練がましく見つめる。


「匂いとか味とか、私らには分からない何かに問題があるのかも?」

見た目重視のお土産品であって、猫用オモチャとして開発された訳ではない。

だから匂いとか味が猫の嫌いな刺激性を有する可能性はある。


・・・そう考えると、将来碧と同居を止めることになって源之助と別れたからと新しく猫を飼うことになった場合は、猫用じゃないグッズはオモチャとして提供しない方が良いかも。

源之助だったら猫に有害な物を噛んだりしちゃっても碧が確実に手遅れになる前に癒すだろうが、同居していなかったら場合によっては手遅れになる可能性もある。


まあ、人間の子供用のオモチャでも中国産の安いのに有害な塗料が使われていたのが発覚したとかいったニュースが時折流れるから、安物だったら『猫用』でも猫に良くない物質が含まれている可能性はあるけど。


今時日本製の猫用オモチャなんてほぼ無いだろうから、中国製を避けるのも難しそうだな〜。


ある意味、オモチャを買うんじゃなくってリボンでも振り回す方が良いかも。

でも、あのシャカシャカ音は猫を誘惑する効果が高いんだよなぁ。


「考えてみたら、あの病院跡の仕事って取られる時間のかなりの部分は移動じゃない?

バンをレンタルして源之助を連れて行ったらどうかな?」

碧が未練がましくお土産を源之助の視界に入る場所で振りながら提案した。


「私らが居ないと源之助が寂しがって鳴き続けてるって言うならまだしも、実際には家を出たら5分後には日向で昼寝して居るんだから、仕事へのドライブに同伴させるのは源之助にとっては良い迷惑なんじゃない?

それよりは、一回ごとの除霊を魔力と時間がある限りギリギリまでやりまくって、あっちに通う回数を減らすべきだと思うな」

犬ならまだしも、猫は出歩くのが好きな生き物では無い。

最近は藤山家の碧の部屋に慣れてきた様子だが、バンでの移動はあまり好きでは無い様だし、あっちに泊まるのも『しょうがないなぁ』程度でしかないとクルミも言っている。


そう考えると、慣れない臭いのレンタカーで連れ回して帰ってくるだけなんて源之助にとっては良い迷惑だろう。


飼い主に四六時中べったりで留守番させると分離不安症になる猫も居るらしいけど、源之助はその点図太いからね。

碧の方が分離不安症に近いと思う。

源之助は留守番させても平和に寝ているし、目が覚めても華炎やシロちゃん達と言った遊び相手が居るから、私たちが仕事で日中留守にしていてもそれ程不満はないっぽい。


「やっぱそうかなぁ・・・。

なんかもう、オンラインで出来る仕事に転職したい!

って言うか、私たちはまだ学生なんだから、仕事はもっと断るべきよね!!」

碧がふい〜っと不満げに息を吐き出しながらソファに身を投げ出した。


「まあねぇ。

今回の仕事はゴリ押しされてうっかり交渉してこっちの要求を通したつもりになったけど、考えてみたら最初から交渉なんぞせずに『長期的な遠距離の仕事はやりません』って言ってバッサリ通話を切るべきだったね」

交渉しようとするから負けるのだ。


やりたくない仕事だったら交渉自体を始めるべきじゃなかったね。

まあ、失敗は成功の母と言うらしいし、今後の依頼の扱いに関して今回の失敗を活かしていこう。




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