第808話 微妙なタイミング
取り敢えず、魔力を薄く広げる感じで地中に浸透させ、白骨死体とかが埋まっていないか探す。
別に骨を構成するカルシウムとかが特に魔力に引っ掛かる訳じゃあ無いんだけど、死と魂に特化した黒魔術師って何故か死体に対して敏感なんだよねぇ。
地中の埋没物なんかは全然魔力で見つけることは出来ないが、死体だったら分かる。
蛍光色に光って視えると言うか、なんかこう、ヒリっと言うかヒヤっと言うかな感触が魔力的にあるんだよね。
で。
探した結果、どうも骨は殆ど埋まっていない。いないが・・・多分骨を砕いた粉をここら辺に捨てられている感じだ。
瘴気が一番濃厚な部分じゃあ無いけど、周辺の地面全般にヒリヒリ感があるんだよね。
しかも単なる人骨の残骸じゃなくって、苦しんで恨みながら死んだ人たちの骨の残骸っぽい。
「うわぁぁ。
なんか多分、苦しませて死なせた人間の遺体を焼却炉か何かで焼いた後に一部の骨を砕いて適当に埋めたかばら撒いたかしたんじゃないかな。
こう言う場合は掘り出して弔うなんて無理だよね?」
一帯を清める事はできるけど、大江さんにここにヤバい物が埋まっていると知らせても意味はないかな。
「うっわぁ。
そっか、悪霊が出てきてここで殺されたって証言したところで、骨が粉になるまで砕かれていたら証拠隠滅はほぼ完璧なのかも。
ここら辺って昔の流民とか罪人の火葬場所だったのかしら?
それとも何か違法実験でもしていた後始末??」
碧が顔を顰めた。
考えてみたら大昔だったら火葬するだけの火力を得るのも大変だったんじゃないかなぁ?
まあ、山岳地帯だから木を伐採して乾かし、木炭にすればそれなりな火力を得られただろうけど。
でも、こう言う土地が余っている山間だったら土葬の方が楽そうだ。
となると。
ヤバい施設の後始末説が強いかな。
第一、普通に死んだ人間を火葬しただけだったらその死霊が熱いって苦しみを訴えたりしないからね。
一人や二人だったらうっかり仮死状態だった人を焼き殺しちゃってその人が悪霊になるって言うのもあり得るかもだけど、これだけ悪霊が沢山いるとなったら『うっかり』は有り得ない。
「ここで何があったの?」
捕まえていた悪霊に尋ねる。
『苦しい。
熱い。
痛い、痛い、痛い!
燃える〜〜〜!!
止めろ、離せ!
こんな所に閉じ込められるなんて話が違う!!
呪ってやる!!!』
なんかこう・・・この霊って死ぬ前から苦しみで狂っていたっぽい?
う〜ん、もう少し意思疎通のできる霊を捕まえなきゃダメかな。
「なんか、さっき捕まえたこの霊はまともな意思疎通が出来るだけの自我が残っていないっぽい。
ここを調べても証拠隠滅はかなり念入りにやっているみたいだから時間の無駄な可能性が高いし、諦めてここは清めちゃってこれ以上の悪霊の発生を出来るだけ抑えて、あとは他の場所で捕まえた悪霊にもう少し話が通じるのがいたら確認してみるって感じで良いかな?」
この場所を清めずに残しておいても、得られる情報は少ないと思うんだよねぇ。
粉にまで砕いた白骨からも何か情報が得られるのかもだけど、考えてみたら科学的捜査は浄化したって出来るんだし。
「ちなみに、悪霊はどのくらい前に死んだのか、分かる?」
碧が聞いてきた。
ふむ。
捕まえた悪霊と、周囲に漂う悪霊を観察してみる。
「戦後ではあるけど、そこそこ前じゃ無いかな。
多分、30年から50年ぐらい前?」
高度成長期ぐらいまでの服装ってそれなりに時代と共にがっつり変わったからちょっと調べれば霊の年代が分かるんだよね。
15歳で覚醒した後にちょっと興味があったから見かける霊の年代感覚とその服装を調べたんだけど、霊の古さに関する感覚は前世でも今世でもそれほど違いはなかった。
だからここら辺の悪霊はここの病院が営業していた時代に死んだんだと思う。
何か人体実験でもしていたのか、それとも精神病の患者を『治療』という名目で虐待していたのか。
・・・ちょっとやそっとの虐待でここまで苦しむとは思えないし流石に殺しはしないだろうから、新しい治療法や薬の違法な人体実験の可能性が高そうだなぁ。
熱い熱いと言っているのは微妙に不明だけど。
火事でもあって人体実験関係の病棟が焼け落ちたのかね?
「・・・悪事を働いた人がまだ生きている可能性があるかもな微妙な時期だね。
とは言え、もうボケちゃってて何を言われても分からない可能性も高いし、命令を下したような本当のお偉いさんはとっくのとうに寿命で死んでいるだろうから、拘り過ぎても意味はないかな。
取り敢えず、ここら辺を清めちゃってから、随時悪霊を見つけたら確認して、何かしっかりとした情報が入ったら当局に告発するなりネットに流すなりしよう」
溜め息を吐きながら碧が言った。
そうなんだよねぇ。
確実に関与した人間が全部死んでいると言い切れるほど過去の話じゃ無いのが微妙。
まあ、何かしっかりとした情報が分かったら対応を考えよう。
「じゃあ、ここら辺の穢れが酷い部分に結界を張るからその中の浄化をお願い」
何やら不幸な目に遭った被害者らしき悪霊達だけど、少なくとも碧に浄化して貰えば気持ちよく昇天出来るから。
結界を張って、質問に答えられるだけの自我を持つような霊がいないのを確認したら碧にバトンタッチだ。
安らかに眠って下さい。
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