第806話 調べよう
「この事務所スペースはまだしも、工事車両を停める所も保護する必要があるんですか?」
大江さんがちょっと意外そうに聞いてきた。
解体していく建物の順番と作業予定日を教えて貰いながら、工事車両の保管場所を決めておいて動かさないか、動かすなら私たちに前もって言って結界を張ってもらうべきだと言われたのが想定外だったらしい。
「流石に工事車両をひっくり返すだけのパワーがある悪霊は滅多に出てきませんが、悪霊がよくやる嫌がらせって湿度を上げて黴を生やす事なんですよ。
黴だけじゃなくて結露もがっつり出るんで、工事車両が錆びたり壊れたりする可能性が高くなりません?」
エンジンが壊れるほどの水滴が発生する事はあまり無いかもだが、今時の車両ってそれなりに精密な制御用の電子回路が彼方此方に使われているって聞くから、それがショートしちゃったら困るんじゃ無いかな?
マイコンとか半導体の製造が間に合わなくて車の製造自体が止まる話って自動車メーカーの下請け会社の工場で地震とか火事が起きるたびに聞くと思うんだけど。
あれってつまりはそう言う繊細な部品が車にとって必要不可欠な一部だって事だよね?
そうじゃなくても悪霊が車両に取り憑いて、ごく僅かにだけ動きを狂わせることでちょっとした不注意を大事故へエスカレートさせる場合もありそうだし。
ある意味、物理的に破壊するとか物量のバランスを崩して悪さをしていただろう昔よりも、電子回路で精密に制御された最新式の工事車両とかが多い現代の方が悪霊による悪意ある悪戯に弱い可能性は高いだろう。
まあ、悪霊そのものが江戸時代とかからの古い霊だったら力任せに体当たりするとか湿度を上げて黴を生やす程度のことしかしないだろうけど。
比較的現代に近い時代の死者が悪霊になっていると、やらかしてくる嫌がらせの種類が多いくなるんじゃ無いかなぁ。
まあ、悪霊になると知性が退化する事が多いみたいだから、電子回路とかを壊そうと考える悪霊がどのくらい居るかは不明だけど。
しっかし、マジでこの病院跡地の悪霊はどこから来ているんだろ?
以前来た時は元患者が多かった気がしたんだけど、再度湧いてきた今回のはどこから来た悪霊なのか、まだ確認してないんだよね。
ちょっと大江さんとの今日の除霊範囲と今後のスケジュールに関する話し合いが終わったら、歩き回って悪霊の来歴を調べてみようかな。
敷地内に壊された慰霊碑でもあるならそれを清めた方が良いだろうし。
と言うか。
「ちなみに、この敷地内もしくは近くに壊れたり放置された古い慰霊碑とかあったりします?」
大江さんに尋ねる。
「一応敷地内は歩き回ってみたんですが、文字が彫られた岩はありませんでしたね。
まあ、ちょっとした穴は何箇所かあるのでそう言ったところに埋もれていたら分かりませんが。一応県も近辺のお年寄りや寺杜に尋ねてみたそうですが、慰霊碑に関する昔話は見つからなかったそうですよ」
大江さんが教えてくれた。
おお、出来るね〜。
ちゃんと調べたんだ?
まあ、慰霊碑が無くてもひっそりと村が一つ伝染病を広めぬ為に往来を封じられて全滅するとか、盗賊に住民が殺されていつの間にか拠点として乗っ取られていたとか、腐れ魔術師の実験台にされて住民が全員姿を消すなんて事は前世ではちょくちょくあったんだけどね。
でも、前世は慰霊碑ってあまり作らなかった。
ある意味、死者ってちゃんと処理しないとマジもんのゾンビやレイスになって生者を襲ったから、悪霊になって出てこない様にかなり念入りに死体を弔うんで、追加で慰霊碑を作ってもあまり効果は無かったんだよね。
日本では盗賊とか魔術師の実験なんて言う集落死滅原因はあまり無さそうだけど、戦国時代だったら戦いの時にどさくさ紛れにって言うのはあったのかも?
もしくは天候が悪かったり病気が広まって生活が行き詰まった挙句に飢えて離散しちゃったとか。
まあ、取り敢えずは悪霊を何体か捕まえて、どっから来たのか確認してみようかな。
ホットスポットになっちゃった原因解明は契約の一部じゃあないけど、分かっている方が対処しやすいかもだし。
と言う事で。
「祓っちゃう前に、ちょっと悪霊達を捕まえてどっから湧いてきたのか確認しても良い?」
今日浄化予定のナンチャラ記念棟に向かいながら、碧に提案した。
「確かに、良いアイディアかも。
前回の時は当然病院で死んだ人の霊だと思っていたけど、他の連中が密かにサボっていたのを退魔協会の職員が見逃したんじゃない限り、病院での死者は全部昇天している筈だもんね。
悪霊がどんなタイプかを調べたらどこが原因なのか分かるかもだし」
碧が頷いた。
まあ、碧ががっつり清めの術を掛けて、私が状態維持用の結界を張っていけば原因がそのまま残っていても数年ぐらいは大丈夫だとは思うけど。
でも、気になるから。
帰りの電車までまだ時間の余裕はあるし、ちょっと調べちゃおう。
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