第805話 出来るだけ協力するよ〜
「この度は遠方から来ていただき、どうもありがとうございます」
病院跡地に着いた私たちは、現場監督用(多分)のコンテナハウスみたいな所に案内されて、そこで責任者らしきお姉さんに挨拶されていた。
おお〜。
男尊女卑が蔓延る建築業界でも、人手不足もあって女性が増えてきたと記事で読んだ事があったが・・・マジで責任のある地位に女性が居るとは。
都会のおしゃれなマンション建築でもやっているかと漠然と思っていたが、考えてみたらこう言う人気のない解体工事だからこそ女性でも現場監督を任せられたのかも?
挨拶の感じが良いし、ここは抜擢された仕事が上手くいくようできるだけ協力してあげよう。
別に嫌味なおっさんだったとしても報酬分の仕事はしたけどさ。
「いえいえ。
長期な泊まり掛けはちょっと困るので除霊は細切れになりますが、出来るだけ効率よく作業が出来るようしっかり話し合って一緒に働いていきたいと思っていますので、こちらこそよろしくお願いします。
全部の解体分まで込みの契約なので、作業のスケジュールがずれてもある程度は対応できますし」
碧も監督さん(大江さんと言う名前だそうだ)が気に入ったのか、愛想良く応じている。
「そう言って頂けると助かります。
何分人件費が上がった上に人手不足も酷いので、スケジュールがかなりギリギリで組まれる事が多くて・・・他の現場で問題が起きた際にも皺寄せがあちこちに波及するんですよ」
困ったように溜め息を吐きながら大江さんが言った。
効率良く作業を組もうとするのは良い事だけど、効率の為ではなく人がいないからの苦肉の策だとすると中々問題だねぇ。
「連絡が取りやすいようにメッセージアプリのIDを交換しましょうか。
そう言えば、ここって取り壊しが終わったらどうなるのか、ご存知ですか?」
あまり仕事にメッセージアプリなんて言うカジュアルな手段を使うのは褒められたものじゃ無いかもだが、現場監督だったら一々メールを書くよりはメッセージアプリの方が楽だろう。
メールだと何故か時々迷惑メールに勝手に仕分けられて目に入らない事もあるし。
「ここは複数の街からの便が良い上に、災害時にも危険があまり無い良い場所だからと言う事で高齢者用施設を作るらしいですね」
大江さんが教えてくれた。
マジ??
確かに、建設できる場所が限られている場合なんかに川のそばへ高齢者施設を建設して、集中豪雨とかで川が氾濫しそうになっても高齢者を簡単に避難させられなくて逃げ遅れ被害が起きるなんて感じの報道が時々ある。だからそう言う心配がない場所を使いたくなるのは分かる。
分かるが・・・。
死者がどうしても多い病院でちゃんと悪霊避けをしなかったせいで悪名高いホットスポットになっちゃったらしき場所に、今度は高齢者施設を作るの??
それを決めた政治家なり役人なり企業の人間は何を考えていたんだろう?
高齢者施設だって要は人生の最後に一人で生きられなくなった高齢者が移り住む、現代版姥捨山なのだ。
山に捨てられて凍え死んだり飢え死にしないだけで、死を待つ場所である事に変わりはない。
よっぽど腕のいい術者が完璧な悪霊避けを設置してそれをしっかりメンテしないと、また悪霊だらけになるんじゃない??
つうか、幾ら最初の悪霊避けの設置方法に問題があっただろうと言っても、病院の利用が終わって追加で死者が出なくなった状態で悪霊を全て祓った筈の敷地がまた悪霊だらけになったって事は、場所自体も悪い可能性が高い。
そう考えると高齢者施設を建てるのには向いてない場所なんじゃない〜?
まあ・・・施設運営者側にしても、利用者の家族側にしても、適度な頻度で利用者が死んじゃう方が望ましいのかもだが。
「うわぁ。
そうなんですか・・・」
碧もちょっと引いている。
「海際は津波が危険だと言う声もありますし、山を削って作った宅地も地震や大雨で地滑りする危険が高いですから。
地形的安全性が十分な上で大きな敷地は、訳ありな場所しか残っていないと言うのもあるんですよね・・・」
大江さんが苦笑しながら言った。
まあ、悪霊避けをしっかり設置すれば良いんだし?
私たちは問題なく工事が出来るように協力すれば良いか。
「じゃあ、まずは解体する建物の場所と順番、あと作業員が休む場所や機器・車両を置く場所なんかを教えて下さい」
悪霊祓いは元々あった病院施設に関してだけの契約だが、このコンテナハウスにもちょっと穢れが溜まり始めているから、作業員らが使う場所にも結界を張っておいてあげる方が良いだろう。
男優先な業界での折角の女性進出なんだ。
出来るだけケチがつかないよう、協力してあげよう。
どんな業界でも女性もしっかり働ける社会にする事が、周り回って女性にとって暮らしやすい社会に繋がると思うし。
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