第809話 やば!?
『おやおや。
ここを浄化されちゃあ困るんだよね』
碧が清めの祝詞を唱え始めたら、突然横に暗く重い気配が現れた。
うげ。
これってリッチ?!
物理的には体が無いみたいだけど、リッチ一歩手前ぐらいな怨みと存在の重さを感じる。
リッチ級の悪霊なんて、現世に転生して初めて遭遇した。
さっきまでそれほどの気配は感じなかったのに!
「ここは廃業になったし、その後も10年以上は無駄に悪霊を集めるだけの場所になっていたんだから、もうそろそろ怨みを手放して来世へ向かったら?」
なんかこう、怨みを抱いて死んだっぽいから意図してリッチになった訳では無いようだが・・・これだけ魔素が薄い世界でリッチに成り上がれるなんて、どれだけ死と怨みと苦しみを吸収してきたんだろう?
『私や他の「患者」をあれだけ苦しめたここが、清められて何も知らぬ人間が幸せに過ごす場所になるなんて、許さない!!』
現れた時は表面上は穏やかと言えるぐらいな感じだったのに、一気に嵐が吹き荒れるような感じに怒りを撒き散らして悪霊が怒鳴り散らかす。
・・・狂ってるね〜。
まあ、悪霊って基本的に怨みで我を忘れているのが多いから、デフォで狂っていると言えなくも無いけど。こいつは普通の悪霊よりも更に危うい感じだ。
ブツブツと怨みを呟き続けるのではなく、理性的に話す瞬間もあるからこその危険性。
「ちなみに、ここで何が行われたの?」
『大陸で軍が行っていた実験施設が始まりだったそうだ。戦争で、死体が見つからなくても不思議はない状況で捕まえた捕虜を秘密裏に施設へ運び込んで新しい薬や毒のテストをしていたらしい。
太平洋戦争の戦況が危うくなってからは成果を国内に持ち帰り、伝手があったこの病院で戦争に反対した政治犯を使って研究を続け・・・。
戦後しばらくは大人しく普通の病院として活動していたらしいが、やはり画期的な新しい薬を開発するにはそれなりに試行錯誤が必要だからね。
浮浪者や孤児、借金で夜逃げしようとした人間なんかを使って色々とやり始めたのさ。
精神病扱いで隔離された権力者に都合の悪い人間も、ここに連れてこられて都合よく数年後に「病死」させられていたし』
半ば歌ような口調で研究という名を借りた悪事を霊が教えてくれる。
「あなたは運良くか運悪くか、長生きしちゃった被験者ってやつ?」
これだけ怨みを抱えているならあっさり死んだのでは無いだろう。
『義兄が、苦しみを長引かせるよう死なせるなと金を握らせて依頼したらしくてね。
死なない程度の新薬の被験を選ぶのも大変なんですよと担当医が自慢げに言っていたよ。
不思議な事にね、私の気が狂ったなんて言うのは義兄の言い掛かりだったんだが・・・長くここに居て、他の被験者が死んでいくに連れて幽霊の声が聞こえるようになって、気がついたらそいつらを操って色々と悪戯が出来る様になった。
だから灯油を溢させて、火をつけて全てを終わらせたのさ!!』
狂った様に笑いながら悪霊が教えてくれた。
と言うか、死ぬ前には狂っていたんだろうけど。
多分、この悪霊って黒魔術師の適性持ちだったんだろうなぁ。
あまり大した才能がなくて訓練なしには才能に気付かない程度だったのが、何度も死に掛け、周囲で死んだ人間が悪霊化して敷地が穢れていくうちに半ば生きたままリッチ化したのかな?
前世で読んだ禁書によると黒魔術師は敢えて穢れを吸収し、少量ずつ毒を飲んでゆっくり死に近づくことでリッチになれると言う伝承があった様なのだが・・・どうやらその伝承って真実も含まれていたのかも。
まあ、自発的にやるんじゃ無くってそう言う状況に陥れられて焼け付く様な怨みに身を燃やされるような状況が必要なのかもだけど。
「で、気が付いたら死んだのに意識が残って居たから、ここを廃業に追い込み、何度除霊されようと悪霊を呼び集めた訳?」
元々の悪霊避けに不備があったと言うよりは、あまりにも酷い事をやっていたせいで怨みや穢れが悪霊避けを腐食しちゃった感じっぽいね。
『元々、悪霊は大量に居たからね。
煩い退魔師が来たら敷地の外に退避させて、居なくなったら戻ってくれば良いだけだったのさ。
・・・一部の建物は最近何やら変な風に清められてしまって近づけなくなってしまったが』
ちょっと不機嫌そうに悪霊が呟いた。
なるほど。
悪霊に退避させるなんて流石リッチもどき。
知性がかなり残っていて面倒だね。
ぱん!と碧が祝詞を終えて手を叩く。
一気に結界の中の穢れが清められ、空気が清浄なものになった。
『ぐっ。
許さん!』
悪霊が碧に襲い掛かろうとした。
げ。
やば!?
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