第815話 悪評は迷惑
「ちょっと悪霊の数が減った?」
三時のお茶とスイーツで一息ついた我々は、まずはコンテナハウスと車両及び機具置き場を清めようと向かう事にしたのだが・・・碧が周囲を見回してちょっと首を傾げた。
「かも?
あのリッチもどきが居なくなって悪霊としての形を保てなくなって消えたか、他の場所に移動したのか微妙に不明だけど。
まあ、周囲の山に散ってくれたんだったらそれはそれで良かったかも?」
ここら辺が特にハイキングや登山に人気な地域な訳じゃない筈だし。
多分。
一応ネットでお勧めハイキングルートみたいのが公開されていない事を確認した方が良いかなぁ。
ここに集められた悪霊が周囲の山に散って、ハイキングに出た人たちを遭難させる様では困るだろう。
まあ、少なくとも真冬にハイキングに行く奇特な人は居ないだろうし、スキー場は近くには無いから大丈夫かな。
自然の中に放置されていたら夏までに落ち着く可能性は高いだろう。
やっぱ人間が一番穢れを生み出すからねぇ。
自然の山に穢れを清める効果があるかは不明だが、悪霊だって穢れが特に溜まっていない山の中を彷徨っていたらそのうち飽きて昇天する可能性も高い筈。
「そんじゃあ、範囲指定お願いね」
コンテナハウスの裏に辿り着き、碧が言った。
「任せて」
機具や車両の盗難や悪戯防止の抑止力を期待してか、現場監督が使うコンテナハウスの裏がそれらの置き場なので、一気にまとめて清められるんだよね。
とは言え、コンテナハウスって窓がないからどのくらい抑止効果があるかは知らないけど。
まあ、いつ監督が姿を現すか分からないって言うのは変な悪戯をしようと思わせない効果はあるかもだが。
だが、本気で盗んだり悪戯する様な人間がいると思って居るなら防犯カメラでも設置すべきだし、そうじゃないなら抑止力なんぞ求めない方が良いんじゃないかという気もするけどね〜。
ちょっとした気の迷いを防ぐ為ってやつかね?
『ちょっとした気の迷い』で工事用車両を盗む人間は居ないと思うが。
どう考えても大きすぎる。
悪戯だって、あれだけ大きいのに変な事をしたら命にかかわりかねないと言うのは馬鹿でも分かるだろう。
・・・もっとも。穢れに影響されて、嫌いな人間への嫌がらせをヤバいレベルでやってしまおうと思い立つ人間は居るかもだが。
もしかしたら?
めいびー?
そう言う穢れに影響された人間だったら、狭い範囲の中で清浄な空気に晒されただけでヤバい悪戯を止めようと思うかは微妙なんだけどねぇ。
それはさておき。
範囲指定用の結界を展開し、碧に頷いてみせる。
碧が結界の中に入って清めの祝詞を唱え始めた。
なんか形のはっきりしない悪霊が2体蠢いている他には怪しい陰はない。
今回はさっきみたいな心臓に悪いサプライズは無いようだ。
まあ、一応の為に何かがあったら即座に対応できる様に回復した魔力を出来るだけ練って準備しておくけど。
碧の祝詞が進むにつれて結界の中が煌めいていき、やがてパンっと碧が最後の柏手をした瞬間に光が広がり、消えた。
当然の事ながら中にいた悪霊も消えている。
ついでに薄汚れて見えていたコンテナハウスと工事車両も心持ち綺麗になった感じだ。
意外と穢れがへばり付いてたんだなぁ。
こっちの現場に持って来て何週間ぐらい経っていたんだろ?
作業を始めてやっぱ問題ありって事で除霊を頼むことになったのか、作業を始める前のチェック段階でやばいと分かって退魔協会へ依頼の話が来たのか知らないが、少なくとも無機物に穢れがへばり付くぐらいの時間は経過していた様だ。
誰かが亡くなったとか大怪我したと言う話は聞いていないから、皆さんラッキーだったんだね。
あのリッチもどきが工事の作業員程度の下っ端は脅す程度で良いと悪霊を制御していたんかな?
そのまま工事を進めていったら『警告はした』って事でどんどん問題が深刻化した可能性は高いが。
いや、経営者とか上の人間にダメージを与えたかったんだったら工事は割高になる程度のちょっかいで抑えておいて、実際に高齢者用施設を建設し終わって開業してから廃業に追い込む方が損失額は大きかったか。
まあ、どちらにせよ。
行き当たりばったりに生者全てに八つ当たりしたがる様な悪霊が無制御に残っちゃったので、出来るだけ急いでここら辺一帯を除霊しちゃった方が良いだろうね。
私らが来てからの方が変な事故が増えたなんて悪評が立ったら迷惑だ。
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